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大好きな家族とほのぼの生きています  作者: 青磁
【広がる世界編】
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「学び歩み、中継ポイントへ。」




散々警告された上での初日の移動は何事もなく順調に進む事が出来た。今日一日は森の進み方に気をつけるべき点、サバイバルの方法を主に教わる。


3の法則という空気、体温、水、食事の必要性を説かれた後は火起こしの方法に飲料水の確保、弱い魔物や獣に有効な安全地帯(テリトリー)の作り方を教わりつつ中継ポイントで夕餉に使う山菜や茸、応急処置用の薬草も採っておく。


採取自体は見習いの仕事で散々熟しているので物の見分け方を教われば恙無く熟せる。手際の良さにハインツさんも笑みを見せて褒めてくれた。


そうして今日の授業最後にと中継ポイントに近付いた所で狩りの仕方を教わる。罠や弓、猟犬と方法は色々あるが今回はジャックの弓を使い巻き狩りとなった。猟犬の役目を僕と義兄、エミが担う。


まず始めに義兄と僕が索敵に回った。義兄の耳と僕のサーモグラフィーの魔法で早々に鹿を捉えると倒木や茂みを利用して徐々に逃げ道を塞いで行く。


次にエミが陽動で鹿を追い立て始める。素早い動きで走り回る鹿を追いながら崖下へ誘導、僕と義兄は左右に回り逃げるのを防ぐ。袋小路へ追い込まれ逃げ足の鈍った所で崖上で待ち構えていたジャックが矢を放つ。

正確に射られた矢が鹿の後脚に、次に首の根本後ろ側に突き刺さると鹿はその身を地へと横たえた。


身体強化の加護を皆んなに仕込んでいたけれどジャック凄いな……活発に動く対象の狙うべき箇所を見事に当ててる。


後脚に当てたのは鹿の注意を後ろに向けて目標の背中……肩甲骨と脊椎の交点を崖上から狙い易くする為か。ここは人間でいう所の神経の束がある場所らしくここを傷付けられたら鹿は行動不能となる。


狩られた鹿をハインツさんの指示の元、動かしていく。崖に沿うように頭を下にした位置に固定してまずは放血。止め差しを任された義兄の顔をチラリと見遣りつつ他の皆んなで次の準備を進めるが……

鹿に対して送り言葉を捧げるイライザさんの隣へ進むと僕は鹿に対して膝を折り手を合わせた。


少ししか黙祷出来なくてごめんなさい。

生きようとしていた命を狩ってごめんなさい。

大切に、少しでも無駄にしないように頂きます。命を奪った事を無意味にしないように僕達の糧にして、今この瞬間も努力します。


黙って首を垂れる僕にジャックが不思議そうに見つめたけれど、何も言わないでいてくれた。

エミも義兄の目を近くで見た筈だったが、僕の黙祷が終わるのを見て只次の作業を促す。


放血が十分に済めば洗浄。これはイライザさんが水の魔力を使い手を貸してくれる。僕も一緒になり毛に付いた泥や汚れを落としていった。

元の世界より一回りは大きな鹿に四苦八苦しながら魔法を使っているとハインツさんがのんびりした口調で言う。


「若い頃、洗浄の荒い猪を捌いてダニに噛まれたことがある。その時菌を貰ったみたいで……あれは酷かった。食べてから一週間後、吐いてはいて熱が出て噛まれた所が痒くて動くのも辛かった。一匹でも居たら即流せよ」


そう脅されて身震いする。症状からしてマダニかなぁ。ええと……SFTSってやつか。

疥癬は対応した事あるけどマダニの感染症も恐ろしいな……もしもの場合は細菌耐性さんに頑張って貰おう……うん。


ハインツさんの経験談にエミ達も顔を顰める。

そしてこれから力仕事で体力を使うのに汚れを落とすのを手伝ってくれた。

まぁこんな治療がすぐ受けられない所で菌は貰いたくないよね……


そうしてピカピカになった鹿を隣へ広げておいたシートへ運びモツ抜き。昨日、大猪で流れは掴んでいるので皆んな幾らかスムーズに内臓を取り出していく。

胃腸を切ったら肉が台無し。と鬼教官の目が光る中慎重に、迅速に捌いていく。


次第に辺りに漂う緑深い草の香りに血と獣の独特な匂いが混じり合う。

子供のまだ小さな手で抱える臓物に明らかな異常がないのを確認して近くに掘った穴に埋めていった。遺骸となったものの解体と冷却の傍ら……まだ生きていた名残の強く残るそれにエミがポツリと呟く。


