「名付け。」
あれから落ち着きまして今はお昼寝の時間です。
義父さんは調べたい事があると言って僕を皆んなに預けたきり書斎から出てこないです。
いつもの籠の中、九尾に包まれながら僕はあ〜とかう〜という謎言語を発している。
3匹との未契約の原因が名前を付けていない事だと判明してから僕は一人悩み続けていた。
何故って?名前が決まらないからです……
いや、名付け位した事はあるよ?だけど主にペットの名付け位しかした事なくて……
はーちゃん(本名、鼻毛猫)とか、スカッシュ(レモンスカッシュ飲みたかったから)とかなら………うん。駄目だ。
この子達は僕の大事な友達なのだからそんな簡単な名前じゃ駄目な気がするんだ。
というより、僕が納得いかない。
んん〜〜……
悩んでいると、ぺろっと頬を舐める感触が。
そちらに顔を向けると、九尾が優しい目をして此方を見つめていた。鳶さんや金魚先生も穏やかな顔をして此方を見つめている。
……うん、ありがとう。
皆んな、ずっと待っててくれたんだね。
皆んなの為にもちゃんとした名前を決めなくちゃ。
こうなったら、思いつくものどんどん出していこう。
僕は光魔法で空中に文字を書いていく。
まだこの世界の文字は覚え途中だから、前世で使っていた日本語を。
日本で縁起の良い、おめでたいとされる言葉や文字をぽんぽん脈絡なく書き連ねていく。どうせなら縁起の良い言葉を使ってあげたい。聖霊という存在が尊ばれるようなものなら、尚更。
そして皆んなの印象や言葉に込められた意味も含め、選別していく。
んん、そしたら………
◇◇◇◇◇
ーーーガチャっと扉が開き、向こうから義父さんが入ってきた。
僕はあやして貰っている籠の中からあぅあぅと義父さんを呼ぶ。
義父さんが籠に近付き、僕を抱き上げる。
3匹は少し離れて僕たちの事を見守ってくれていた。
「お待たせノア。聖霊様方、ノアの事を見て頂き、本当にありがとうございます」
3匹は静かに義父さんを見つめている。
義父さんもその様子を見て、穏やかに笑んでいた。
義父さん見てみて。義父さんに見て貰いたくって待ってたの。
髭に触れ声を上げると、ん?と義父さんは優しい瞳を僕に向けてくれた。
よし、義父さんにも名前を付ける所を見て貰おう!
義父さんの腕の中から指を出し、光魔法で文字を書いていく。
また、義父さんは驚いた様子を見せたけど、僕が書き始めた字を見た途端、じっと僕の指先を見つめ続けた。
僕は先程決めた名前をわくわくしながら書き出していく。
小さな赤ん坊の指、まだ上手く力が入らない事も多い指をゆっくりと動かし、丁寧に皆んなの名前を書いていく。
これでも書道を少し齧ってたんだ。皆んなの名前は綺麗に書いてあげたい。
ーーーそうして書き出された名前。
光魔法で書かれた文字は淡く輝きを発している。
そこには日本語でこう書かれていた。
御晴義 詩凪 永華穂
ーーー途端、その文字が光り輝き始めた。
文字の周りを加護を掛けた時に見えた不思議な紋様の帯が現れ、囲む。
そして眩く光る文字達は揺らめきだしたかと思うと、紋様と共にそれぞれの聖霊達の中へ吸い込まれていった。
ーーそれと同時に、僕の身体にも変化が起きた。
身体の中を流れる魔力、それが一段と輝いているのが分かる。
そして胸の中心、身体の奥の奥にある"何か"が3匹と繋がる感覚を伝えてくる。その奥にある何かにも同じように紋様が囲み、やがて吸い込まれていくのが頭の中にイメージとして勝手に流れて来る。
………そっか。これが契約なんだね。
皆んながあんなにも契約を気にしていた理由が今なら分かる。
お互い大事な存在なのに酷く薄い繋がりで側に居続けていたんだ。まるで、薄い膜越しに話しているかのような、そんな感覚。
それが、どれ程不安定な繋がりか。
魂で結ばれた今、皆んながどれ程この瞬間を待ち侘びていたかが伝わってきた。
皆んなの温かい感情が伝わってくる。僕への慈しみも、愛情も、喜びも。
………僕は、皆んなに望まれて生まれてきたんだね。
じわりと目から涙が溢れる。僕は要らない子じゃなかった。
いや、皆んな僕がどんな存在か知っていて、それでも僕が存在している事を喜んでくれている。
義父さんの腕の中、僕は拾われたあの日以来、初めて大きな声をあげて泣いた。
義父さんはそんな僕を、大事に大事に抱きしめ続けてくれていたーーーーーー
雰囲気ぶち壊し小噺!!
ペットの名付けに出てきた鼻毛猫やら、スカッシュやらは実家の歴代猫の実の名前です。
(鼻毛猫は別の人が名付けた)