「ぐすっ…。」
あの後、ぐずぐず鼻を啜る僕の着替えを手伝ってくれたインディルは未だ落ち込んでいる僕の手を引いて義父さんの居る居間へと連れて行ってくれた。
義父さんはいつものロッキングチェアに座り本を読んでいたが泣いている僕とその手を引く彼を見て、本を置き僕達を手招いた。
「インディル、ノアと一緒にお風呂に入ったんだね」
義父さんの確認の言葉にこくんと頷く彼。
僕は目元を袖で押さえて偶に溢れてくる涙を拭う。
その様子にそっと義父さんが目元に手を遣り、指で優しく拭ってくれた。
「ノア、おいで」
「うん…」
そう言い、優しく抱き締めてくれる義父さん。大きな手で頭を撫でられて再びグスッと鼻が鳴った。
そのまま義父さんはもう片方の手でインディルを手招いた。
おずおずと義父さんに近付く彼。
義父さんは彼を引き寄せるとまた優しく抱き締めた。
「インディル、驚かせてしまったね。二人共済まない、二人の意思をよく確認せずに私が勝手に決めてしまったからだ」
その言葉にふるふると首を振る僕。
インディルも戸惑いながらも抵抗せず、静かに義父さんの話を聞いていた。
ゆっくり頭を撫でてくれる手に次第に嗚咽も鎮まっていく。
穏やかな顔をした義父さんがゆっくりと問いかけてくる。
「ノア、泣いたのはインディルに嫌な事をされたからかい?」
その問いにぶんぶんと首を振る。
違う、嫌な事は何もされていないし彼はとても優しかった。
只僕が、僕がこんなだから……
彼に非がない事を訴えようと口を開くより先に隣から声が上がった。
「ごめんなさい、俺が悪いんです。俺を連れて来てくれたのに勝手な事してごめんなさい。
…ココにいちゃ駄目、…ですよね。
もし、出来るなら教会に返して欲しい、です」
その言葉にギョッとして思わず義父さんの腕から離れ彼に抱き着いていた。
嫌だ、僕が悪いのに僕の所為で彼がまた辛い目に遭うなんて、絶対に嫌!
そんな辛い選択をしないで欲しい!
「やだ、ごめ、なさい、僕が悪いの…っ
僕の事嫌いなら、僕が出て行くから!
義父さんお願い、お兄ちゃんは、何も悪くないから…!
お兄ちゃんを連れて行かないで…っ!」
漸く落ち着いて来ていた涙がまた溢れて来てしまった。
けれど僕はそんな事構いもせずぎゅうぎゅう彼に抱き着いて必死に訴えた。
彼はそんな僕に困ったように視線を僕と義父さんの間を行ったり来たりさせる。
両腕を不自然に上げては下ろすを繰り返していた。
義父さんはそんな僕達を見て安心させるように笑みを浮かべる。
「インディル、此処に来る前に話したと思うが今日からお前は私の大事な息子、家族だ。
まだ兄弟になったばかりでお互いを知らないのだから行き違いはあって当たり前だ。
ノアはお前に嫌な事をされて泣いた訳ではないと今分かっただろう?
お前が責任を感じる事はないんだよ」
そう言って義父さんはまだ彼に抱き着いている僕の頭に手を置いた。
「ノア、少し彼と話したい事があるから先に部屋で寝ていなさい。大丈夫、私は幼い息子を放り投げる真似はしないよ」
その言葉に酷く安堵してコクリと頷き彼からそっと身体を離した。また涙で顔がびしょびしょになってしまったが義父さんの言葉に酷く安堵していて気にもならなかった。
僕は嗚咽混じりの涙声でなんとかお休みなさい。と伝え部屋を後にしたーーー
◇◇◇◇◇
「…さて、改めてインディル。お前はもう私達の家族なのだからさっきのような話はもうなしだ。良いね?」
「…でも」
「もう一度言うが、あの子について何も伝えていなかった私の責だ。
あの子を傷付けてしまったのは私が原因だよ。
…ノアにとってはとても繊細な話だ。本当は日を改めて伝えるつもりだったのだが……
どうしてノアと一緒にお風呂に入る事になったのか聞いても良いかい?」
「…はい。…俺の話を聞いてくれますか?」
「勿論だよ」