「見習い仲間と嫉妬。」
ギルドの裏手へ向かった僕達は訓練場の一画に居た。
ギルド長が刃を潰した稽古用の剣を二つ用意し片方を義兄へ手渡す。
ギルド長の物よりかは小振りだがそれでも長剣と呼べる代物のそれを、彼は軽々と振ってみせる。
軽装に訓練用の防具を身に纏った義兄の姿をこっそり鑑定の加護を使い静かに観察する。……うん。筋力も体力もしっかりと付いてきている。
訓練中は勿論、身体強化の加護は無しなのでベテランのギルド長には押し負ける事の方が多いが、お陰で受け流しや次の一手を考える良い経験にもなっている。
身体強化の加護盛り盛りなら今のお兄ちゃんでもイケるかも?いや、でも経験値と技術力の差で負けるか……
そんな事を考えているとお互いに準備の終わった二人の稽古が始まった。まずは小手調べというようにギルド長が軽い動作で前へ進んだ。
……やっぱりギルド長は強い。
一見軽く見えるのに踏み込んだ脚、体幹の力強さに加え剣の一振りが重い。
正面からマトモに喰らえばまず押し返せないだろう。
それを義兄は剣を斜めに入れそのまま横へ身体を滑らせ受け流す。
すぐさま横薙ぎの攻撃が飛んでくるがこれも後ろへ飛び退き避ける。そして横へ振った事で無防備となった胴へ攻撃を仕掛けた。
が、体勢を整えるまでもなくまた横薙ぎの一振りが素早い動きで襲い掛かって来る。
それに気付いた彼は攻撃を一転、防御の姿勢へ変える。間一髪防がれる剣筋。
交差する剣をギリギリと鳴らしながら片足を滑らせ姿勢を低くとる義兄。ギルド長の方へ身体を傾けると剣を下に弾き、ガラ空きの足へ照準を定めた。
素早い動きで不意を突いた攻撃だったが次の瞬間、胴を捻るように回したギルド長。胴に追随するように腕が回り、下から振り上げた剣が義兄の肩を直撃した。
鈍い音の後、後ろへ後退した彼は右肩を庇いながらも次の攻撃に油断なく備えていた。
相変わらずだけれど………ギルド長凄いな。
何がって未だに始め踏み込んだ足以外、一歩も動いていない事。あの義兄の攻撃と押し合いを強靭な体幹だけで対応し切れているのだ。
と、そこでギルド長が攻撃の姿勢を止め言葉を投げ掛けてきた。
「すまんすまん。ディランが動けるから楽しくなってつい、肩を狙ってしまった!
明日の仕事に障りはないか?」
「……大丈夫です。それより、稽古をお願いします」
少年の強さを求め食らいつくその姿にギルド長は気に入ったと言わんばかりにニヤリと笑う。
「おう、そう言ってくれると稽古のつけ甲斐があるな!」
「手加減させない位には、追いついてみせます」
◇◇◇◇◇
義兄の動きを覚えながら二人の稽古を眺めていると、不意に此方へ近づいて来る気配に気付いた。其方へ視線を向けると2人の少年が僕の方へ近づいて来る。
僕は立ち上がりながらお尻の埃を払うと用があるらしい2人へ身体を向けた。
「こんにちは。二人は冒険者見習いかな?何かここにご用?」
「おぅ、こんちは。いや、さっきホールの方でウェアハウンド5体仕留めた見習いが居るって噂を聞いて……今、訓練場に居るって聞いたから見に来たんだ。」
「そっか、それならあのディランがそうだよ。
あ、僕はリコって言います。宜しくね!」
「おぅ!俺はエミール、コッチは同じ見習いのジャッカス。宜しくな!」
「こんにちは。周りにはジャックって呼ばれてる。因みに此奴はエミな。」
「エミとジャックだね。ふふ、二人は一緒に見習いのお仕事をしているの?」
「あぁ今年からな〜。薬草採取とかは面倒だけど少しでも金になるならやらないと」
