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大好きな家族とほのぼの生きています  作者: 青磁
【広がる世界編】
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「訓練と鬼教官。」


今回5000文字近くになりました……ハインツさん始めはこんなに濃いキャラの予定じゃなかったんだけどな……




僕のその言葉にニカっとした笑みを浮かべ、おう!と応えるハインツさん。直ぐに姿勢を正し隣に居るギルド長にも挨拶をすると僕達はハインツさんへ向き直った。


今日は傷跡を少しでも見せないようにか左眼に眼帯を当てている。動き易い麻の服に胸当てを着け、丈夫なボトムスと足元には編み上げブーツ。

背中に回る太めのベルトには使い込まれたのが一目で分かる戦斧が担がれている。左頬に走る傷跡をすり、と撫ぜる姿は正に冒険者の風格だった。


現役を退いて久しいらしいけれど、やっぱり長年前線で活躍していた人は違うな。


「今日の訓練で指導を任されたハインツだ。そっちの先生んトコの坊主達は知ってるな。今日はバード……ギルド長と一緒にお前らの面倒見るから全力で励んでくれ」


「お前にギルド長と言われると変な気分だな……ハインツは俺の同期で経験と能力は折り紙付きだ。暫く冒険者から退いていたが眼と勘は鈍っちゃいない。今日は技や動きを盗めるだけ盗んどけ!」


隣に立つギルド長と肩を並べる程の体格の厳つい相貌の大男に一瞬尻込みしていたエミとジャックだったが、その気安い口調と明るい笑みに肩の力を抜く。


「「宜しくお願いします!!」」


少年達の返事にハインツさんはハハハ!ともう一度明るく笑った。



ーー今日の戦闘訓練、本当は兼ねてよりギルド側に僕から希望していたもの。密かにハインツさんを指導役に推していた。

重篤な身体欠損により引退を余儀なくされたハインツさんにもう一度冒険者の誇りを持って欲しい。という僕の我が儘と、身体障害やハンデで人生の選択肢の幅を自ら狭めないで欲しいというこれまた僕の勝手な希望の押し付けだ。

けど、この選択が間違いでないと今日この場に来て実感出来た。


福祉と精神のバリアフリー。様々な捉え方があるものだが僕はこれを前世で学び仕事に活かせるよう努めて来た。疾患で、障害で、価値観で、環境で幸福を閉ざされるのならそれに否を唱え少しでも納得の出来る生き方を。

制度と法律と、そこに有るもの手の届くものを掴んで自身の力に出来るように。世界の理不尽に自分自身を殺さずに済むように。


……昔お婆ちゃんと先生、皆んなにして貰った事だから。それがどれだけ得難く助けられたのか身に染みているから。ハインツさんの納得出来る形を何か一つ作りたかった。


それにはまず本人の意思決定が絶対だった。自分から動こうと思えなければ只の強制になってしまう。だから第一に身体のハンデから解決してみる事にした。

前線を退いた上に怪我により身体を動かす事が極端に減ったハインツさんは加齢も加わり、身体の可動域や筋力が衰えていた。

そこで毎年差し入れに持って行っている手料理………守護、浄化、身体強化、治癒などなど加護をこれでもかと盛り込んでいたのだ。


守護は転倒などもしもの時に骨や筋を痛めないように。皮膚や血管が脆くなると内出血、そこから剥離に繋がる事はよくある。適切な処置をしないとそこから菌が入り化膿、更に免疫が落ちていたら炎症を起こしてしまい下手なケースだと起きていられない程重症化してしまう。


代謝が衰えて徐々に身体に溜まっていった老廃物と毒素を浄化で少なくしていき、臓器とリンパが滞りなく動くようにした。

更に細胞の古くなっていた筋組織、神経、骨の再生速度を上げるよう身体強化を施し、次に片腕と片眼の欠損による体幹バランスの崩れとそれを庇って歪んでしまった身体全体のズレや摩耗した部位を治癒で治して来た。毎年気付かれないように食事を通して少しずつ。


そうして体調が落ち着いて来た頃にちょくちょく顔を出して話をした。なんて事ない取り止めのない話。僕の家族の事、好きなもの苦手な事、ハインツさんの若い頃、昔行った国、今もハッキリ思い出せる楽しい思い出。


