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 こうして王子と書庫デートが始まった。王子は読書の邪魔になるのからと、書庫で働く全ての人に下がるよう指示した。


 まぁ、書庫の外には警備騎士がいるのだけど。

 王子は書庫の奥の机に座り、私は離れた位置に本を持って座った。


「リチャード王子殿下、私はここで時間になるまで、静かに本を読んでいますわ」


「……あぁ、分かった」


 ふうっと、王子に何度めかのため息をつかれても、見て見ぬ振りをして本を読み始めた。


(あ、ここにふかふかオフトゥンがあれば、すぐに横になるのに)




 ……


 ……


 もふ? もふ……もふん?


 もふもふ……と私の顔がもふもふで気持ち良い。

 寝転ぶオフトゥンも家よりもふかふかで寝心地、触り心地がいい、憧れの高級オフトゥン。


 なにより近くの毛並みがいい……ん? 毛皮? ちょっと待て、このもふ、もふ……温かい。


「本物?」


 パチッと目を覚まして、驚く私の頭上から大きなため息が聞こえた。


「やっと目が覚めたかミタリア嬢……君は気を抜きすぎ、安心しすぎだ。その大胆な寝相で、この狼の僕に襲えと誘っているのかな?」


「にゃ? 大胆な寝相? 銀狼が私を誘うにゃ?」


「この状態で襲わなかった、僕を褒めろよ」


 真っ白な天蓋付きの高級ベッドにへそ天な私と、シルバー色の毛並みをしたもふもふ狼が仲良く寝そべっている……王子と書庫デートをしていたはずなのにと、辺りをキョロキョロ見回していた。


「どうしたんだ、ミタリア嬢?」


「あの……どちらの狼様で?」


「はぁ!」


 首を傾げてそう聞いた私に銀狼は目を細めて、大きなため息を吐くき、私のもふもふなお腹に顔を乗せた。


(お、重い!)


「あのさ、僕は狼族の王子なんだけど……ミタリア嬢は忘れたのかな?」


 すっかり忘れていた……王子はゲームの中でも狼に獣化していた。


 私が狼を王子だと気付かなかて、へそを曲げたらしく、長い鼻でぐいぐいと私のもちもちなお腹を押す。


「し、失礼しましたリ、リチャード王子殿下。あの、えーっと、その、王子殿下も獣化するにゃん」


 適当な切り返しをした私に、お腹の上で馬鹿にしたように、今度はジトーッと青い瞳に睨まれた。


「その言葉を君に返すよ。僕は原種の血が濃い狼王族の王子だ! まさか君が獣化するとはね……人払いをしていたからよかったよ。いつもなら人が出入りする書庫で寝て、大切な魔石ペンダントを外すしてしまうとはね……そのようだと、君は簡単に誘拐されてしまうぞ!」


 ――誘拐!


「そうにゃ、魔石ペンダント……」


 私が獣化してるということは読書中にうっかり寝ていまい、何かの拍子にペンダントが外れたんだ。ペンダントを外してしまった自分が悪いのだけど、そのあと王子にへそ天ご披露は恥ずかしい。


 散々気をつけなさいと、両親にも言われていたのに、暖かい季節はどうしてもへそ天してしまう。


 グリグリ。


「リチャード王子殿下、私のお腹からどいてくださいにゃ」


「はぁ? この僕に命令をするのかな?」


「……ひっ!」


 ――こ、ごもっともです!



「……ミタリア嬢は獣化するし、君が僕の『運命の番』か?」

 

 その言葉にドキッとした……違う、王子の番いは私じゃない、王子の番はヒロインだ、それは断言できる。


「違いますにゃ、私はなぜか獣化しますが……殿下の『運命の番』ではありませんにゃ!」


「違う、ちがうと言い切れるのか?」


「そ、それは……」


 さらに、ぐりぐりとお腹に顔を埋められた。

 この王子から逃げるには……足爪でケリケリ王子の顔を引っ掻けばいいのだけど。それをやってしまったら、私の生涯がいま終わる。


 ――グリグリ、グリグリ。


「リチャード王子殿下、それをやめてください。訳は言えないけど……私ではありませんにゃ」



 だって、王子はこれから学園で可愛いヒロインと出会う。


 ひょんなことから兎になってしまうヒロイン、慌てるヒロインを見つける王子。


『こんなところに、白兎がいるんだ?』

『白兎?』


 訳がわからず、首を傾げるヒロインに。


『自分の姿を、よく見てみなさい』


 王子に言われてヒロインは手を確認して、顔を触り、自分が兎の姿だと気付く。


『えっ? わ、私、兎の姿になってる?』


 慌てるヒロインを、王子は優しく抱き上げる。


『きゃっ!』


『君は、自分が獣化することを知らないみたいだね。ご両親は教えなかったのか?』


『父は子供の頃に亡くなっていません。母は仕事が忙しくて、殆ど家にいないので……』


『それなら知らないのも納得だな。ここにいては危ない、僕の休憩室で獣化について説明してあげよう』


 二人で学園にある王子の休憩室に行くんだ、好きなイベントの一つだった。それから王子は自分と同じく獣化する、ヒロインが気になり出し始めて――いつしかそれが恋に変わる。


 獣化が二人の出会いのきっかけを作る……って、今の私はその状態じゃない? いやいや、私は悪役令嬢だ。


 ――よし、ここから逃げよう!


「リチャード王子殿下、そろそろデートの終わる時間では、ありませんかにゃ?」


「いや、終わるまで一時間はあるぞ。デート時間が終わるまでミタリアは僕のふかふか枕な」


「うにゃ? まくらって、殿下!」


 へそ天に顔を乗っけられるのも恥ずかしいのに、一時間もこの格好! 嫌だと慌てる私に王子はクッククと、低く笑い意地悪な笑みをした。


「今更慌てるなミタリア。書庫で俺に足を向けてパカーンと、へそ天してたくせに」


 ――王子が俺? それよりも


「私はリチャード王子殿下に足を向けて、へそ天したのですかにゃぁ!」


 王子は私の目を見て、楽しそうにコクコク頷いた。


「あぁ、したな……俺を信頼して気を抜きすぎだ。ミタリアは面白いな――明日から毎日、俺に会いに来い」


(面白いからって、明日から毎日王城に来い!)


「あ、あのリチャード王子殿下、毎日登城はちょっと無理じゃないですか? 殿下も執務お忙しいにゃ」


「確かに忙しいが。ミタリア……いや婚約者に会う時間くらい作れるぞ」


 王子が爆弾発言をした。


「こ、婚約にゃくしゃ! 私が? リチャード王子殿下の婚約者だなんて、そんなの嘘にゃ!」


「嘘じゃないぞ、先ほど父上の許可もいただいた」


「えっ、ええ!」


「おいおい、そんなに喜ぶな」


 私の寝ている間に王子の婚約者になっているなんて……


「殿下その婚約はご辞退申し上げますので、それでお願いしますにゃ!」


「無理な話だな、既に話は父上とついている諦めろ」


「諦めろって、言われても。無理、無理、無理にゃん!」


「そう言うなって、俺は婚約者に優しぞ」


「優しい?」


「あぁ、俺は優しいよ」


(いつもは冷静で笑わない王子なのに、いま私の前で意地悪に笑って、楽しそうな王子は初めて見たかも……)


「はははっ、なんだ照れているのか? まったく、ミタリアは面白いな」


 王子は心底楽しそうに笑い、私のお腹を更にぐりぐりした。


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