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大好きな家族とほのぼの生きています  作者: 青磁
【広がる世界編】
99/108

「扉の奥。」




鬼教官に連行されて筋トレ一式200回×2回をこなした後、お湯と布を貰い互いの部屋へ足を引き摺る。

もう一度身体を清めて着替えたら待ちに待った夕餉だそうだ。やったぁぁ………


汗と泥と跳ねた血でどろどろのお洗濯は当番の先輩がやってくれるらしい。今の僕達には有り難い………本当に。


今日こそは治癒の加護をしっかりがっちり掛けたぞ………筋肉痛だけは絶対に明日に残すものか。変に意地を見せた僕の加護の効果か、皆んな疲れてはいるものの幸い痛む箇所はない。


ふふふ、カホちゃん達が見たら褒めてくれるかな…皆んな………やったよ………っ


部屋に着いた途端、遠い目をして床に沈み込む僕の身体を引っ張り上げて義兄が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。それを有り難く思いながら僕も重たい腕を伸ばして義兄の前髪を留めるピンを取りそのシャツのボタンを緩める手伝いをした。

すん、と鼻を鳴らして誰も入ってないな。という義兄に僕は問う。


「扉の鍵は?」


「閉めてる。加護と魔法は?」


「もう張ってる」


手短に確認し合った後にくすりと笑い合い互いの衣服に手を伸ばした。

僕ののろのろとした遅々として進まない介助にふ、と苦笑を漏らしながらも既にサラシと下着だけとなった僕の身体から彼は全てを取り払っていく。


服で隠れていた首筋と肩と背中と……胸元に残る先程の行為の名残を労わるようになぞられ、力が抜けている筈の背筋が震えた。


既に日が沈んだ窓には義兄の手によりカーテンが掛けられている。寒さすら感じる暗闇の中、洋燈(ランプ)の灯りだけが僕達の姿を映す。

まだ全て脱げていない義兄と全て見せている僕の姿を見比べて恥ずかしさが募った僕はベッドへ座り込み膝を抱いて丸くなった。その上に乗るように義兄が膝をベッドへ掛けて来る。


さっきと、ここに来た時と、同じ姿勢………


また甘えてくるかもと上向いた僕をしかし、義兄は優しく撫ぜると頭をベッドから出るように横たえさせる。そして側にあった椅子を引っ張り寄せると桶と丸めた布とを椅子の上に置いて頭をそこへ乗せた。

どうやら洗髪から行ってくれるらしい。

首が痛くならないように置かれた布を調整してくれた後は手酌でゆっくり、優しくお湯を掛けられる。


昨日、他者の前で沐浴や清拭を促されたらどうしようかと相談していた時に、最悪洗えなかったら浄化の加護で身体の清潔を保つよ!と言った僕の言葉を根に持っていたらしい。


優しい手付きと義兄の僕に対する変な拘りにくすくすと笑う。肌寒さに身体の下の掛布を引っ張り被ると安堵と親しみが胸を満たした。段々と肌に馴染む暖かさに緊張しっぱなしだった身体が弛緩していく。

日常と打って変わりこんな遠くまでやって来た後の、二人だけの時間が特別で恥ずかしいけれどムズムズするような嬉しさがあった。


一通り流し終えると義兄に仕草で石鹸とリンスを出すよう促され、少し悩んで亜空間から二つ取り出した。一つはいつものリンスでカモミールとレモングラス、それにゼラニウムの香りを合わせたもの。今の時期限定で売り出している商会の主力商品の一つ。

そしてもう一つは開発途中の紙石鹸というもの。


「これ、紙……いや、石鹸か?」


「うん。携帯出来る石鹸を作ってみたの。このサイズなら持ち運びに便利だし使い切れるかなって。それは洗髪用に作ったシャンプーって石鹸だよ」


お喋りしながら紙状のシャンプーを試して貰う。義兄が不思議そうにしつつお湯に浸けて泡立てていく様子を見上げながらじ〜っと観察した。

ん〜泡立ちが少ないかな。成分と一枚あたりの大きさはまたオルガちゃん達と相談だな。


実はこれ、オルガちゃんとニールさんも一枚噛んでる代物。

いや、見習いのお仕事で手を使う作業が多くて……前世でお婆ちゃんが紙石鹸をよく使ってたのを思い出して個人的に作ったものなんだけど……


オルガちゃんと遊んだ時にお裾分けしたら「これ冒険者や屋外で働く人に売れると思う!」とニールさんまで呼び寄せて三人であれこれ話が進み……はい。コウトク商会で商品開発が決定しました。


一先ずの試作として頭髪用のシャンプーと身体用の石鹸の2種類で作ってみた。冒険者向けという事で川などで使うことも考慮して自然に還るもの・生き物にとって毒性のないものを厳選して作った密かに自信作な一品です。

