「追及=説得。」
その言葉にニコライさんはサッと鋭い視線を投げ掛ける。
視線だけで射殺しそうなその様子にギルド長はやんわりと押し留めた。
「ニコライ殿、この子達はまだ見習いの子供だ。そんな怖い顔してたら泣き出すぞ」
……ごめんなさい、睨まれる位なら全然大丈夫です。
寧ろ、不機嫌なお兄ちゃんが場を荒らしそうでそっちの方が怖いです。
義兄と繋いだ手を指の腹で撫でながら落ち着いて、と心の中で念じる。しかし義兄はギルド長が発した言葉に無言のまま冷たい瞳を前へ向けた。
不機嫌さを隠さなくなった彼にギルド長はゆっくりと語り掛ける。
「お前達の事はギルドとしても俺個人としても大事にしたいと思っているんだ。
……鑑定の情報を弄っている事も、やけにリコの存在を隠したがっているのも………何か理由があるなら教えてくれないか?」
「俺達の事情です。迷惑を掛けるつもりも巻き込むつもりもありません。話がこれだけなら失礼します」
「その事情を解決する為に力になりたいんだ。
俺はお前を弟子に取った以上、面倒を見る責任がある。その弟子と身近な子供が面倒ごとに巻き込まれているのなら手助けをする義務がある。
どうしてそこまで頑なに隠し続けるんだ?」
……鑑定されてたか。
……………これで言えたら、楽なんだろうけどね。
真っ直ぐに此方を見つめ説得し続けるギルド長の姿を視界に収めながら僕は口を閉ざす。
ーー言えたら、どんなに楽か。
僕達の、僕の事情は明るみに出たが最後、公の元に晒される物だ。
この世界にとって150年振りの愛し子を冒険者ギルドの責任者に就くこの人達がこの場限りの秘密としてくれる保証はない。
世間からしたら現れてくれた方が良い存在なのだ。尊ばれ、有り難がられ、崇敬される聖哲の象徴。
………けれどそこに僕個人の意志は反映されない。そんな大それた役目も地位も、僕にとっては首輪と足枷に等しい重責でしかない。勝手な理想像を押し付けられて、頼んでもいないのに祭り上げられ、都合良く使い回される各国の駒。
存在を知られたら僕に待ち受けているのはそんな未来だ。
ーーただ、細やかな日常を守りたいだけ。
大事な家族と大好きな友達と、理解ある人達の側で何気ない日常を送りたいだけなのだ。地位も名誉も多くの褒賞も要らない。権威も人望も偉勲も欲しくない。
強いて言うならこれからの生活を支え家族の未来を応援出来る位のお金は欲しいが、それももうほぼ達成出来ている。
日々の小さな幸せを大切に、偶にする失敗も悲しい思いも溢さず拾い上げて大事に労わり続ける。そんななんて事のない日常こそが幸せだと僕は感じるから。
神様が与えてくれたこの幸福を、機会を奪われたくない。
繋いだ手をぎゅうと握りしめ互いに寄り添い、追及の視線を真っ直ぐ受け止める。固く口を閉ざす僕達の様子にギルド長は深い溜め息を吐いた。
すると説得に応じない僕達にニコライさんが冷たい視線を浴びせながら話し出す。
「……此処で話さないなら先程の資格取得の話しが無かった事になると言ったら、どうです?」
「ニコライ殿!」
「この件はそれ程重大な事柄だと認識しております。
バーナード殿もお弟子さんの素性が分からないまま懐に置き続けるおつもりですか?
これまで誰にも知られる事なく徹底した隠蔽を行ってきた上に、この子達の能力は底が知れないと言っていたのは貴方です。
この子達が何を、いつまで隠しているのかも分からない以上リスクの把握も実状も知れず此方は対策すら取れないのですよ。
そんな危険分子を、冒険者ギルドとしては一員と認める訳にはいきません。
このままでは君達の素性を精査しなければならなくなる」
そう言い挑発するように視線を向けるニコライさん。
あからさまな脅しの言葉に僕は密かに唇を噛んだ。
………僕の所為で、家族の未来が奪われる。
有望な義兄の、ずっと味方であり続けてくれた彼の道が、閉ざされる。
ーーそこまで考え僕は決める。天秤に掛けるまでもなかった。
僕の我が儘で大事な義兄の将来が潰えてしまう位なら、僕一人が世界の都合の良い駒に成れば良い。
義兄へ笑みを向けて心の中でごめんなさい、と謝る。
僕のその視線で伝わったらしい彼は一瞬顔を強ばらせると目を閉じギルド長に負けない位重い溜め息を吐いた。
ーーそしてゆっくり目を開けると正面に座る二人を真っ直ぐ見据える。
「………分かりました。俺達の秘密を話します」