そうしている内にライネル先生へそれとなくハインツさんの事を相談してカウンセリングを専門としている医者を紹介して貰った。ハインツさんと接している内に躁うつではないかと辺りをつけていたからその事を伝えて。前世関わった躁うつの方と似た症状が見て取れたから。


人とは社会を構築する生き物だ。人と関わる事で自己が育つし逆に擦り減りもする。定期的なコミュニケーションと活動は良くも悪くも必要不可欠だ。心の起伏と身体のバランスはとても繊細で直ぐに解決するものではないから専門の方に診て貰った方が良いと僕は判断し其方のケアはお願いした。


そして偶に義父さんも交えて仕事の話を聞く。現場指導はまだ無理そうだったが、その頃には人との会話がスムーズになっていたから年がそこまで離れていない義父さんとは今では良い話し相手になっていた。


研究者の一人として本の執筆に携わった事がある義父さんとそれを指南書として本に纏めてみては?と提案した事もある。けれど、彼は笑ってそれを断った。現場で動くあの頃が最高であり自分にとっての宝なのだと。同じく冒険者だったらしい奥さんが墓で寂しく待っているのは辛いだろうと土産話を聞かせるついでに墓守を引き受けたのだと。


ハインツさんは遅くに生まれた息子さんと絶縁気味らしくそれも躁うつの発症に影響があるかもしれないと乾いた笑いと共に零していた。


ーーーそのハインツさんがギルド長と明るく言葉を交わして絶えず笑っている。その姿が見たくて、そんな思いを抱いて欲しくて今日此処に来たのだ。

勿論、今日は大先輩に色々と教えて貰う気満々です。お仕事の話は何回も聞いてるけど実際の動き方を見るのは今日が初めてだからね!


と、気合い十分意気込みMAXで訓練が始まったのですが………


開始4時間後。僕達見習いは膝を突き肩で息をしていた。

その直ぐ側には飄々とした顔で首を回すハインツさんと丸太を次々運ぶギルド長。

体力お化けな義兄でさえ立っては居るものの深く深呼吸して荒くなった息を整えている。


え、コレ本当に負傷して前線を退いた人………??

この強さで冒険者引退するならどれだけのレベルなら続けて居られるの……???


地面に伏せる少年達の目の前で次の訓練の準備に取り掛かっている鬼教官二人にエミが分かり易く顔を顰めた。


「嘘だろ……まだ……すんの………?」


「もうお昼過ぎてるけど………あの様子だとぶっ続けか………」


「皆んな………僕、ポーション持って来てる、から……今の内に……………」


「……リコ、お前がまず先に飲め」


息も絶え絶えな僕は震える指先で鞄から取り出すフリをして亜空間に仕舞っておいたポーションを取り出す。ライネル先生御用達のポーションに飲みやすいよう果汁とハーブシロップでシトラスの味付けを加えたものだ。因みに僕の加護も上乗せで付与してます。


鬼教官にバレないように互いの身体を壁にしながら順に飲み一息吐く。


…………っはぁ。マジで死ぬかと思った。

初回だから後々困らないようにと思って皆んなに身体強化と守護の加護を掛けないでいたのだけれど、コレ毎回掛けておかないと絶っっっ対倒れる………!!!


朝から始まった訓練は簡潔に言ってしまえば地獄の一言に尽きた。

まずチェロの街の大通り10kmランニング。尚、時間制限あり。


時間を過ぎると追加5kmの走り込み。

僕は皆んなに追いつけず時間切れになってしまったので15km走るハメになった……


そして息も絶え絶えに訓練場へ戻るとそこにあったのは巨大なアスレチック。

もう一度言おう。アスレチックだ。


今朝来た時には無かった丸太や樽、大布で出来たトンネル、頑丈な板を組み合わせて作られた巨大な坂が出来ていて一つのコースが出来上がっていた。


なんだコレ。どういう状況だ。


そしてその前でひたすら腕立て伏せをさせられている僕以外の3人。ハインツさんが鞄に何かを詰めながら眼光鋭く叱咤を飛ばす。


ギルド長は通常業務もある為、暫くその場を離れていたが僕達が筋トレと呼ばれるものを一通り100回ずつ熟した頃に戻って来た。

そして休憩を与えられないまま始まった地獄のアスレチックタイムレース。


背中にそれぞれ重石を入れた鞄を背負い、腰に鉛をぶら下げて訓練場に突如出来たアスレチックをひたすらタイムを競って走り込む。


「ディラン!もっと大きく動け!!ジャッカス!!もっと背を屈めろ!そんなんじゃ進めねぇだろ!!!」


「リコ!!お前はもっと足を開け!!!

