「少年達。」
お兄ちゃんとカホちゃん達の微妙な空気感の中疑問符満載な僕の様子をガンスルーした彼に手を引かれ家路を急ぐ。
何でしょうね。姿も気配も魔力も完全に消してる筈のカホちゃん達から視線がビシバシ当たってる気がする………正確には義兄に対してみたいだけれど。
ん〜何かは分からないけれど、義兄のスキンシップ行為に対してなら僕が許してる事でもあるし、今日は色々あったからそろそろ勘弁してあげて欲しいなぁ。
そんな事を心の内で伝えると何故か少しの憐憫の後カホちゃん達に呆れられた。何故だ…!
続け様に僕にはまだ早い。というカホちゃん達の言葉に僕がウムムと声に出して唸ると隣の義兄がチラリと此方を見遣り、溜め息を吐かれた。
お兄ちゃんまでそんな反応………?!
解せぬ!!
一様に意味ありげな反応を返す割に内容は一切教えてくれない皆んなに対し、いよいよ僕は眉根を寄せた。だって何かしら話せない理由があるにしろ何も教えてくれないのは不公平じゃない??もし僕の事で負担になってしまっているのなら…….嫌だ。
「お兄ちゃん、皆んな。話せないなら仕方ないけど……僕の事を僕自身が知らないのは納得いかないよ?
お兄ちゃん、僕に伝えていない事があるなら話して欲しい」
「………それを話そうとして聖霊様に止められた。だから今は言えない」
そう言う彼の瞳は真っ直ぐ此方へ向けられている。僕だって義兄程ではないけれど、その言葉が返事を濁した故でないのは分かるのだ。
カホちゃん達は何も伝えては来ないが、今この瞬間も優しく見守ってくれているのが自然と判ってしまう。
………成る程。お兄ちゃんからしたら僕に知っていて欲しい情報がある。けれどカホちゃん達の許可、つまりはお眼鏡に適わないと難しい……と。
カホちゃん達が関与するという事は下手をすれば星母神様が差配された可能性もある。
そこまで聞いて次に紡ぐつもりだった言葉を止めた。此処でお兄ちゃんや皆んなを困らせたい訳じゃない。これ以上言葉を重ねるのは要望ではなく只の我が儘だ。
ーー口を噤む僕の様子に義兄は目を細めると優しく頭を撫でてくれた。大きくて剣だこの目立ち始めた掌が僕の髪を擽る。
繋いだままのもう片方の手は僕の手を包むようにそっと力を込めて離れないようにしてくれた。
判っている。カホちゃん達が悪戯に僕に隠し事をする訳がない事も。義兄が僕に対して誠実であろうとしてくれている事も。
「今は」と義兄は言った。なら、話してくれるその時を待とう。だから今はそれに、その温かさに甘えても良いのかもしれない。
ーーーあれから家に帰った僕達は同じく仕事から帰った義父さんとフィリも交え話し合いの結果を伝えた。
話を聞き終えた義父さんは穏やかな顔をして頑張ったね。と僕達の頭を順に撫でる。
目尻に皺を刻み口許に浮かぶ噛み締めるような笑みを滲ませた義父さんの顔を見て、漸く実感が胸に満ちた。
あぁ僕達は、僕は大切な家族と友達との幸せを守れたのだ。フィリのまだ小さな身体を胸に抱いて僕は大きく息を吐いた。
◇◇◇◇◇
「………はぁ〜…………」
一日が動き出した賑やかなギルドに似つかわしくない重苦しい溜め息が一つ。
チェロの街の冒険者ギルドの一角、裏手に整備された訓練場の端でどんよりとした空気を漂わせる少年が肩を落としていた。
「エミ、そんなに気を落とさないで」
「そうだエミ。俺らが冒険者になったら魔物討伐に出向く約束だろ。こんな事で落ち込んでどうするんだ」
「はぁ……俺なんて本物の冒険者からしたらまだまだ未熟なチビだ…………きっとラタトスクより役に立たないと思われた………」
不味い。普段小さい&身長の話題が御法度なエミの口からチビなんて単語が出て来た……!
