「日常を割く報せ。」
ーーそれは義父さんの故郷から齎された報せらしい。
義父さんはここケルヴィナの生まれではなく東に隣接する聖ソリュンテーゼ国の出身だ。
その国には星母神教の総本山、テーゼマリ大神殿があるのだそうでその神殿に仕える古い友人から先日、手紙が来たそうだ。
若い頃からの親友で現在でも定期的に文通をしている仲ではあるが星母神教の教えに背くような内部事情は今まで教えてくれなかったという。
そんな友人が先日、ある情報を打ち明けた。何でも宙に瞬く星母神様が貴き眷属の内、3つの輝きが失われた。と……
実はこの事は4年前から観測されていて神官の間でも愛し子誕生の兆候かと議論がなされていたらしい。
愛し子の誕生は世界にとっての吉報。一時期、神殿は期待に沸いたそうだが……
愛し子の誕生を告げる天啓が下る事は無かった。
天啓が齎される事なく、宙の輝きが失われたからと言って天災が起きる訳でもない。
古い歴史の中では神の怒りに触れた際、加護の消失が起きた事もあったそうだがそれも確認されていない。神の沈黙に神殿に仕える者達は段々と焦燥感を募らせていた。
そこで4年に及ぶ長い議論の末、神殿は一つ決断を下した。
星母神教の信仰の有無関係なしに各国にある報せを広めたのだ。
ーートゥイ・トゥール・マリ誕生の兆しあり。星母神様のお導きに頼らず、我ら自らで見つけ出し星母神様の本懐を遂げる為、協力を求める。とーーーー
……………
…………………えぇ〜と…………
……つまりは、アレか。
愛し子大捜索!!が始まる。と……???
え、何、僕、指名手配犯か何かですか???
いつの間に僕はそんな大舞台に引き摺り出されそうになってるの……???
………………………えぇぇ????
義父さんの伝えて来た報せに僕が困惑の声を上げるより前に目の前から強い殺気を感じた。
思わずぎょっとして隣の義兄の手を掴み、恐る恐る視線を下げると全身から怒りのオーラを撒き散らすハレくんの姿が………
…ん?今気付いたけど、カホちゃんとナギちゃんもいる……
二匹共物凄い怒りのオーラを発している。
あまりの怒りように隣の義兄に縋り付く。彼も冷や汗を流しながら僕を守るようにぎゅっと抱き締めてくれた。
同じく向かいにいる義父さんも緊張の面持ちで3匹を見つめていたが浅く息を吸うと口を開いた。
「…聖霊様方のお怒りもご尤もかと存じます。
しかし此度の件、私の予想に反して随分と遅い告知でございました。
……神殿も慎重に動かざるを得なかったのでしょう。
そこで改めて問います。
…この地で、これまで通り家族として過ごす事を聖霊様方も、ノアも考えているのか。」
ーーそれは、一つの決断だった。
「…ノアは、ノアは神殿に行かなくちゃ、行けないんですか?
義父さんはノアの何を知ってるんですか?」
上手く考えが纏まらず俯いていると僕を抱き締めたままの義兄から声が上がった。その声にゆるゆると顔を上げる。
義兄の顔をそっと見遣ると、意志のこもった強い目を義父さんへ向けている彼の姿があった。
僕は……僕は、何なのだろう。
赤ん坊の頃使った鑑定では星母神の愛し子となっていた。
星母神様はこの世界で広く信仰されている女神の事だ。
なら、その愛し子とは?
具体的にどういう存在なの?
聖霊の皆んなは、どうして僕の側に居続けてくれるのだろう?
皆んなと魂で結び付いている今、皆んなとは少しずつ意思を共有する事が出来る。
皆んなが僕の事を知っていて、その上で側に居続けてくれているのは分かっていた。
…けれど、そもそもどうして僕の事を知っているのだろう?
生まれた時からあった沢山の耐性、加護に加えて生まれ変わっても保持し続けている前世の記憶。
僕は、何者なんだろう?