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大好きな家族とほのぼの生きています  作者: 青磁
【広がる世界編】
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「診療所。」




気を失ってしまった僕は次に目を覚ました時には見知らぬベッドの上に居た。見覚えのない白い天井をぼ〜っと見つめ続ける。


ここは………あれ?僕はどうして眠っているの?

確か朝起きてそれから……………


あの後倒れたのだと認識したと同時に誰かが近づいて来る気配が。

衝立の向こうから現れた兄妹の姿を視界に捉えると二人がハッとなって此方へ近づいて来た。


「ノア兄!」


「ノア起きたのか。………身体は辛くないか?」


「……うん。ごめんね、僕倒れちゃったんだね………ここは、診療所?」


「あぁ。あの後義父さんを呼んで診療所にお前を運んだんだ。ライネル先生は過労と貧血だろうって。

念の為診て貰ったが、"臓器"の方の異常は見られなかった。暫く安静にしていれば回復するって話だ。

で、今は点滴で身体に栄養を送って貰ってる。」


そう言い僕の腕を指差す彼に釣られ視線を向けると右腕に入った針とそこから繋がれた点滴袋が見えた。


うわぁ……前世で割りかし見て来た光景だけど、これを自分がやるだなんて思いもしなかったなぁ。

此方の世界の点滴は滑した皮袋なので少し違和感を感じるが、概ね前世の医療器具と形は同じだ。


エリフィオーラさんは何時の時代にあの世界で生きていたのかな………もしかして、僕と大して変わらない頃だったのかも。


まだ鈍る頭でぼんやりとそんな事を考えているとフィリが飲み物貰って来たよ。と水筒を出して見せた。


冒険者の人もよく使う金属(アルミ)製のそれは皮袋やガラス製の物より持ち運びが楽だと重宝されている。

義兄に身体を起こして貰い、ありがとうと伝えてからそっと口に含む。


甘みと爽やかな柑橘の香りの中にほんの少しだけ混じる苦味。とろっとした舌触りに何の飲み物か理解した。

どうやら薬草を煎じて作る飲料薬(ポーション)を果実水で飲み易くした物らしい。

僕にはあまり効果はないかもしれないが一般にポーションには治癒か身体強化の加護を掛けてある。

此方の世界では診療所でも普通に薬として出される物だ。


僕の加護をマシマシで掛けている家族にはあまり縁のない物だったが、どうやら兄妹の中で一番にお世話になるのは僕だったようだ。


こうなる前に身体強化と治癒の加護(バフ)を自身にガン積みしておけば良かった。

商会の運営と見習いの仕事を両立させようという今が一番大切な時期なのに……あ〜社会人失格だなぁ………。


二人に改めてありがとう、と伝えると義兄もフィリもゆっくり休んで。と言ってくれた。義父さんは?と聞くとまだライネル先生と話しをしているらしい。暫くしたら此方へ顔を出してくれるだろう。


僕に釣られて一緒にポーションを飲んだフィリがお手洗いに行きたい。と言い出した。義兄がトイレまで一緒に行く事になり二人は部屋を出る。


ーーベッドに一人残った僕はゆっくりと息を吐いた。


……何時退院になるのだろうか?出来るなら早く退院したい。家の事も見習いの仕事の事も、商会の事も何もかも心配だ。


………僕が倒れちゃったら誰が家事を見るのだろうか?

義父さんも義兄も昼間は仕事があるから家事を全て行うのは難しい。

フィリもお手伝いをしてくれているが普段洗濯機は僕の魔法で動かしているものだ。一から手洗いになれば流石に大変だろう。


見習いの仕事もお兄ちゃん一人だけなのはやっぱり心配だし、フィリもまだ幼いから家に一人残すのは不安だ。

義父さんの仕事着のアイロン掛けを老年に入った義父さんに任せるのは心苦しいし、商会の開店準備をニールさんの一馬力でお願いしてしまうのは良くない。

只でさえニールさんの負担が多いのにこれ以上負担を背負わせる訳には…………

腕に繋がる点滴が煩わしくて余計に気が滅入った。


………どうしてこんな時に限って加護が発動しなかったんだろう。


以前、頭が割れそうに痛くなった時のように自動で加護が発動しなかったのを不思議に思い、心の中で聖霊の皆んなに話し掛けると「今はゆっくり休んで」とのお返事が。


………話を聞くにどうやら神様は僕を休ませる為に敢えて加護を発動させなかったらしい。


………神様からの有給休暇を貰ってしまった。


今、休んでしまって良いのかな?

