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大好きな家族とほのぼの生きています  作者: 青磁
【広がる世界編】
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「戦闘。」




義兄が前衛、僕が後衛を務めながら進路を魔物のいる方向より左へ逸らしていく。この辺りは薬草の自生しているポイントの為、戦闘で傷付けないように念の為に遭遇地点を逸らそうと考えての事だ。

それにこっちの方向には多少は開けた空間がある。剣を振るう義兄にとってはその方が動き易い。


僕は魔力を練り始め発動直前の状態にしておく。

そしてそれと同時に義兄に対して身体強化と守護の加護を付与しておく。


ーーやがて森の中の開けた箇所へ差し掛かったと同時に茂みから物音がした。

僕達は進路を急に変えたのだ。此方はとっくに敵を認識している。気配を隠しても無駄だと理解したのだろう。


ぐるるる、と唸り声をあげながらやって来たのは黒く硬い毛に覆われたウェアハウンドの群れ。口から覗く牙は鋭く、涎が滴っている。

濁った黒い目で此方を見ていた魔物だったが一番前に居た魔物が、動いた。

素早く地を蹴り此方へ襲い掛かって来る魔物。


それに一早く反応したのは義兄だった。剣を構えると腰を低くし正面から向かって来る魔物へ向かって横薙ぎの一閃を振りかぶる。


それを予想していたのだろう、魔物は避けるかのように体勢を低くとっていたがそれすら予想していた義兄の手によって上から頸動脈に向かって剣を突き立てられた。


途端、首から溢れる血飛沫。

ぎゃうというくぐもった悲鳴を上げた魔物だったが、続いて心の臓に剣を突き立てられると口から涎を垂らしながら段々と動かなくなった。


と、その隙に他の4体が動き出す。

二手に分かれた魔物達はまずは義兄よりも非力に見える僕に狙いを定めたようだ。


2体がインディルと僕の間に阻み、その隙に他の2体が此方へ向かって来た。その素早い動きに僕達は妨害を加えることも出来ずお互いに引き離される。

そして僕に狙いを定めた2体が左右から襲い掛かって来たーー


ーー瞬間、硬直する魔物達。

ぎゃうぎゃうと吠えながらも脚は地面に固定されたかのように動かない。

そんな魔物達の足元には……僕の足から伸びた黒い影が魔物達の影を踏み、動きを阻んでいた。


魔物の足にとぐろを巻くように纏わりつく影。

ーーー極魔力を抑えた闇魔法で生み出した影縛りだ。


本当は4体全てに発動させたかったのだけど、連携を取る以外では義兄は自分で対応すると言っていたから今回は僕が相手をする2体だけだ。

そして自分の相手は自分で、と言った義兄の方を見遣れば既に軽々と2体を屠っていた。地面に転がる遺骸は飛びかかったのか腹部をザックリと切り裂かれている。


アレ、リーダー格の個体じゃないかな〜……素材が多く取れるからあんまり刻まないで欲しいな。

そんな事を思いながら僕も2体を倒しに掛かる。


風魔法で鋭い風刃を生み出すと2体の首をスパッと切り裂く。

何をされたのか分からない、といった顔をした魔物達は口を開いたまま地面に首をコロコロと転がした。


……来世は、殺す為じゃなく生きる為に足掻いてね。

僕は地面に倒れた身体と首を風魔法で同じ箇所に集めると膝をつき、手を合わせた。


生きる意味を問われれば、僕も何とは言えないけれど。

それでも生きていて良いんだと思わせてくれた人達の為に僕もあの世界で生きていたから。


どうか……どうか、今度こそ望まれて生まれて来ますように。


静かに黙祷する僕に義兄は何も言わずそっとしておいてくれる。少しの後、黙祷を終えた僕はゆっくりと義兄の顔を仰ぎ見た。


ーーーそこには緋色の瞳を爛々と光らせた少年の剣士が居た。




◇◇◇◇◇




あれから僕達は魔物の処理をした後、回収した素材と薬草を持って冒険者ギルドのある隣街ーーチェロの街へとやって来ていた。


領内ではそこそこ発展しているこの街は王都と西側諸国との関所の丁度直線上に位置する為、此方のルートを通って来る行商隊(キャラバン)や旅人、護衛依頼を受けた冒険者等で活気付いている。


活気付いていると言っても殆どが飲み屋等の歓楽街と商店やギルドの構えている大通りに人が集中する為そこ以外の地区は長閑な空気が流れている。


因みに関所から王都へ整備された街道はあるのだが南に位置する隣領を通過するルートとなっている。そちらの方が安全ではあるが人の足だと3日は遅れてしまう。

早く王都へ着きたい者や商品の新鮮さを損ないたくない商人は、専ら此方の街を経由するそうだ。


大通りの冒険者ギルドへ向かう最中、隣を歩く義兄の顔をチラリと見る。もう表面上は落ち着いたようで先程の緋色の瞳は面影もなく、今は普段の栗色に戻っていた。

僕の認識阻害の魔法も念の為掛けてあるので問題はないかと思うが本人はその瞳を見られる事を一番嫌がっている節があった。


………初めて彼の緋色の瞳を見た時、彼が混乱しながら僕に噛みついて来た時に言っていたのだ。


ーー言われたんだ、お前の目は真っ赤な血の色だ。って!傷付けた人の血を浴びて真っ赤に染まってるんだって!ーーー


……傷付けた人とはあの酒蔵で殴った大人の事なのか、それとも彼がブルースの町へ来る前の事なのか………僕が触れて良いのか分からず結局問い掛ける言葉は口に出なかった。


けれど彼を傷付けたくは無かった。もう、出来るなら傷ついて欲しくない。だから言い聞かせるように何度も同じ言葉を口にした。


……大丈夫だよ、僕はどんな色をしていても大好きだよ。と


繰り返し、何度も。実際、恐怖や嫌悪感は抱かなかった。

それよりも悲痛な彼の表情と声が悲しくて必死に抱きしめ続けた。


……綺麗な色なのに。意志を持った、強い瞳なのに。


そんな事を考えていると肩をトン、と押される。

ハッとして上を見上げると肩を此方へ寄せ口元を緩めている義兄の姿があった。


……心配するな。とその眼が言っていた。

その様子に僕は敢えて挑発するように笑い、口を開いた。


「次は僕が魔物を多く倒すからね!」


「はは!まず、オレに勝ててから言え」


ーーそう言い合う二人の幼い冒険者はギルドの中へ入っていった。



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