「甘いデザート。」
皆さん大好き(かな?)お兄ちゃんマイペース回です。
正直、お兄ちゃんは勝手に動くのでノアが毎回不憫になります_(:3」z)_
食事を終えた皿が下げられ、次に来たのはデザート。
お皿の上に乗せられた甘味達は粉糖やチョコレートの化粧を施され白いお皿を色とりどりに染め上げている。
今回頼んだのはザッハトルテにツィトローネントルテ、林檎のシュトゥルーデルと苺のカルディナールにクグロフだ。
クグロフは義父さんへのお土産用に包んで貰っているので4つの皿がここには並べられている。
欲張って色々頼んでしまったけど……うん。お兄ちゃんが居るなら食べられる!
思ったよりもボリュームたっぷりなトルテの山にフィリが困ったように口を開いた。
「こんなに食べられるかな……?」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんのお腹なら今6分目位だろうから」
「まぁそうだが……ノアもスープだけだったからそこそこ入るだろ」
「……あれで6分目なのか」
ニールさん、仕事終わりのお兄ちゃんはこんな物じゃないですよ。
今、家事の中で何が大変って買い物と料理だからね。買い物は隙を見て亜空間に収納出来ればまだ良いけど料理ばっかりは作らないといけない。
年を経る毎に増える食事量のお陰で料理の手際は少しずつ早くなって来てるよ。
ニールさんはさっきのコース料理で十分との事で兄妹3人でデザートを分け合う事になった。
用意して貰った別皿に一口大程のデザートを盛っていく。フィリの分を取り終えたら次は僕の分だ。
わくわくしながらフォークを手に持つと不意に隣からフォークを取り上げられた。其方を見遣るとナイフとフォークを持った義兄がツィトローネントルテを切り分けてくれている。
あぁ、お兄ちゃんありがとう。
取りやすいようにしてくれたんだね。
感謝を伝えようと義兄へ顔を向け口を開いた僕は此方を嬉しそうに見つめる義兄の顔を見て、何故か悪戯っ子ナギちゃんの姿が思い浮かんだ。
どうしてか、と考える間もなく口許に運ばれるフォーク。
反射で大きく口を開いたと同時に感じるフォークの冷たさと優しいレモンの香りと甘酸っぱさ。
普段の習慣でついもぐもぐと咀嚼し味を堪能し始めたが、ここが何処で誰が居るのかを思い出した途端、動きがピタリと止まった。
「……む、むぐ〜んむぅ!!」
「はは、ノア食べ物入れながら喋ったらダメだろ」
ちゃんと飲み込んでから言え。と楽しそうに頭を撫でてくる義兄の手を掴み、こくんとトルテを飲み込んだ僕は口を開く。
「お兄ちゃん、今日はしないって約束した!」
「デザート位良いだろ。我慢したんだからこれ位はご褒美くれたって良いじゃないか」
「ご褒……っ!外ではしないって、ちゃんと約束したのにっ」
「だってお前、抱っこも駄目だって言うだろ……俺めちゃくちゃ我慢したからな?」
「だ、だって……外では、駄目なの…!」
「別に他人の目なんてどうでも良いだろ。
あの義父さんが本気で見咎めると思うか?」
「…〜っ……だってぇ」
恥ずかしい、と呟いた僕は顔を俯ける。顔が、いや身体が熱い。鏡を見なくても顔が赤いのが分かる。
う〜こんな、こんな恋人っぽい行為、外でなんてとてもじゃないけど出来る勇気はないのに。
隠れるように義兄の背中とソファーの間に顔を埋め羞恥に耐えていると微かなくすくすという笑い声が耳に届いた。
それは次第に堪え切れないと言ったように大きくなると、やがて子気味良いくらい大きな笑い声に変わった。
……そのあまりの笑いように義兄の背から顔を出した僕は一生向けるつもりの無かったジトっとした目で声の主ーーーニールさんを見つめる。
「………ニールさん」
「はは、ははは。っあはは!」
「……ニールさん笑い過ぎです。」
「ははは、すみませ、はは。
まさかそんなにお兄さんと仲が良いだなんて…っくく、はははは!」
「〜笑い過ぎですっ!!」
◇◇◇◇◇
あの後もずっと笑い続けていたニールさんだったが、フィリがお皿に盛られたデザートを食べ終える頃にはやがて笑いは収まった。
めちゃくちゃ笑うじゃないですか………このぅ
水を飲みながら未だにひぃひぃ言ってるの聞こえてますよ…!