「当たり前だけどまだ温かいんだよな……リコ、お前大丈夫か?」


そう言いつつ少し顔色の悪いエミに顔を向けてなんと言おうか束の間逡巡した。


あ〜、まぁ……人の壊死した身体の一部とかぽっかり開いた褥瘡とか足の切除後、縫合して間もない切断部とか見て来てたから………血とか内臓とかは確かに耐性はあるかも。

それにこれから生きる為に頂く命だから怖がるのは失礼という気持ちもある。この手で狩って捌いてるものだから、余計に。

昨日の既に命を失っていた大猪とは違う。僕達の手で狩る為狙い、命を奪ったもの。刻一刻と生きた面影が失われ物言わぬ無機物(むくろ)となるそれ。

けれどジャックもエミも、お兄ちゃんもまだ子供なのに恐れながらも慣れようとしている。


前世を経験している僕より余程強く、逞しいと思う。それ故に今は歳下の僕から励まされるのは違うと感じ、敢えて軽い言葉を返す。


「まぁ……慣れちゃえば只現実にあるものだから」


血とかグロいの平気だよ〜という言葉をやんわりと伝えればホッとしたような落ち込んだようなエミの顔。


「でも生きてた命を狩るのはまだ怖いや。皆んな、強いね」


次に取り繕った言葉は不要と、率直な想いと尊敬とを口にすればこの行為に肯定的な意義を見出した皆んなの瞳にほんの少し光が宿る。

正直言ってまだ怖いと思う。僕も怖い、命を奪うのは。

けどここから生き残る術を学んで糧にしないとそれこそ命を無駄にするだけだ。


止めの刃を入れた義兄の手を汚れた互いの手袋越しに握る。

大丈夫、その緋色は怖いものではない。こんなにも命を想い、怖がりながらも逃げ出さず挑む強さの証が怖い訳ない。嫌いになれる訳がない。


憂苦と意思の強さと懇篤の証なのだから。


俯きがちだった義兄の顔が潔く上向く。見る毎に一抹輝きの変わる緋色を正面から捉えて僕は嬉しくなって少し笑う。

それで命を射る重役を担ったジャックを、重さ故に褒めて良いのか分からなかったエミが肩の力が抜けたように褒め称える。

すごかった!という素直な賞賛をやっと口に出せたエミも言葉を受けたジャックも、ここで漸く笑顔を見せた。


何も言わずに見守っていた大人達は場を切り替えるように次を促す。明くる森と呼ばれるこの場所も夜になれば夜行性の獣が忍び寄る危険な場所となるらしい。まだ日は高い位置にあるがそれもあと数時間までの事。木々の遮る中日没を迎えれば明かりはないに等しい……先ずは皆んなで頑張ってこの作業を終えよう。

これから学ぶべき事はまだまだ沢山あるのだから。




◇◇◇◇◇




ーー本日の戦利品である解体処理がひと段落ついた鹿と採集した諸々とを浮遊魔法で運び僕達は初日の目標であった中継ポイントへと辿り着いた。


皆んなの身体に身体強化の加護と治癒の加護を施せば予想していた筋肉痛や擦り傷、鬱血もない。

それとコウトク商会特製、防虫サシェを皆んなに配っていたので虫刺されもないよ!これで実用性が証明されたからニールさんと相談して来月からの商品ラインナップに入れて貰おう。

この世界、防虫スプレーもム○もないから地味に心配だったのが一つ解消されました……


それに食料に虫も集まらなくて安心!

今の僕なら大事に取ってある大猪の燻製に虫が付いてたらキレると思う。エミ達も一緒に。

出来るなら亜空間に全て収納しておきたいのだけれど……この魔法を見せられないと考えたからこそ義父さんはこの魔道具を送ってくれたのだろう。

………バレない程度には亜空間に入れておこう。



一日使い続けた魔力残量を確認した後顔を上げれば明くる森に構えられた中継ポイント、その中枢が見えて来る。

石の壁と丸太を組んで作られた防壁を入った先。門を開けてくれた人に案内されて進めばそこにあったのは石造りの砦だった。

幾分か年月を感じながらも堅牢な造りのそれは木々の隙間から漏れる夕陽に照らされ淡く柑子色に染まっている。


人の営みを感じるそれを認めた途端身体に押し寄せる重たい疲れ。足を引き摺りながら一歩ずつ進めば、警備と監視の任に就いている防人と交代で巡回を手伝う冒険者達に出迎えられた。


「その顔、もしかして………ハインツさん……?

