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25 そのころの王太子殿下は

 

「殿下! 王国北部の村々よりがけ崩れが多数発生しているとの報告が上がっております!」

「道も塞がれ、孤立状態であると――」

「西部では川や泉の水がよどみ、作物が腐り始めているとの報告が!」

「このままでは大規模な飢饉が発生する可能性も――」

「東部では砂嵐により甚大な被害が――」

「南部では深刻な干ばつが――」

「ええい、うるさい! それに対処するのが貴様らの仕事だろう!?」


 口々に国内の深刻な被害の報告をあげる官吏を怒鳴りつけ、王太子セルマンは一人執務室を後にした。


(いったい、どうなっているんだ!?)


 ここ数日で、急にいくつもの自然災害が同時発生している。

 しかも原因は不明だ。まさに天に呪われたとしか思えない状況に、セルマンはギリ……と奥歯を噛みしめた。

 父である国王が不在である今、国を預かっているのは王太子であるセルマンだ。

 だが、こんな未知の事態に対処などできるはずがない。


(せっかくあの邪魔者を追放してやったのに! これではカティアとの婚約式もあげられないじゃないか!)


 幸いにも今のところ王都に異常はない。セルマンとしてはさっさとカティアとの婚約式を執り行いたかったのだが、そう口にすると「今は国民の安全を最優先するべきだ」と大臣に諫められてしまった。


(クソっ! あのジジイも適当な理由をつけて追い払ってやるか)


 そう心の中で悪態をついた時だった。


「殿下……! どうかお話を聞いてはいただけないでしょうか……!」


 セルマンの目の前に立ちふさがる者がいた。


(確か、こいつは……)

「不敬だぞ、神官長」


 神殿に仕える神官や巫女たちの長――神官長だ。

 初老の男性である神官長は、セルマンの記憶にあるよりもずっと老け込んだ顔で懇願した。


「殿下、どうかお考え直しを……! 今すぐ、アーシャをこの国へ呼び戻すのです!!」

「何を言うか、神官長。あいつは聖女の座を穢した大罪人だ。この事態もきっと、アーシャへの天罰が――」

「いいえ、誤解です、殿下! アーシャは間違いなく聖女の座にふさわしい素質を持っていました」

「なんだと!? 俺の裁定が間違っていたとでも言いたいのか!?」


 かっとなって怒鳴りつけると、神官長はじっと俯き……首を縦に振った。


「……えぇ、殿下の判断は間違っていたと言わざるを得ないでしょう」

「なっ……」

「アーシャは歴代聖女の中でもとりわけ強い力を持っていました。大精霊も彼女を追って国を離れたようです。聖女と大精霊を一度に失って、残された精霊たちは非常に不安定になっております。ここ最近の天災は、精霊の暴走によるものとみて間違いないでしょう。アーシャはきっと生きているはずです。ですから殿下、どうかアーシャを国に呼び戻して――」

「そうか、貴様の言いたいことはわかった」


 セルマンがそう言うと、神官長が一瞬だけほっとしたような表情を見せる。

 だが次の瞬間、セルマンは盛大に舌打ちして叫んだ。


「誰ぞ! この錯乱した老いぼれを捕らえろ!! 虚言をまき散らし、国家を騒がす大罪人だ!!」

「殿下……!」


 一瞬にして絶望の表情を浮かべた神官長を、何人もの兵士がすぐさま捕らえる。

「どうかお考え直しください!」と叫びながら連行されていく神官長を冷たい目で見据えて、セルマンは拳を握り締めた。


「まったく、どいつもこいつも……!」


 聖女など、神殿など、ずっと不要だと思っていた。

 精霊の加護など迷信に決まっている。そんなものにいちいち振り回されるのも馬鹿らしい。

 あの老いぼれはこの自然災害にかこつけて、カティアを引きずり落とし、自分の息のかかったアーシャを王妃の座に据えたいのだろう。

 まったく、反吐が出る。欲にかられた人間は実に愚かだ。


「セルマン様、いったい何があったのですか……?」


 騒ぎを聞きつけたのが、不安そうな顔のカティアが駆けてくる。


「大丈夫だ、カティア。君はかならず私が守ってみせる……!」

「セルマン様……」


 震えるカティアを抱きしめながら、セルマンは強い憤りを感じていた。


(アーシャ、いつまでも邪魔な女だ……!)


 セルマンはまだ、己の致命的な過ちに気づいてはいなかったのだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 国王はいつ帰ってくるんだろう?王子の暴走で聖女が追放された時点で優秀な大臣や将軍や神官なんかは早馬で国王に緊急事態の連絡をしてるはずだけどまだ時間がかかるのかな?と言うか王子といえどま…
[一言] カティアが魔女として処刑されるまであと○○日(笑)
[一言] あ。久しぶりにバカが出てきた~~。 気持のいい程のクズっぷりですね~。 国民が可哀そうだけど…。 いったいいつ気付くかなぁ~。ふふふ。
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