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令和たぬきつね合戦 紅蓮 -GRadiEnt Note-  作者: 紅世
出会い編 ヒロイン登場。
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第二話 出会い 巻の弐

×××

 空が夕焼けで染まったゴミ山に、ぬらりひょんの旦那の説教がガミガミと響いていた。一応、三人の膝が痛まないよう、畳が一枚敷いてあるところに温情が感じられるが、「それならこんなに長い間拘束しなくても」とメタローは嘆息する。


 先ほどまでの話によると、旦那の起こした癇癪は瞬間的に両陣営の何人かを餌食にしたらしい。一頻り光景を楽しんだ天狗がうちわで雨雲を消し去ってくれたことで、それ以降の被害は防がれたが、それまでの稲妻がゴミ山にも当たっていたのがよくなかった。整えられていた足場は悉く崩れ去ってしまったのだ。その為、足の踏み場がなくなり、もはやどうにもならずに天覧試合は完全に中止。合戦は後日ぶっつけ本番ということになったのだと言う。

その時、ゴミ山の整備を三匹にやらせようという案も出たのだが、「そもそもの準備に狸と妖怪で集団的に計画を立ててやってたものを、あのバカどもだけに任せたらいつ終わるか分からない、またサボるんじゃないか」との結論に至ったらしい。

 信用がないやら、間違って無いやら、ありがたいやら。その旨に三匹は深々と頭を下げて感謝を述べたが、天狗は全てを見通しているかのように笑って許してくれた。

 正直、ぬらの旦那が癇癪の手加減を知っていれば再戦できたのではないかとメタローは考えたが、それを言えば説教が長くなるだけだと思い、やめておいた。


 そんな頭の整理を終え、退屈し始めたメタローが、ふと横を振り向くと、ゴロが土下座の姿勢のままこちらを見ていることに気付いた。メタローですら気が散り始めたのだから、ゴロが限界を超えているのは当然とも言えた。幸い、ぬらの旦那は自分の説教に夢中になっているし、自分たち三匹とも姿勢だけは頭を下げている。これなら密談を行ってもバレることはないだろうと、メタローはゴロに声をかけてやった。


「どした、ゴロ」

「あ、ああ。あのさ」


 ゴロにしては歯切れが悪そうだ。ニヤニヤと頬を染めて気色が悪い。そんな言いよどむようなことが彼にあるだろうかと、メタローは嫌そうに急かした。


「なに」

「さっきの子、知り合いか?」


 さっきの子というとアカネのことだろうか。人間様を過剰に敬う奴らを嫌っているだけで、人間様への尊敬自体はゴロにもあるのかも知れない。

  見知らぬ相手であり、人間であり、女性。育ちも良さそうで、狸には少ないタイプ。であれば、流石にゴロでも照れるのかと、メタローは察した。

 実際メタローも、先ほどアカネとの接し方に困ってしまったわけで、この茹で狸の気持ちは分からなくはなかった。

 自分と行動を共にする以上、ゴロが彼女と次に会う機会もあろう。その時に細かく紹介するのも手間だろうと、メタローは打ち明けることにした。


「いや、実は知らないんだ。俺がたまたま子狐を助けたら、その友達みたいで」


 二匹の話が聞こえたのか、ハカセも反対側から茶々を入れてくる。


「肌の白い綺麗な子だったな。あんなに綺麗だと、狐が化けてたりして」

「まさか。ベビーカステラの匂いはしたけど」


 片目の子狸は淡々と返答しながら、内心はアカネとの緊張したやり取りを思い出してしまい、ゴロほどではなくとも照れそうになったが、友人たちに悟られても面白くないな、と頭を振って前髪で表情を隠した。


「めっちゃいいにおいじゃんか!」


 それを聞いたガキ大将の表情が本気で羨ましそうに崩れる。

しかし、その顔は完全に食欲に脳が支配された顔であり、色恋より食欲が勝った瞬間を垣間見たハカセは苦笑いを浮かべた。

 それに対し、メタローはこれまでになく真面目な顔で、


「確か中国だと桃の匂いがする女の子がいたと言うし、人間の女の子はそういうもんなのかな……?」

「……」


 ハカセは怪訝そうに目を開くだけで、敢えて無言を貫いた。

 一方、ゴロは全く気にしない顔で、


「夜会う約束したんだからよ、絶対行こうぜ」

夜店にも行きたいし、と付け足しながら笑った。

 彼は明らかに後者が本命であるが、突っ込んでは負けだとばかりに、

「まぁ、そうだなあ。狐なんかにも優しい子なんだろ? そう考えると、良い人間の可能性は高いよね」


 ハカセは話題を変えようと、そう頷いた。


三人とも行くことには異論なし。メタローも最早、「彼女に狐との関わりがあるならどこかでもめ事があるかも知れないが、その時はその時だ」と割り切っていた。


 メタローの様な考えるタイプであれ、ハカセの様にちゃんと理屈にうるさい狸であれ、結局狸は楽天家なのである。

 

すると、夜店を楽しめるという喜びに状況を忘れたのか、ゴロは豪快に笑った。


「ちげぇねえや!」


 その声は流石に大きく、旦那の酔いを醒ますほどであった。

 妖術で冷やされたのかと思うぐらいにシンと冷えた空気の中、


「あはは……」


 ゴロの空笑いに旦那はニコリと笑みを返すが、当然その目は笑っておらず、額を含めた大きな頭いっぱいに血管がビキビキと浮かび上がっていた。


「反省が見えんなァー!」

「いでぇー!」


 妖怪の大将に相応しき拳骨の三連発に、ゴロは痛みに絶叫し、ついでに殴られた残りの二匹は畳へ頭ごとめり込んだのだった。


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