23 ギガントスライムを討伐です
「わー!?」
《やば、一撃必殺じゃん》
間一髪、土の精霊アースが巨大な盾を展開してくれたおかげで、アーシャはスライムの液まみれにならずに済んだ。
《ピュイィ……》
盾の内側へ、慌てたようにユニコーンの赤ちゃんが逃げ込んでくる。
その体に付着したスライム液を、アーシャは丁寧にふき取ってやった。
「私を助けてくれたんですよね、ありがとうございます」
《ピュイ!》
赤ちゃんにしてギガントスライムを討伐するなど、なかなか見どころがありそうだ。
アーシャは賞賛の意を込めて、ユニコーンの赤ちゃんを抱きしめた。
そんな赤ちゃんの足元で、飛び散ったギガントスライムの破片がもぞりと動く。
「あれ?」
もぞもぞと動いていたゼリー状の破片は、近くの破片と合体して少しずつ大きさを増していく。
《オイオイオイ、また合体してギガントスライムに戻るつもりかよ》
「それは困りましたね……」
そうなったらまたギガントスライムを倒さねばならないだろうが、倒してもまた合体されたら意味がない。
さてどうするか、と思案するアーシャの目の前で、変化は起こった。
《見てください、スライムの属性が変わっていきますわ》
ウィンディアの言う通り、光の雨を浴びた小さなスライムの体は、だんだんと色を変えていく。
まるで毒素が洗い流されるかのように、気が付けば小さなスライムの体は乳白色へと変わっていった。
「これは、ホーリースライムだな」
「魔王様!」
いつの間にか、アーシャの傍らには魔王ルキアスが立っていた。
彼が足元のこぶし大のスライムを拾い上げると、スライムはぷるんと揺れた。
「ホーリースライムは既に絶滅した種だと思っていたが……なるほど、これは興味深い」
彼は手のひらに乗せたスライムを、アーシャの方へと差し出した。
「ギガントスライムがはじけて、無数のベビースライムへと変化したようだ。ベビースライムに害はないので安心するといい」
おそるおそる受け取ったアーシャの手のひらの上で、小さなスライムがにっこり笑う。
「かっ、かわいい……!」
ぷにぷにの小さなスライムは何とも愛らしい。
頬を緩ませながらぷにぷにとスライムをつつくアーシャに、ルキアスは告げる。
「ベビースライムは周りの環境によって、どんなふうに成長するのかが変わる種族だと言われているんだ。おそらく先ほど戦ったギガントスライムはこの毒地の影響であんな風に成長したようだが……一度ベビースライムに戻り、浄化の雨を浴びたことによりホーリースライムへと変化したのだろう」
「そんなことがあるんですね……」
無数のホーリースライムたちは、ぽいん、ぽいんと跳ねながら残った瘴気を浄化していく。
「この子たちがいてくれれば、この場所も大丈夫そうですね」
「あぁ、そうだな」
ルキアスはアーシャの片方の手を取った。
そして、突然その甲に口づけたのだ。
「!?」
「礼を言おう、聖女殿。君のおかげで、領地改革も一歩前に進みそうだ」
「はははは、はい!」
「……? 人間は礼を言う時にこうすると聞いたのだが、違ったのか?」
「ち、違いません……」
アーシャはたじろぎながらも、ルキアスの問いを否定することはできなかった。
確かに、高貴なる人々の間では敬意と感謝を示す時にこうすることもあるようなのだが……。
(魔王様! もっとご自身の破壊力の高さを自覚してください!!)
まさに「魔性」ともいうべきなのだろう。
彼のように見目麗しく妖しい魅力を秘めた相手にこのようにされると……それだけでクラクラしてしまうのだ。
《てめぇぇぇぇ! 誰に許可貰ってアーシャに触ってんだコラ!!》
《今すぐその手を浄化するべきですわ!》
《さすがに過保護すぎるんじゃない……?》
わあわあと騒ぐ精霊たちの声を聴きながら、アーシャは忙しなく鼓動を刻む胸にそっと手を当てた。




