「話し合いと。」
オルガ、登場です。
義父さんが時候の挨拶をすると二人はにこやかに応える。
僕はその様子を静かに見ながら改めて向かいの二人へと意識を向けた。一人はまだ若い、快活とした雰囲気の赤混じりの茶髪の男性。
もう一人はそばかすの散る幼い顔に眼鏡が印象的な、これまた赤混じりの茶髪の少女だ。
この二人が事前に話を聞いていた会頭さんとその娘さんなのだろう。明るい印象を二人に抱いていると柔和な笑みを浮かべる男性が僕へと視線を向け話しかけて来た。
「そちらのお子さんは初めまして、ですね。
テナー商会の会頭を務めさせて頂いている、ウォルター・テナーと申します。此方は娘のオルガです。」
「オルガです。初めまして」
「こんにちは、初めまして。
いつも養父がお世話になっております。
ノアと申します。本日はテナー商会さんの会頭様とご息女にお会い出来、光栄です。」
そう言い丁寧にお辞儀を返すと驚いた様子で親子が見つめてきた。
「いや、流石グレイヴス先生のお子さんだ。
素晴らしい教育をなされておいでですね。」
「いいえ、私は何も。この子の努力あってこそです。お嬢様も大変勉学に興味を持たれているとか。」
「えぇ、嬉しい事に我が商会を継ぎたいと言ってくれています。あぁ、どうぞ其方へお掛け下さい。」
「どうも、失礼致します。」
畏まってはいるが和やかな雰囲気で話は進んで行く。
娘さんのオルガちゃんに視線を向けるとニッコリと微笑み掛けてくれた。6歳との事だったが、利発そうな女の子だ。
それから義父さんと会頭さんの話は穏やかに進んでいく。
「では、来年の三月から週に5日の契約で進めさせて下さい。
また、お子さんの発熱などの急な対応につきましては、此方でも承知しておきますので。」
「手厚いご配慮、痛み入ります。
では改めまして来年より宜しくお願い致します。
早速ですが、今の内にお嬢様のこれまでの授業範囲をお教え頂いても宜しいですかな?
それと併せてお嬢様の学びたい分野などあれば、不肖私がお教え出来る範囲で学びの機会を設けたいと考えております。」
義父さんはそう言い、オルガちゃんに視線を向けると彼女はキラキラした瞳で義父さんへ切り出した。
「商売について知っている事があれば、是非!」
「ははは、すみません。この通りこの子は本当にお店の事を考えてくれていて。」
「大いに結構ですよ。学びに対する意欲というのは、どんな分野であれ導き、伸ばしてあげるべきだと考えております。
ではオルガ嬢。私にお教え出来る事を少しずつ授業で学んでいきましょう。」
「はい!」
そうして来年からの具体的な話し合いが一通り決まると義父さんは僕へと視線を向けて口を開いた。
「本日、この子を連れて来たいとお伝えしたのは、家族以外の同年代の子と接する機会を与えたいという親心もありますが……実は商談も兼ねているのですよ。」
「ほう…。商談、ですか?」
その言葉に途端、表情を改め見定める眼をしたウォルターさん。商人の顔つきとはこういう表情を言うのだろう。
流石にこれだけ大きな商会を切り盛りしているだけはある。
義父さんはウォルターさんに断りを入れ、防音魔法を部屋に張る。
「えぇ…実は、この子はテナー商会さんの商品をいたく気に入っておりまして……
其方の商品を使い、ある物を作っているのです。」
そう言い、義父さんは持って来たバッグへと手を入れる。
テーブルにことり、と複数の瓶と小さな缶が置かれていく。
栓をされた瓶の中には円やかな乳白色をした液体が入っていた。
そう、我が家愛用の手作り柔軟剤とリンスだ。
それに加え今回は新たに作ったハーバル化粧水も小瓶に詰めて来ている。缶の方はハーブを使用した軟膏やクリームが入っていた。
今日は来年から始まる授業の話し合いの他にこの品々を見定めて貰う為に僕も席に入れさせて貰ったのだ。
ーーーさぁ、プレゼンの開始だ。