………ハインツさんじゃないか!お久しぶりです!!」


「やぁカディスか!元気にやっていたか」


「聖女イライザ様もご健勝そうで何よりです」


「あぁ変わりないよ。しかし防人まで引き受けるとはね、ルイス」


ハインツさんもイライザさんも冒険者としての活動歴が長いから顔が広いんだろうな。

親しげに交わされる遣り取りに冒険者同士の結束を感じていると先輩方の視線は次に見習い達へ向けられた。


「初めまして、話は伺っています。私はここの防人を任されているルイスと申します。皆さんよくここまでおいでになられましたね」


そう言い笑顔を見せる彼に視線を向ける。まだ青年の気配の色濃い面差しに動き易いシャツとズボンの上に簡素な祭服。

目立たない程度に清潔の保たれたそれの上を飾るのは様々な色彩を帯びた帯と首に下がる八方に光線の伸びる星形の装身具。

丁寧に使われているらしいそれは夕陽を弾き綺麗な光を纏っている。

イライザさんも巡礼で祈りを捧げる際は身に纏うという、女神への信仰の証。


僕と義兄と聖霊の皆んなが今警戒すべき、同じ神を戴きながらも相容れない証。


「ルイスは私と同郷でね。それに神殿に仕えていた元神官で今は宣教師、兼防人。魔物や獣の命も救えないかと態々還俗してここまでやって来た物好きさ」


「貴方様が一角獣と共にある姿を見て信仰の可能性に懸けたくなりましてね。私達も自然という大いなる生態系の一部に過ぎません。淘汰されゆく小さき命と命を奪うのみとされる魔物への慈悲こそ星母神様はお望みだと考え………と、この話はまた別の機会に致しましょう。

まずは皆さん、一日の疲れを癒して下さい」


難しい話に疲れ切っているエミ達はよりへとへとだという風に肩を降ろしている。義兄と僕は神殿の人間だというルイスさんに警戒心を抱きながらもそれをおくびにも出さず、黙って話を聞くに徹していた。


絶対目立っちゃダメ。僕の能力は極力見せない。


纏う空気に緊張が混じらないよう落ち着き払って見せると周囲は僕達の考えに気付く事なく動き始めた。

成る程、注意を此方へ向けられない為にもイライザさんに指南役を頼んだのか。ギルド長達がこの人物の事を考え付かなかった訳がない。

此処で目立たない振る舞いが出来れば後々の対応にも役立つ。


やっぱり荒療治だな……と身体とは別の疲労を感じながらもイライザさん達に着いて行けば、今日泊めて貰う部屋へ僕達は案内された。

鹿の剥皮と分割の作業は常駐している先輩方が担って下さるらしく好意に甘えてお任せする。

この後、軽く身体を清めて着替えたら作業に入らせて貰おうとエミ達と約束してそれぞれの部屋へ向かって行く。

間借りさせて貰う立場だし、四人共同じ大部屋に移されるかと思いきや義兄と僕二人で使って良い。と手狭ながらも休養には充分な部屋へ案内されて少し驚いた。


あれ?他にも先輩冒険者さん達が宿泊している筈だけれど良いのかな?


不思議に思いつつ、エミ達が部屋へ入るのを手を振り見送ると隣に居たイライザさんが少し残念そうに呟いた。


「本当は嬢ちゃんと相部屋を考えていたんだよ。テントも元々はそのつもりで用意していたし。けど保護者がそこの坊主と一緒にしてやってくれと譲らなくてね……寝物語に色々語りたかったのに」


そう言い義兄へ慾の多分に乗った視線をやる。

あぁ、僕が女子だと考えての配慮だったのか。そして義父さんがそれに乗じて僕の能力が周囲にバレるリスクを少しでも減らす為に義兄と二人きりにして欲しいと口添えしてくれたんだ。


イライザさんも保護者の希望を正面から否定は出来ず、だけど同性で過ごせるようにとこうして言葉にしないで誘ってくれてる。その視線の意味を正確に受け取った義兄はしかし、丁寧にイライザさんへ頭を下げた。


「普段からリコの身の回りの面倒を見るのは俺が任されています。すみませんがこのまま部屋に入らせて下さい」


「僕も慣れない経験の連続で彼と一度忌憚のない話しがしたいと思っています。この貴重な時間を今後に役立てる為ですのでどうか、ご配慮頂けると幸いです」


ダメ押しに僕が言葉を添えるとイライザさんは残念そうにしながらも引いてくれた。

面倒見の良いイライザさんに申し訳なくなりながら手を振り扉を閉めると、義兄は思考を切り替えて手早く部屋の中を検分する。

僕も魔力探知とサーモグラフィーの魔法、鑑定の加護に何も引っかからないのを見て防音魔法と守護の加護を部屋全体へ張る。


そして荷物と衣を手荒く投げ捨てた義兄の伸ばされた腕へ僕も手を伸ばした。



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