「大切で、大好きな。」
んんん〜……
あれから数日経ち、いつも通りお世話をして貰った後籠に戻り、就寝のお時間です。
と言っても、毎夜3匹がやって来るから日付が変わる頃に眠って、また昼間にも眠っているのだけど。
お陰で夜泣きもしない、寝付きも良い子として義父さんとスーザンさんからは見られている。
スーザンさんと言えば僕の身体の事を始めから知っていたみたいだ。
まぁ、義父さんが仕事に行っている時におしめの交換をしてくれているのはスーザンさんなので知っていて当たり前なのだが。
スーザンさんには僕の性別を不明と登録した事を伝え、僕の事は男性・女性に拘らずに接して欲しい。と義父さんがお願いしていた。
それを聞いたスーザンさんの気前の良い「任せて下さい」という言葉に思わず、涙が滲んでしまった。
子供好きな事は常々伝わって来ていたし、スーザンさんはおしめを替える時も拒絶する素振りを見せなかったが、改めて僕の事を受け入れてくれる存在に心から嬉しさが込み上げて来た。
………きっと今世の親はこの身体が受け入れられず捨てたのだろう。
戸惑ったのだろうし、戸籍さえはっきりと書けない存在が実の子だとしたら周囲の目も怖かったのだと思う。
どう接して良いのか、分からなかったのかもしれない。
それでも真冬に捨てるかね!とは思うけれど、今はこうして理解ある大好きな人達に大切にされている。それが何よりの幸せだった。
◇◇◇◇◇
で、さっきは何を唸っていたのかというと……
今更ながら自分の姿を考える事が増えた為、どうにか鏡を作り出せないかと魔法の練習がてら試しているのである。
いつも通り金魚先生指導の元、まずは水鏡を作ってみることにする。
薄い膜のような水を自分の前に出し、ゆらゆら揺れる表面をガラス板のように滑らかにして行く。
……うんうん、良い感じ。
最近は自分で出した光魔法のライトを発動させたまま他の魔法も出せるようになって来た。
この間は火と風の複合魔法で温風を出せたよ!
これでドライヤー要らずだ。
まぁ、今は湯浴みの後、丁寧に髪も乾かして貰っているので必要ないのだが……
でもこの世界、ドライヤーが無いみたいなので魔石にこの複合魔法の魔力を溜め込んだら使えるようになるのではないかと思っている。
クラウス原石はどの属性の魔力も溜め込むんだよね?
なら、属性が混ざった物も可能かも知れない。
そうこうしている間に水は表面の揺らぎを少しずつ鎮めていき、光を反射する水鏡が出来上がった。
よし、出来た!
喜びの声をあげると3匹も褒めてくれるように反応を示してくれた。
九尾の尻尾で頬を撫でられ、擽ったい。
ふふふ、一緒に喜んでくれるからついつい張り切っちゃうんだよな〜。
この子達は本当褒め上手だと思う。
わくわくしながら、早速出来た水鏡を覗き込んでみる。
今世はどんな顔なのだろう?
義父さんに似た顔が良いなぁ……
ライトに照らされた水鏡。
そこには此方を見つめる月白の瞳があった。
これが、僕…?
何だか不思議な気分だ。柔らかな頬とすっと伸びる鼻梁。
ぷっくらとした唇を持った顔は前世では間違いなく可愛いと言って貰える顔だ。
何より特徴的なのは瞳だ。垂れ目気味で柔和な顔つきに見えるけれど、透き通るような月白の瞳はこれまで人の持つ色の中では見たことのないものだった。
これは……この世界では普通の色なのかな?
こんなに色素の薄い目じゃ、日光に弱そうだ。
まぁ春の陽射しは何とも無かったけれど……
せめて顔位は普通であって欲しいと願っていた為、何とも言えず3匹を見つめる。
3匹はかわる代わる僕に触れて来た。
………大丈夫だよ。と言ってくれているみたいだ。
好きだと伝えるかのように目元を舐め、嘴を寄せ、小さな口で吸い付いて来る。
……ありがとう。僕も皆んなの事、大好きだよ。