皆んなちゃんとご飯を食べられるかな。洗濯物が溜まらないと良いのだけど。

組紐、納品の日数があまりないなぁ。今作ってある分だと受注数に足りない。

それとニールさんに謝罪の手紙を一筆書いておかないと。

入院中も書類仕事位出来るかな?

テーブルさえあれば、契約のサインは一通り出来る筈。


待てよ、確か亜空間に丁度良い木の板があったような………


板と書き物一式を亜空間から出したタイミングで療養室の扉を開く音が。


そのまま足音は僕のベッドまで近づいて来て………失礼します。と言い入ってきたライネル先生と義父さんの姿を見て僕はあ。と思った。




ーーーー「で、ここで仕事をしようと思ったんですか。」


「………はぃ。」


……あの後、仕事道具を前に身体を起こしている僕の姿を見たライネル先生に大目玉を食らった。


それはもう、あのどちらかというと優男風なライネル先生から出たのかと思う程大きな声量で。咄嗟に防音魔法を発動させた義父さんは流石だ。

……出来れば僕の耳にも発動させて欲しかったなぁ。


「君は今患者です。僕は患者の身体を整え、治すのが仕事。それなのに君が態々身体を壊すつもりなら僕も容赦しませんよ。」


笑っているのに笑っていないライネル先生の言葉に気圧され何も言えず縮こまる僕………

そこで義父さんが口を開いた。


「先生、私の監督不行き届きが原因です。

私からもこの子によく言っておきます。本日は本当にありがとうございました。」


そう言い頭を下げる義父さん。僕は申し訳なさと罪悪感で胸がいっぱいになってしまった。


「ノアちゃんの頑張り屋な所は僕も好ましく思っていますが……勝手に説教をしてしまってすみません。

では、僕は一度失礼しますね。グレイヴスさんもお身体にはお気を付けて。ノアちゃん、ちゃんとお義父さんの話しを聞くんだよ。」


はい。絶対に言う事聞きます。良い子にしてるのでそんな絶対零度の視線を浴びせないで下さい。僕は今貴方の視線で凍えて死んでしまいそうです………


そんな怖い顔を奥さんに見せちゃ駄目ですよ。

折角三十路手前で仕事に理解のある女性を射止めたのだから、もうちょっと幸せそうな顔を見せて欲しいです。はい。


とは口には出せず部屋を出て行く背中を見送る。

ライネル先生って怒らせると怖いんだな〜とそっと胸を撫で下ろすと義父さんが苦笑混じりの声で話し掛けて来た。


「ノア、寝ていないと駄目だろう。ちゃんと身体を休ませてあげないといけないよ。」


「うん……ごめんなさい。」


素直に謝る僕の頭を優しく撫でてくれる義父さん。

赤ん坊の頃と比べ皺の増えたその手を見て僕は甘えるように義父さんに抱き着いた。


甘えん坊になったのかい?と何処か楽しそうに笑う義父さんの身体にうりうりと頭を擦り付ける。変わらない義父さんの落ち着く香りに知らず肩の力が抜ける。


……ちょっとライネル先生が怖かっただけだよ。別に、心細くなった訳じゃないよ。

誰にともなく心の中で言い訳をして久々に大好きな養父に甘える。義父さんも優しく僕を抱き締めてくれた。


「最近はインディルとばかり一緒に居たから私は少し淋しかったよ。」


「……淋しかったの?」


「男親というのは複雑だね……何方も我が子に違いないのに将来二人が結婚したらと考えると少し淋しくなってしまったんだよ。」


「…………義父さんあのね。僕……」


誰とも結婚しないよ。と呟いた声は扉を開く音に掻き消された。衝立の向こうから現れた兄妹に僕達は抱き締めあったままお帰りと告げる。


その様子を見てフィリがわたしも〜!と僕達に抱きついて来た。義父さんが優しくフィリを抱き寄せる。


戯れてくる可愛い義妹に僕も笑みを浮かべた。

そうして次に義兄へ顔を向けると、何処か傷付いた顔をした義兄の瞳に緋色が見えた気がした。



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