まさか野営で早速使うことになるとは思わなかったけど……

商品としてはその内洗顔用と手指殺菌用も作る予定で話が進んでいる。

それとトリートメントの話をオルガちゃんにしたら目の色を変えていたから多分、恐らく、作ることになると思います……はい。

この世界、只の香油を髪に付ける位しかお手入れ方が無いからね……オルガちゃんの美への追求は時々眩しく感じる位だよ。


それとリンスのレモングラスとゼラニウムは皆んなに配った防虫サシェにも使われている組み合わせ。爽やかさと薔薇のような甘い香りが楽しめるのに加え、心身のリラックス効果が期待出来るカモミールの香りをほんのり付けている。


香りは匂いに敏感なお兄ちゃんの為にほんのり程度。義兄が顔を寄せて香りを嗅げるように、身を寄せ合って安心出来るようにした自宅用。


紙石鹸のシャンプーを使って頭と髪を洗って貰うとそれをすすいで次に義兄はリンスを手に取る。

桶の中を僕の浄化の加護で綺麗にしたら、その中にリンスを垂らして髪に馴染ませてくれた。

撫ぜるような優しい手付きに首を伸ばして足をパタパタさせる。少し擽ったい〜!


そんな僕の様子など分かっている筈の義兄は吐息だけで笑うばかりで撫ぜる手は止めない。

いつもの事だけれど、分かっててやってるよねお兄ちゃん……!


リンスを馴染ませて、そしてすすぐにはやや長い時間を要してやっと頭が解放されると僕はサッと動いて頭を布で包んだ。


「髪拭いてやるからこっちに来い」


「やだ。お兄ちゃん擽るでしょ」


「擽らないから来い」


いよいよ声を立てて笑う義兄に僕は拗ねたフリをして背中を向ける。そのまま頭に手を置いて布で拭いていたら後ろから抱きしめられて僕の身体は義兄毎ベッドへ倒れ込んだ。


「わぷ……っ!ちょ、髪拭けない!」


「拭くからそれ貸せって」


「ちょ、冷たい!冷たいから止めて……!」


お互い横になりながら頭をわしゃわしゃとかき混ぜる義兄の手に思わず笑いが零れる。思い切り撫ぜるから、髪から水が跳ねて冷たい。

僕は掛布が取れるのも構わずバタバタと身を捩った。


「あんまり暴れると落ちるぞ」


「ん〜その時はお兄ちゃんも道連れだ!」


「俺は良いけど、痛いから止めとけ」


そう言った後、胴に回る手にぐるんと身体をひっくり返される。お世話の是非からいつもの戯れ合いに発展したそれは仰向けになった僕を義兄が組み伏せた事で決着が着いた。


「こんな事で怪我でも作ったらエミール達に笑われるぞ」


「ふふ、治癒の加護で治すから大丈夫だよ!」


「なんだか今日ははしゃいでるな」


そうかな?義兄の言葉に首を傾げる。ややあって思い至ったものをそのまま目の前の義兄へ告げた。


「うん、だって今日一日頑張ったから。頑張った後にこうやってお兄ちゃんと一緒に過ごせてるから嬉しいの」


言葉に出してより嬉しさを実感した僕はニコニコしたまま義兄に抱き着く。

お兄ちゃんが仕事終わりに構って来るのと、フィリが勉強を頑張った後に甘えて来るのと同じかも。あれだ、ご褒美が貰えて嬉しい気分なんだ。


僕が抱き着くと義兄は一瞬身を固くしたがゆっくりゆっくり息を吐き出した後、僕の頭を優しく撫でてくれる。

ふふ、どこか爽やかで深い香りがする。今日嗅いだ緑の匂いより濃く、清涼な森の香り。大好きなお兄ちゃんの匂いだ。


嬉しくて嬉しくて胸いっぱいにその匂いを感じていると次第に頭がふわふわして来た。手足の先がじん、と痺れた感じがする。

眠たいような、力が抜けちゃうような、変な感じ………疲れてるのかな。身体が沈む感覚なのになんでかふわふわする…………


義兄は何も言わずにジッと僕の好きなようにさせてくれている。というか固まっている……?


不思議に思いながらも離れ難くてもっと甘えていたくて黙っているのを良い事に力の抜けた手足を使って更に抱き着く。そうしていると段々と肌が敏感になって義兄の肌に触れている箇所が夢心地に浸った。


胸もお腹も、触れている所全部が温かい………安心するのに何だか身体がぽかぽかして来た…………


目の前の温もりと香りをもっと感じていたくて僕は頬を義兄の顔に近付ける。

ーーけれど更に身を寄せようとした瞬間、バッと身体を引き剥がされた。


え………?驚いて正面を見るとそこには射抜くように此方を見つめる義兄の姿があった。

唐突な動きについて行けない僕はポカンとした表情をしていたと思う。身体が離れた分、流れ込む空気にぶるりと肌が粟立つ。


口を固く結んだ義兄の表情は何かを堪えるようでいて訴え掛けて来るようでも居て………それが不思議で何だか怖くて僕は咄嗟に何事か口に出そうとした。


けれどそれよりも前に一瞬でいつもの表情へ戻った義兄が優しく僕の身体を起こす。


「不味い」


「え」


「もうそんなに時間ないだろ。早くしないと食事食べ損ねるぞ」


「…あっ!」


義兄の言葉を一拍遅れて理解した僕は慌てて視線を移す。壁に掛かる時計の針は部屋に入ってから既に10分は過ぎている事を示していた。

本当に不味い、はしゃぎ過ぎた!


