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17 こんな気持ちは初めてです

「どうして、ここに……」

「起きたら君が誘拐されたらしいと報告があったので、迎えに来た」


 ルキアスはそう言って、優しく微笑む。

 その言葉を聞いた途端、アーシャの胸がじぃんと熱くなる。


(迎えに、来てくれた……)


「さぁ、帰ろう」

「はい……」


 見れば、ルキアスの背中からはまるで蝙蝠のような黒い翼が生えている。

 彼はアーシャを抱いたまま翼をはためかせ、そのまま飛び立とうとしたが――。


「待てぇ、ルキアス! 俺と勝負しろ!!」


 バルドの馬鹿でかい怒声が砦に響き渡り、アーシャは思わず耳を押さえてしまった。

 ルキアスは面倒くさそうにバルドの方を振り返る。


「……何だバルド。俺は忙しい。悪いが帰らせてもらうぞ」

「うるせぇ! いいから俺と勝負しろ!」

「くだらない。意味もなく争い戦力を消耗して何になる。オーガ族とは先の戦いで同盟を結んだはずだが、忘れたのか」

「……あの時は本調子じゃなかった。今度こそは俺が勝つ!」

「悪いが拒否する。俺も魔王だ。無意味な戦いに時間を費やすほど暇じゃない」

「はっ、嫁を放置してグースカ寝てたくせによく言うぜ」


 嘲るような言葉に、ルキアスの眉がぴくりと動く。

 彼は心底不快そうに、冷たい視線でバルドを睨みつけた。


「……弱い奴ほどよく吠えるとは、まさにこのことだな」

「うるせぇ! 覚悟しろ!!」


 バルドが勢いよく地面を殴ると、そこから発生した衝撃波がルキアスとアーシャに襲い掛かってくる。


(まずい、早く盾を……!)


 アーシャは慌てて精霊アースを呼び、盾を召喚しようとした。だが、その必要はなかった。


「跳ね返せ」


 ルキアスが手を差し出すと、その先に大きな魔法の防壁が現れる。

 そして衝撃波が防壁に到達した途端……なんと、そっくりそのまま衝撃を跳ね返したのだ。


「うおぉぉ!?」


 バルドは自らが放った衝撃波をそのまま受け止める羽目になり、勢いよく吹っ飛んで背後の壁に激突した。

 衝撃で壁が崩れ落ち、辺りに瓦礫が積み重なる。


「兄貴!?」


 見守っていたオーガ族たちが、崩壊した壁に埋まったバルドを助け出している。

 ルキアスはその様子を一瞥すると、アーシャを抱き上げたまま悠然と歩き出した。


「念のため聞いておくが、怪我はないか?」

「ありません。バルドさんには丁寧にもてなしていただきましたので」

「そうだろうな。あいつは粗暴な奴だが、昔から女には優しかった」

「昔からのお知り合いなんですか?」

「あぁ、あいつが一方的に突っかかってくるだけだが」


 砦の外に出たルキアスは、あらためてばさりと翼を広げる。

 その動きに、トテトテと後をついてきたモフクマたちが慌てたように彼の足元にしがみついた。

 モフクマがしっかり掴まったのを確認すると、ルキアスは地面を蹴るようにして大空へと飛び立った。


「わぁ……!」


 先ほど飛び立ったばかりの地面が、砦が、どんどん小さくなる。

 見上げれば、夜空の星々や月に手が届きそうだ。

 大空から見る初めての光景に、アーシャは思わず歓声を上げた。

 嬉しそうにはしゃぐアーシャを見て、ルキアスは口元を緩めた。


「怖くはないのか?」

「全然です。私にも魔王様みたいな翼が欲しいくらい」


 そう言うと、ルキアスはおかしそうに笑った。


「君に翼を生やしてやることはできないが……こうして空を飛びたくなったら俺に言うといい。いつでも君の翼となろう」


 しっかりとアーシャを抱え、ルキアスはスピードを増して魔王城へと飛んでいく。

 月明かりに照らされる彼のシャープな横顔を眺めながら……アーシャは何故かドキドキと胸が高鳴るのを感じていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 夜行性という点や翼が生えるということを考えると魔王の種族は吸血鬼か? [一言] いちいちモフクマの行動がかわいいな
[良い点] 魔王様、お強いですね…!それに紳士的だしクールで格好いいです! イケメンと夜空の下で密着デート?なんてしたら、ドキドキが止まらないですよね…!アーシャは恋に落ちちゃったかなと思ってニヤニヤ…
[一言] >「君に翼を生やしてやることはできないが……こうして空を飛びたくなったら俺に言うといい。いつでも君の翼となろう」 言われてみたい…既に甘々モード突入ということでよろしいでしょうか?
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