「聖霊の事情。」
「……皆んなの存在がバレる可能性があったから?」
愛しい子の可愛らしい口から紡がれる言葉に頷きながら申し訳なさが募る。出来うることなら全てを話してあげたいが、かの御方は特段それを望んでいない事は判っていた。
それが歴々の愛し子達を守る為である事を識っているから。
かの御方は自らの慈悲と愛情が時には彼等にとっての足枷になる事を判っているから。
故に語らず示さず見守る事をお選びになった。
ーー寂滅と受肉を繰り返し自らの魂の主を待ち侘び続けたかの聖霊は遂に此度の輪廻で再開を果たした。
彼女は………銀の君は忘れてしまっているがその魂は、意志は、心根は此方の世界へ生まれ落ちた時そのままだ。
しかし自分達の存在に勘付かれたら……そしてかの一角獣が昔、銀の君に寄り添い続けた聖霊そのものだと知ってしまえばーーー彼女は全てを思い出してしまうだろう。
かの聖霊が自らに掛けた魔法によりこの子が気付く事はなかったが、聖霊と契約を結んでいる者は聖霊の気配に聡くなる。
銀の君にも、この子にも互いが愛し子だと悟らせる訳にはいかなかった。
銀の君の記憶が戻ってしまえば愛し子の知識と技術を貪欲に欲する者がまた出てくる事は必至。この子の存在が明るみに出る事と同じ位、銀の君の記憶が戻ることのないよう護らなければならない。
漸く再会を果たした彼等の幸福を壊したくないのは自分達も同じ事だった。
……故に理由は明かせない。
◇◇◇◇◇
しょんぼりと申し訳なさそうにしながら此方を見つめてくる皆んな。その様子に何かやむを得ない事情があったのだと察して口を開く。
「皆んなそんなに気にしないで。皆んながあの時動けなかったのは理由あっての事なんだよね?
もし話せないなら無理に話さなくて大丈夫だよ」
何か星母神様との約束事があったり誓約を課されているのかもしれないと考え、そう言葉を紡ぐと皆んなは互いの顔を暫く見合わせた後、僕の方へ顔を向け意思を伝えて来た。
ふむふむ皆んなの説明によると………
なんとイライザさんはユニコーンであるヴァイスデーゲンの主に認められた際に魂の契約を行っているらしい。
そう、僕が赤ん坊の頃にカホちゃん達と結んだ魂の契約。この契約は文字通り魂レベルで絆を直接結び合うモノである。
お互いの意思や感情が伝わり言葉にせずとも心の内がある程度分かるお陰でこれまで外で姿を表せない状況でも不都合なく意思疎通が出来た。
この契約は主従関係というよりお互いに側に居る為の契約と言った方が合っていると思う。
側に居るのがしっくりくると言うのかな……離れていてもお互いが何処に居るのか感覚で分かるし魂の繋がりだから魔力を介した魔法よりよっぽど強固だ。
そして魂の契約を行えるのは聖霊か聖霊に近しい存在のみだそうで契約を行った者は他の聖霊の気配にも聡くなるらしい。
具体的に言ってしまえば皆んなの声を聴かれる可能性が高かった。あの時、僕が呼び掛けた際近くには居たそうなのだが同じくギルド内にはイライザさんが居たそうで。
そうなると必然的にヴァイスデーゲン以外の声が聴こえる………もしや聖霊が近くに!と勘付かれる可能性が大いにあった為皆んなは沈黙せざるを得なかったとの事。
成る程、お互いの存在が感覚で分かるようになるのだから同じ存在である他の聖霊に対しても察知し易くなるのは理解出来る。皆んなの言葉を家族に通訳しながら伝えると義父さんは顎に手を当てて思案する素振りを見せた。
「そうなると僕がヴァイスデーゲンの声を一切聴かなかったのは何かしら要因がありそうだね。
その辺りは……聞いちゃ駄目なんだね。分かった」
またしょんぼりと頭を下げる皆んなの様子に笑顔を浮かべ大丈夫、と身振りで伝える。
労わる想いがちゃんと伝わるようにと膝に座るカホちゃんの毛並みをゆっくりと撫でると気持ち良さそうに目を細めてくれた。
ふふ、小さく揺れるもふもふの尻尾が肌を擽って気持ち良い。
一人と一匹で戯れていると手持ち無沙汰になったフィリが魔法でナギちゃんとこの間一緒に練習して作っていたガラス球をコロコロと転がして来た。
少々歪で所々色が不揃いなそれはガラス片に魔力を通して少しずつ形を変えていった物だ。
魔力操作の一環でナギちゃん監修の元、現在フィリが課題としているそれは地属性の魔力を浸透させて綺麗な球体を作れるようになるまで続けるそうだ。
ゴーレム作りの次は球体作りか………僕の時もそうだったけど褒め上手なナギちゃんに教わってるとハードな筈なのに魔法の練習が楽しいんだよね。
因みにこのガラス球作り、僕も数年前に教わり何度も練習したけれど球体に変形させながら中に光を灯したり風で浮かばせ続けたりと他の属性魔法との同時使用の練習も兼ねていた。
フィリの飲み込みの早さを見るにこれからその辺りも進めるのかな?
頑張って……楽しいけどナギちゃん超スパルタだよ……
心の中で頑張り屋な義妹にエールを送っていると隣で静かに僕達の様子を見ていた義兄が口を開いた。
「そうしたらこれからチェロの街に行く時には聖霊様の存在に気付かれないよう、より注意していく必要があるな。
聖霊様と契約してる人なんてノアみたいな愛し子でもない限り居ないだろうから……あの人がチェロの街に滞在している間は見習いの仕事は控えた方が良さそうだな」
「うん。そもそも今回の話を聞いてギルド長達がどう判断するかだけどね………最悪、冒険者の道は諦めないといけないかな」
そう呟いた声に義兄が微かに顔を顰める。
すると子供達の遣り取りに反応を返さなかった義父さんが顔を上げ徐に口を開いた。
「聖霊様方、幾つか確認しておきたい点があります。宜しいですかな?」