あとエミ。索敵役の魔物と冒険者は比べるものではないよ………
エミは面談の結果、13歳で冒険者となる事が決まった。厳しくも公正な判断を下すニコライさんの事だ。キチンとエミの実力を認めての決定だろう。
本来より丸一年早く冒険者に認められたのはエミの努力の賜物だ。
しかし当の本人は気落ちの色が強い。
……同い年のお兄ちゃんが今年冒険者になるからね。冒険者への憧れも拘りも強いエミからしたら相当悔しい事だろうな。
一緒に見習いとして努めて来たジャックが一足先に冒険者となるのも要因の一つだろう。エミに絶対言うなよとジャックがコソッと教えてくれた。エミにとってジャックは頼れる兄であり共に強くなると約束した親友。下らない事で笑って張り合って一方が落ち込んだ時は背中を押して……
ジャックと同じ目線で強く有り続けたいと願うエミと、そんな弟分の期待に応えようと励み続けるジャック。
二人で努力して力を付けるのはエミの誇りなんだよ。と嬉しさと誇らしさを内包した笑みを浮かべて彼はそう言った。
ふふふ、二人共本当に仲が良い。
その心境を思い遣りジャックと二人変わりばんこにエミを慰めていると不意に後ろからエミに負けない程の重たい溜め息が耳朶を打つ。
その直後、背後から伸ばされた両腕が僕の胴を周り絡まる。慣れた体温と鼻腔を掠める香りに僕は顔を上へ向けた。
「お前はまだ良いだろ……1年で冒険者になれるんだから」
そう言い僕の頭に顎を乗せて気怠げにエミを見据える義兄。エミはキッと義兄を睨み付けると声を上げた。
「ディランは今年冒険者になれるだろうが!リコが一緒に行けない位で落ち込むなよ!」
「リコが居ないで依頼をこなしてもなんの張り合いもない」
「いや僕は後衛型だからそもそも張り合う所が一つもないよ?」
「お前が居ないと仕事に対する意欲が出ない」
「あ、ハイ」
義兄の一貫したスタンスに最早ジャックもエミも苦言すら呈さない。ただ呆れた様に義兄の顔を見つめるのみだ。
あの話し合いから三日が経った今日、いつもの見習い4人が集い何をしているのかと言えば………急遽戦闘訓練を行う事になったのだ。
あの日話した内容について、ギルドの職員や先輩冒険者達には資格供与についての話だったと話してあるので(実際その話が建前であり本題でもあった)周囲の大人達からは残念だったな。気を落とさないで頑張って。という温かい言葉の数々を頂いた。
その言葉の真意は僕の資格が今年貰えない事に対して、ではない。義兄の希望していた正規冒険者として僕と仕事を続けたいと言った件が無しになった事に対してだ。
普段無表情、冷静、最低限しか話さない義兄が目に見えて落ち込んでいる上にそれと分かる位には声のトーンが数段落ちているので本当は喜ばしいムードとなる所が義兄の励まし会みたいな空気となってしまったのです………。
そんな僕達の様子を見兼ねたギルド長直々に本日の戦闘訓練のお呼び出しが掛かった。
身体を動かして雑念を振り払う+一回の挫折でウジウジしている心身を鍛え直す。というお題目で。
因みに今回のギルド長方の判断に納得しているジャックと僕まで駆り出されたのは……冒険者として本格的に活動するジャックに対しては改めて実践形式の指導を行う為。僕に対しては後衛希望なのでその立ち回りのノウハウを教えるとの事。
まぁ、同年代でこれから付き合いが長くなるだろうこの4人の強さや戦闘スタイルをお互いに把握しておく意味合いもある。
特に中〜遠距離のジャックと後衛を担う僕は仲間との連携が大事になってくるのでその立ち回りを身に付けるのは必須。
という訳で………そう!今日はエミ達と訓練なのです!
後衛について指導を受けた後、僕も皆んなに混じって体術と武器の扱いを学ぶ予定なので実は今からワクワクしている。
なんなら昨日の夜楽しみ過ぎてなかなか寝付けなくなり、呆れた顔をしたお兄ちゃんに寝かし付けて貰いました………子供か!
あ、子供か………
密かに己の幼さに凹んでいると思考を遮るようにエミの声が鼓膜に響いた。
「……〜っ!…分かった!!今日の訓練でディランにも負けねえって所をギルド長に認めて貰う!!!」
「エミールが相手なら直ぐに決着つくだろ。まず俺に傷を作れるようになってから言え」
「お前ゼッテェ今日は潰す!!!」
「……まぁ、二人共元気はあるみたいだな」
「そうだね……」
また言い合いの始まった義兄とエミの様子をジャックと二人苦笑しつつ見守っていると馴染みのある声が耳に届く。
「おぉ最近の見習いっ子は威勢が良いな。まぁそれ位じゃなきゃ訓練にならんな」
その声に僕は口許に笑みを浮かべる。
そう、この人が来る事がとても楽しみで仕方なかったのだ。
「おはようございます。本日は宜しくお願いしますーーハインツさん!」