さっきまでの夢心地は一瞬で何処かへ飛び、慌ててテキパキと動き始める。

お湯を僕の魔法で温め直して風と火の複合魔法で髪を乾かし、ある程度髪の水気が取れたら次に布をお湯に浸して身体の清拭。

義兄は噛み跡にお湯が染みないように手早くも慎重に拭いてくれる。二の腕の後ろを布で拭かれた直後、走る痛みにそこも噛まれていたのだと初めて思い至った。


いつの間に。最近お兄ちゃんとくっ付いてると頭がふわふわするから気が付かなかった。


また先程の感覚が蘇りそうで髪を整えるフリをしながら緩く頭を振る。今は早く支度を終えないと。拭いた後の肌に乳液を付けようとしてくれる義兄にやんわりと断る。今は時間が惜しいから僕の手間は省きたい。


けど義兄はムスッとした顔でダメだ、と言って聞かない。そして僕の両腕を片手で軽々と捕まえると瓶から直接僕の肌へ乳液を垂らした。


ひゃあ、冷たい……!

足に垂らされた乳液を彼は大きな手を使って伸ばしていく。あ〜お兄ちゃんの手だと何事も早く済んで良いなぁ………


足の間で水溜りになった乳液を器用に足首まで伸ばしてから背中から二の腕、肘をササっと撫ぜればお終い。う〜擽ったかった!


さぁ僕の清拭が済めば次は義兄の番。手早くサラシと服を身に付けると同じ要領で髪を洗いすすぎ、リンスを馴染ませていく。義兄の髪はふわふわなので絡まないように櫛を入れて。

前世で覚えて散々繰り返した一連の動きは身体が変わっても覚えていたようで大人の指と幼く短い指のギャップに苦労しながらも洗髪、清拭と進めていく。


脱衣を手伝う際に全身をザッと見て変化がないかの確認。筋肉の付いた成長途中の身体は子供特有の柔さが薄れ、段々と男の人の厚い皮膚を作り出している。うん、裂傷も内出血もなし。


と、無意識の内に外傷がないかのチェックをしていた事に僕は内心で苦笑した。完全に職業病だな〜これは。

家のお風呂でお兄ちゃんとフィリの身体を洗うのとまた別の動きだからか指がまだ覚束ない。若干のもどかしさを感じながら足浴までを終えると義兄が口を開いた。


「……ノア、こういうのした事があるのか?」


「ん?身体拭くのとか?遅くってごめんね。やっぱり家のお風呂とは勝手が違くて」


「いや……寧ろ慣れてて驚いた。足湯なんて普段家でやらないだろ」


「そうだねぇ……」


そう話しながら下着を履いた義兄の背に回りシャツを着せていく。前開きシャツは楽だな〜とか厚手のズボンは履かせにくいとか取り止めのない感想を抱きつつ、どう返事をしたものか。と考えを巡らせているとブーツを履く手伝いをしようとした所で手首を掴まれた。


「そこまでしなくて良い」


「あ……ごめんね」


言いつつジッと見られている事に気付かないフリをして片付けを進める。

久々の()()を楽しんでいた自分が居て、仕事なら今のは完全に間違いだったとミスに凹む自分も居て、けれど自分の事を話す気になれない僕は無難な答えを告げる。


「フィリのお世話してたら自然と覚えたよ。足湯位ならフィリの沐浴を経験してたから出来るし」


露骨だったかな。昔の話をするつもりのない僕に、結局僕に甘い義兄は折れてくれた。


「そうか。ありがとうな」


「ううん、こちらこそありがとう」


いつもの笑みを向ければそれ以上の追求はなく、二人共この後の予定に意識を向ける。

因みにお兄ちゃんは冬場以外は乳液を付けません。


暦的には本格的な夏に入ったけれど、避暑地であるブルースの町より北方のこの森の夜は涼しいようだ。僕はケープを羽織るとペンダントをしっかりとその中へ仕舞う。

隠蔽と認識阻害の魔法も忘れずに掛けるといつもの僕の姿となった。



そうして漸く支度を終えた僕達は鍵と魔法、加護で閉ざされていた扉を開いた。



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