二十六
舞踏会が開催される十月になるまで、あと一ヶ月。
王子と王妃殿下のところに訪問に行ったり、ドレスを決めたりと忙しかった。
王妃殿下は悪阻はあるものの体調は良さそうで、お子様も順調に育っている。
そして、あの怖い。庭園で会った人族、カーエン王子とは王子の計らいで会わずに済んでいた。
何日か彼が滞在していた時――お茶に誘う手紙を側近リルはカーエン王子の側近から何度か受け取ったと聞いた。
その度に『気軽に俺の婚約者を誘うな』『行くわけがないだろう!』『いい加減に諦めろ!』と全て王子がお断りの手紙を書き、直接文句を言ったと機嫌悪く王子が話してくれた。
しまいには王子が獣化できると知って、見たいと何度も言われたとも言っていた。
――恐るべし、人族カーエン王子。
この国の秋と冬の食糧難はどうにか回避できそう。
お母様、ナターシャなどにレシピを聞いて、じゃがいも、さつまいも料理が増えに増えた。
チーズフォンデュ、じゃがいもパイ、もちもちじゃがいも、さつまいも団子など食べたい料理が増えた。
保存野菜とソーセージで作るじゃがいもたっぷりポトフは、お腹も膨れて、冬の寒い時期に合いそうだ。
+
「リチャード様、これはどうですか?」
舞踏会のドレスのデザイン決めの日。
王子は時間ができると見にきては自分の好みを言うので、なかなかデザインが決まらない。
シンプル派の私と、可愛い見ためが好きな王子との意見の違い。
「これはどうですか?」
「うーん、ミタリアが選ぶのはシンプル過ぎる、もう少しひらひらが欲しいのと、出来ればミタリアの胸元が見たい」
「なっ!」
それ、王子だけの好みだよ。
何度も試着して、結局は私が折れて王子好みのドレスが仕上がった。それに合う宝飾品も全部、楽しそうにカタログを見て王子が全て決めた。
+
何事もなく十月になり――今夜は舞踏会の日。
舞踏会の開催時間は夕方六時。私はニ時間前に王城に入り準備をしてた。あの日――王妃殿下に初めてお会いした日に思い出した記憶。
今日この舞踏会に何か起こる。
起こるのはわかるのだけど、それが何かはわからない。……でも確実に何か起きる。私はそれは止めたい。
だから、小さなことは見逃さない。
見逃さず、国王陛下、王妃殿下、王子を守る。
王子にエスコートされて、舞踏会会場の扉の前で足を止めた。王子はじっくり私のドレスを眺めて目を細めた。
「ミタリア、そのドレス似合ってる」
「ありがとうございます、リチャード様」
ピンクの生地に真っ白なレース、胸元が少し開いた大人っぽいドレス。それに合わせて王子は金の刺繍が施されて黒の軍服を着ていた。
(やばい、王子カッコいい――)
「そんな、可愛い顔で俺を見るな、照れるだろう?」
「か、可愛い顔? ……、……リ、リチャード様、素敵ですよ」
「嬉しい。ありがとうミタリア」
舞踏会が開催時間の六時ーー入り口で騎士に名前を呼ばれて、王子にエスコートされて会場に入った。
会場内には来年学園に入学する、貴族の公子、公女たち。その獣人たちの中に混じる、カーエン王子と側近の二人は会場内で目立っていた。
あんなにいぶかしげに見られて、警戒されているのに、本人たちは気にしていないみたいだ。
壇上で国王陛下の祝辞が終わり、生演奏に合わせてダンスが始まった。
エスコートされて会場の真ん中で、ホールドを組み王子とのダンスが始まった。
王子は周りに聞こえないように、近付き私に耳打ちした。
「ミタリア、この会場にカーエンがいる――俺の側を離れるな。誰とも踊らさないし、俺も踊らない」
言い終わると、王子はカーエン王子に鋭い視線を送った。
それに気付くと、にこっと目を細めて笑うカーエン王子。
ーーその笑顔が怖い。
「わかりました、リチャード様」
「うん……ミタリア、前よりもダンスが上手くなったね」
何度か王子とダンスホールで練習をしたときに、これではダメだと家で何度も練習した、それが褒められて嬉しい。
「ありがとうございます」
そのとき鼻に香る甘い香り。
(嘘……)
私はダンスの途中で周りを見渡した。
「ミタリア?」
それはとても懐かしく好きだった香りだった。
ゲームの中にチョコは出て来ていない。
でも――私たち獣人が食べてはならない食べ物?
食べてまったら中毒になる?
コックが舞踏会で用意している、料理に中にはチョコのレシピはなかった。
――国王陛下が倒れる原因はチョコ?
いま、そのチョコの香りが会場で微かに香る。
だけど――この甘い香りに国王陛下、王子、他の貴族たちは気付いてはいるみたいだけど、匂いの出どころがわからない。
彼らには馴染みのない食べ物なんだ。