障害物の最短ルートを選ぶんだ!!!」


「エミール!!!お前はチビなんだからその体を活かした動きをしろ!!!機敏に動け!!!!」


……めちゃくちゃ心がへし折られた音が聞こえた。

そしてボッキボキに折られた心とクタクタの身体を引き摺り次に始まったのは体術だった。

基本の姿勢、受け身、組み方を一通り教わった後、ギルド長とハインツさんを相手に実践の繰り返し。


「ここはこう!受け流せ!!遅い!!そんなんじゃあっという間に拘束されるぞ!!」


「踏み込みが甘い!!そんなんじゃ足を引っ掛けられるぞ!!!」


「攻撃が単調過ぎる!!!躱される所かカウンターの隙だらけだ!!!」


その怒声の後に実際に反撃を食らう。この頃には守護と身体強化の加護増し増しで皆んなに掛けてました。

なのに身体はボロボロのどろどろのぐちゃぐちゃになった。


片腕の一部がないハインツさんに使えるのは右腕だけ??そんな事はない。身体全部が武器だよあの人。

ギルド長が義兄との練習の時は殆ど動かなかった??そら動いたら一瞬で決着着いちゃうよ。


圧倒的な強さを前に少しずつ身に付けていた動きや自信を容赦なく叩き潰された後、一本のナイフと鋸、手袋を渡され目の前にデン!と一体の大猪が運ばれた。


「見習い達〜今日の為に狩ってきた猪だ!しっかり解体しろよ!」


先輩冒険者の声に僕達は力無く頷いたーーーー


「えぇっと……泥を落としたから順にやって行こうか。まず内臓を取り出すから……」


「腹を切るぞ。此奴の毛は硬いから毛の生えている方向へ合わせて刃を入れる」


「此奴皮も硬いな……お、腕全体で体重を掛けた方が切り易い」


「内臓は燻製にするから出したものからこっち渡してくれ!一部は塩漬けにするらしいから向こうに運べって」


その頃には依頼を終えて戻って来た先輩冒険者達も数人加わり訓練場は大賑わいとなった。

多少モタつき荒く解体された猪が次々に炙られ叩かれ鍋に入れられる。


肉の解体前に冷やした方が良いと指示を受け僕の魔力で冷却した。

血抜きが既にされていて助かった。狩って直ぐ放血しないと肉の臭みが強くなってしまう。

痛む掌と強張る指に力を込め、僕達は無心で作業を続けた。


ーーー疲労と筋肉痛と空腹でフラフラな僕達は調理以外の後片付けまで全て終えると漸くお疲れ!と訓練の終了を言い渡された。


はぁぁ、と皆んな一斉に崩れ落ちる。

地面に寝転がりたいのを必死に堪え、ポーションを取り出し皆んなへ渡そうとする僕に業務を終えたミラさんが身体を支えて介抱してくれる。


「リコちゃん後は大丈夫だから今は休んで。

………でもギルド長もハインツさんも無茶苦茶よ。幾ら将来有望だからってこんな詰め込みスケジュールを強行しなくても………」


「それだけ期待してるのさ。まぁこの荒療治には同情するがね」


その声に僕と義兄はハッと視線を上げた。

そこには案の定、いつものヴェールを身に付け動き易さに重きを置いた簡素な祭服に身を包むイライザさんが此方を見下ろして口許に笑みを浮かべていた。今日は聖職者の白というより汚れの目立たない濃い灰色の服に身を包んでいる。


「イライザさん……先日振りです。どうして此処に?」


「おや、バードから何も聞いてないのかい?私も嬢ちゃん達の指南役として頼まれたのさ。闇の森での野営、実地指導役としてね。今日の夜から馬車に乗って現地に向かう予定。明日からの一週間、宜しくね」



「「「「は??」」」」



………一週間のドナドナが決定した。



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