「二人共頑張ってるんだ。まだ小さいのに偉いね」
「俺らよりチビに言われたくねーよっ」
「あ〜ごめん…そういうつもりじゃなくて」
「エミ、小さい子には優しくしないと駄目だろ」
嗜めるジャックの声にむ〜と口を尖らせるエミ。
ごめんなさい、思わず大人だった頃の対応をしてしまった……
今は僕の方が年下でしたね。はい。
でも、義兄と同い年位の子が仕事を頑張っていると思ったら思わず褒めたくなってしまったのだ。
前世では私立の受験生以外の子はまだ小学校や中学校で元気に動き回っている年代だ。仕事なんて精々、体験実習で見様見真似で少し齧る位の年なのにこの世界ではもう一人の労働者として認識されているのだ。
立派と捉えるべきか、学びや思い出作りに励ませてあげたいと思うべきか……複雑だ。
そんな事を考えていると横から伸びる腕が僕の身体をぎゅうと包んだ。慣れた体温に上を見上げると分かりやすい位顔を顰めた義兄の姿がそこにはあった。
「ディル、お帰りなさい。もう稽古は良いの?」
「それよりお前だ。」
撫然といったその様子にふふ、と笑い彼の頬に手を添わせる。
さっき転ばされてたから泥が付いちゃったね。指の腹で優しく拭っているとインディルの背後からギルド長がやって来た。
「急に離れるとか言うから何かと思ったら……見習いの坊主共じゃねぇか。稽古に混ぜて欲しいのか?」
「あ、いや、ただ噂の見習い剣士の様子を見たくて……」
「折角だから稽古つけて貰えば?エミは剣士志望じゃないの?」
そう言いチラッと腰に刺さった木剣に視線を向ける。
魔力量と持ち物から推測するにエミが剣士の前衛、ジャックが後衛の弓使いといった所か。
最低人数の二人パーティでもバランスの良い組み合わせだと思う。
ギルド長とエミが遣り取りを交わしている間、僕はそっと義兄から身体を離そうと試みる。内心密着する彼の汗の匂いにドキドキしているのだ。
何でこのお兄ちゃんは汗すら僕の好きな匂いを発するんだ〜
あれか?フェロモンってやつなのか???
そんな僕の様子に気付いた義兄によりぎゅうと抱き締められて逃げ場をなくす。
はぅ……どうしよう、気を抜いたら彼の身体にスリスリしてしまいそう。
必死に理性を総動員してやり過ごしていたが義兄がそんな僕を嗜めるように頭を優しく撫でて来た。
悪戯のように敏感な首や耳の裏を時折彼の指が掠めて、変な声が出ないように必死に唇を噛み締める。
すると隠蔽魔法で隠れて見えない筈の首の噛み痕を指でグッと押された。ピリピリとした痛みと腰の浮く感覚に思わず、義兄の腕をぎゅっと握る。
足の力が抜けそうになり完全に義兄に身体を預け掛けたその時、ギルド長が此方へ言葉を掛けてきた。
「お前達、仕事終わりで疲れてるだろう。
今日はもう帰って休め。」
◇◇◇◇◇
その後どうやって帰ったか曖昧だ。
義兄に手を引かれふらつく足で何とか辻馬車に乗り込み、義兄に包まれながら席に座ったのは覚えている。
義兄の匂いを側で感じてしまって余計に頭がふわふわして………気が付いたら家に着いていた。
義父さんにノアが疲れてるみたいだから一緒に部屋で休んでる。と伝える義兄の声が近くで聞こえる。
そうして部屋に連れられてなすがまま荷物と服を脱がされベッドに横たえられた僕はーー
ーーお仕置き、と呟いた義兄の緋色の瞳をただ見つめるしか出来なかった。
▼new!お兄ちゃんに鬼畜属性が追加されました。
※魅了耐性さんはインディルに対しては機能しません。
その辺は追々………