……ニールさんはどうやら笑い上戸らしい。
すみません、と何度目か分からない謝罪を受けながら気まずさに視線を逸らす。
そっと紅茶に口を付けて誤魔化しているとカップを手から奪った義兄が口許にフォークを差し出して来た。
恥ずかしさ7割、諦念の気持ち3割でそっと口を開くと林檎の甘さとバターの風味、パイ生地のパリパリの食感が口腔に広がった。本当ならその美味しさを存分に味わいたい所だが今はあまり楽しめる状況ではない。
あの後どさくさに紛れて僕の事を膝に乗せた義兄の顔をすぐ側に感じるからだ。
あの、お兄ちゃん頬っぺた突くのやめて下さい。
頬っぺすりすりも、ダメ…!
遂にカップを持つことすら許されなくなった僕の手は義兄の大きな手に包み込まれる。その様を面白そうに見ては顔を背けて肩を震わせるニールさん……
ニールさん、もうツボにハマっているのは分かったので笑うなと言うのは諦めます………
でも、一つだけ確認させて下さい。
……これ絶っっっっっ対オルガちゃんに話すでしょ……!!!!
ーー和やかに進んでいた食事会はある意味混沌と化していた。
そんな僕達の様子に見慣れているフィリは大して気にした風もなく口を開いた。
「ノア兄、あきらめた方が良いと思うよ。
ディル兄にしてはよくがんばった方だと思うよ」
うぅっ………フィリまでそんな事言うの………??
僕は(主に義兄とニールさんの所為で)悲しいよ………っ!!!
お兄ちゃんが僕を慰めるように頭を撫でてくれるけどそもそもの原因お兄ちゃんだからね???
おかしいな、ここで我慢できたら家で沢山構って良いって僕言ったよね???今日を和やかなまま終えられたら存分に二人を誉めて誉めて甘やかすつもりだったのに。
もう仕事の話どころじゃないよ、これ。
念の為張っておいた防音魔法はニールさんの笑い声を隠す為のものじゃないんだけど……
いつまで笑ってるつもりだろうと冷めた目でニールさんを見つめていたが、やがてこの状況に慣れたらしい彼はいつもの穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。
「いえ、本当にすみません。笑い上戸なもので………想像と違ったご兄弟の仲が新鮮で。
失礼かとは思いますが、普段はそのように過ごされているのですか?」
「はい」
「お兄ちゃん……。はぁ、大変見苦しいものをお見せしてしまって………此方こそすみません。あの、出来るならもう何も触れないで頂けると…………」
「あぁ、すみませんでした。
……でも同時に安心もしました。貴方には今、大事なご家族が居るのですね」
「え?」
「いえ………仕事柄、様々な話を聞くもので。
愛し子様というのは、星母神様の寵愛を受ける存在です。
その希少性から人生を掻き乱された愛し子様も居たと聞き及んだ事がありまして………勝手ながら、心配していたんです」
そう目元を下げ優しく伝えてくるニールさんに咄嗟に言葉が出なかった。
それは義父さんからも聞いていた話だ……歴代の愛し子は皆が皆、泰平な人生を歩めた訳ではない。
愛し子の望む本懐や願いは必ず成し遂げられて来たそうだが、そこには壁や多くの葛藤があったと。
いつの時代も権力者から頼られ求められる事が少なからずあったそうだ。自分の人生を何の為に使うかはその人個人の持つ自由であり権利の筈なのに、そこに義務と献身を背負わせようとする者はどうしても居るのが現実だ。
その人達は………嘗て同じ世界で生きてきた、謂わば同郷の人達だ。その人生を考えると胸が詰まる想いだった。
此方では……此方の世界では幸せだったのだろうか?
それまでの文化や習慣と異なる世界に一人記憶を持ったまま生まれ、遺してきたものを悔やむ日は、無かったのだろうか?
僕、僕は…………
溢れそうになる感情を理性で無理やり封じ込める。
この想いをまだ誰かと共有出来る程、傷は癒えていない。
僕は前世で培ってきた笑みを顔に浮かべるとニールさんへ答える。
「ありがとうございます。今日の食事の席に加え、そこまで気に掛けて頂いてお心遣い痛み入ります。
実は僕もニールさんにご相談したい事があったんです」
そう言い、亜空間から紙を数枚取り出す。
気持ちを切り替えなくては。今は、仕事の話だ。
僕の線引きが伝わったらしいニールさんはいつもの柔和な笑みを浮かべるとテーブルへ身体を寄せる。
さぁ、仕事をしなくては。




