「ゴーレムと義妹。」
ーーあれから一日経ち心身共に立ち直った(?)僕はフィリと共に家の中で魔法の練習をしていた。
普段は義父さんが魔法の基礎と知識の、聖霊の皆んなが実技の講師となりフィリに魔法の勉強を教えている。今日は僕も勉強の成果を見ようと一緒に練習をしていた。
地と火、光属性の魔力が高いフィリはその稀有な才能を活かそうと日々真面目に勉強に取り組んでいる。今日は地属性で生み出したゴーレムをイメージ通りに動かす練習だ。
フィリも物事の吸収が早い子で始めは1体しか生み出せなかったゴーレムを今では8体同時に生み出し、操っていた。
因みにナギちゃんが子守の際毎日見せていた魔物の再現に影響されてか今日は毒猪の形を模している……
それ、金蓮花級の冒険者3人位で倒せるかどうかの魔物だよね??
ご丁寧に小分のウリ坊まで再現してる……
え、これに毒塗ってまで再現とかしないよね???
止めてね〜義父さんに怒られるよ………
でも鈴蘭から抽出した毒を僕が作っているのを知っているからおねだりして来そう………
なんて内心ドキドキしていたが流石にフィリもそこまで忠実に再現する気は無いようで、如何に複雑にそれぞれのゴーレムを操れるかを実践していた。
はぁ……良かった。可愛いフィリに上目遣いにおねだりされたらどうなってたか分からない……
因みにどうして僕が毒を精製しているのかというと冒険者見習いをしている義兄と僕の護身用だったりする。鈴蘭は観葉植物として一般に出回っている花ではあるが実は毒性を持つ植物でもある。
特に花と根に毒を溜めており強心作用を持つコンバラトキシンやコンバラマリンという成分を含んでいる。
これは嘔吐、頭痛、眩暈、血圧低下の他、心臓麻痺を引き起こす死亡例もある毒性の強い成分だ。
大体50kgの人間が15mg取るだけで致死量となるらしい。
魔物にも毒は有効だと考えた僕は比較的入手が簡単な鈴蘭から毒を精製してみているのだ。
作り方は簡単で切り花にした鈴蘭を暫く水に生けておくだけ。
コンバラトキシンは水溶性が高いのですぐに集められる。
数日前、僕が生けた鈴蘭を観賞用だと思っていた義父さんの複雑そうな顔を思い出す………その後、毒の取り扱いについては再三注意を受けた。
ごめんなさい、約束通り絶対無闇に使ったりしません。
良い子はマネしちゃ駄目なやつです。はい。
そんな事を考えながらフィリの隣で僕もゴーレムを生み出す。
前世好きだったキャラクターを模した物だ。地と水、光の魔力で成長させた草花も使ってふわふわの質感に仕上げてみた。
ふふふ、この3つは植物とは切っても切り離せない重要な要素だからね。
僕の魔力を含んだ植物は僕の意思に従い、伸び伸びと動く。
これで蔦の罠とか作れないかな………
実用化するなら設置型になるとは思うけど僕の魔力を含んでるから遠隔操作も可能になるかも?
今度ヘデラの苗を探してこよう。地と光の魔力が高いフィリにも扱えるかもしれないな、と考えながらトロイトと某キャラクターのゴーレム達を仲良く遊ばせる。
「ノア兄、わたしうまく出来てる?」
「出来てるよ。7歳でこれだけのゴーレムを操れるのは本当に凄いと思う。頑張ったね」
「えへへ」
僕のお腹に抱きついて来た義妹の頭をよしよしと撫でる。
努力家な天使は沢山褒めてあげなくちゃ。
僕が前世、フィリの歳の頃はこんなに努力出来ていなかったと思う。その点、利発で素直に物事を吸収していく姿勢はこの子の長所であり美点だと思う。
とは言ってもまだ善悪の区別が曖昧な頃でもある。
将来悪意に晒された時、真正面から受け取ってしまうかもしれない事を考えると、今から不安が過ぎった。
ある程度清濁併せ持っていた方が人は人生で起こる不意の出来事や悪意ある言動に対処出来るのだとは思うが、それでも心根は今のままで居て欲しい。と願ってしまうのは僕のエゴだろうか。
どうか、どうかこの子の心が傷付く事がなるべく起こりませんように。
悪戯に悪意に晒されるような性格ではないがそれでも人生何があるか分からない。人間誰しも大事にしている事、善悪の基準は違うのだから。
この子が将来そういう壁に当たった時に対処する術を教えるのが僕の役目なのかもしれない。フィリのくるくるの髪に指を通しながらぎゅうと抱き締める。
ーーこの子が4歳になった年、義父さんは正式にフィリを養子として迎えた。1歳の頃から家には居たから周りの人達は可愛い子ね。と言いフィリを可愛がってくれている。
この国は国交が盛んだから前世のように人種差別の意識が根強いなんて事はない。
けれどもケルヴィナ人には無い褐色の肌が時折、好奇の視線に晒されているのを義父さんも義兄も、僕も気付いていた。
本人も気付いている筈なのにいつもニコニコと笑い何も話しては来ない。フィリには僕達家族は血の繋がりがない事を子供なりに分かるように伝えていた。
その上でフィリを家族として迎えられて良かった。と。
その話を機に義妹の部屋に置いてある民族模様の織物が飾られなくなったのを僕は知っている。
幼い頃は肩身離さず持っていたあの織物が肉親の形見だと知らされた時の顔を見た時………僕は思わずフィリを抱き締めていた。自分が悲しんでいるのも分からない、そんな表情をしていたから。
……出来る事なら、二度とあんな顔はさせたくない。
ーーーこの子は僕が守らないと。
例え肌の色も瞳の色も、出自も違くても、大切な家族である事に変わりは無いのだから。
※鈴蘭の毒性について。
良い子はマネしちゃ駄目なやつです。
良い子はマネしちゃ駄目なやつです(2回目)
実際に死亡例もある物なので、悪戯に実践しようとしないで下さい。