13 とりあえず門番を始めました
「……いったい何をやってるんですか、あなたは」
やって来たのは、アーシャを魔王城へ連れてきた魔王の配下の青年だった。
名前は確か――。
「おはようございます、ファズマさん」
「おはようございます、聖女様……じゃなくて! なんであなたがこんなところにいるんですか! なんですかこの私の魔獣たちの腑抜けた態度は!」
主人であるファズマにびしりと指をさされて、仰向けでごろごろと甘えきっていたドラゴンたちは慌てて起き上がる。
そして、威嚇するように恐ろしげなポーズを決めたが……残念ながら、今となっては少しも怖くなかった。
「まったく、会ったばかりの人間に懐柔されるとは嘆かわしい。これは躾け直しが必要なようですね」
「グルルゥ……」
「そんな甘えた声を出してもダメなものはダメです!」
こんこんと魔獣たちに説教するファズマを見ていて、アーシャはくすりと笑ってしまった。
その拍子にファズマがこちらを向いて、今度はアーシャに説教を始める。
「あなたもですよ、聖女様! 何でこんな朝っぱらから厩舎をふらふらしているんですか!」
「ファズマさん、あんまり怒ってばかりだと健康に悪いですよ」
「誰のせいだと思ってるんですか、誰の!」
ファズマの剣幕に、モフクマたちは怯えたようにアーシャの足にしがみついてくる。
そういえば、彼は魔王ルキアスの四天王の一人だったか。戦闘能力の低いモフクマにとっては、さぞや恐ろしい存在なのだろう。
よしよし、とモフクマたちの頭を撫でながら、アーシャはファズマに向かい合った。
「ごめんなさい、ファズマさん。特にやることがなかったので、私がモフクマさんたちに頼んで仕事を手伝わせてもらってたんです」
衣食住の世話になる以上、魔王城になんらかの貢献をしなくては。
そう説明すると、ファズマはぴくぴくとこめかみをひきつらせ、大きくため息をついた。
「なんというか……あなたのような型破りな人間は初めてです。わかりました、私の方から魔王様にあなたの処遇について掛け合ってみますので、今日は大人しくしていてください」
「ファズマさんはお仕事ですか? お手伝いさせてください」
「結構です! 暇ならば魔王城の門番でもやっていてください! ただいま欠員中なので!!」
そう怒鳴ると、ファズマは足元にひっついたモフクマごとアーシャを厩舎の外に追い出した。
《なんだよ、あいつ》
《あんなに怒鳴り散らして下品ですわ!》
《四天王最弱って感じだね》
《うっかり崖から落ちるとか間抜けな死に方しそう》
精霊たちの散々なファズマ評に、アーシャは苦笑いした。
「まぁまぁ、魔王城の門番の仕事が空いているようですし、今日は門番を頑張りましょう!」
「マー!」
どうやらモフクマたちも一緒に来てくれるようだ。
アーシャは意気揚々と足を進め、魔王城の城門へとたどり着いた。
まがまがしいオーラを放つ二体のガーゴイル像に挟まれた、いかにもな雰囲気の門だ。
だが今はパカーンと開き、客だろうが侵入者だろうが通し放題になっていた。
「なるほど、確かに門番さんはいないようですね……」
《セキュリティ意識の欠片もねぇな》
《あっ、ここに何か書いてあるよ!》
「どれどれ……」
水の精霊アクアが、何かに気づいたようにガーゴイル像の台座の裏を指さす。
回り込んでみると、表からは見えないように張り紙がしてあった。
『門番のケルベロスが妊娠したため、産休を頂きます。門番不在の間、魔王城の皆さまにおかれましては、不審者などが入り込まないようによりいっそうの警戒をお願いいたします。
・怪しい者を見かけたら、とりあえずガンを飛ばしましょう。威嚇になります。
・万が一侵入者を発見したら、すぐに大声で近くの四天王に知らせましょう。
・モフクマは不審者に懐柔される恐れがあります。「いかのおすし」を徹底してください』
《……なんていうか、魔族も大変ですのね》
よく見ると、張り紙には先ほど会ったファズマの名で署名がしてあった。
「なるほど、それで私が通るたびに皆さんが睨みつけてきたわけですか……」
あれはただ単にアーシャが気に入らなかったわけではなく、不審者対策を兼ねていたようだ。
魔王城の意外な努力に感心していると、不意にどこかからドドドド……と地響きのような音が聞こえてくる。
「マ! 何か来るクマ!」
モフクマがぴょん、と飛び上がり、怯えたようにアーシャの足元にしがみついた。
「あれは、いったい……」
目を凝らせば、地平線の向こうから砂埃を巻き上げながら、何かの大群がこちらに向かって突進してくるではないか。
話数表記ミスで一話抜けてたので9話と10話(修正後11話)の間に1話入れました!
修正前は魔王様が意味ありげに口を開いた次のシーンではもう食事が終わってました。
ご飯食べるために口開けただけかい!っ感じでしたが、修正後10話でちゃんと会話する場面が入りました…笑




