夜の訪問者
夕食が終わり、風呂にも入った。
念のため、歯磨きも念入りにしておいた。
窓の外は真っ暗だが、こんな夜更けに道祖は俺の部屋に来ると言う…。
一体どう言うつもりだ?
俺は部屋の中を右へ行ったり左へ来たり、文字通り右往左往する。
部屋の中でウオーキングしている気分だ。
「いい加減、落ち着かれたらいかがです?」
部屋でウロウロする俺を見て、チェーレは呆れ顔だ。
「だ、だが、道祖が部屋に来るって言うし…。」
「わかってます。どうですか、座ってお茶でも?」
「そ、そうだな、もらおうか。」
俺はソファに座り、チェーレが紅茶を淹れるのを見る。
部屋に紅茶の香りが漂い、カップに注ごうとするのを見て、
「や、やっぱり、口が紅茶臭いと嫌がられないかなっ!?」
「…紅茶の匂いと緊張による口臭、どちらがお好みですか?」
「…紅茶ください。」
チェーレはため息をつくと、黙って紅茶をカップに注ぎ始めた。
「そんなに緊張されるものなんですか?」
「え?」
チェーレの問いの意味がわからなくて、間抜けな声で聞き返してしまう。
「私や他の者と為される時は、そんなにオドオドされませんよね?」
「ま、まあ、そりゃなぁ…。」
「ハヤト様が人間族と獣人族を差別される方ではない、とはわかっておりますが…。
やはり、獣人族とは違うものなのですか…?」
表情には変化がないが、チェーレの瞳が憂いを帯び、尻尾も元気がない。
この世界には人間族と獣人族で差別意識がある。
地域によったり、個人によったり、その程度は様々ではあるが。
俺には差別意識はないつもりだが、そう言う風に感じ、寂しい思いをさせる事はあるようだ。
気をつけてはいるのだが…。
「人間族とか獣人族とか、俺には関係ないよ。」
俺はチェーレの手を握り、目をまっすぐ見据えて訴えかける。
「そうでしょうか…。」
「道祖や神前を特別視してしまうのは、元の世界での友人だからだ。
それに…二人は学校で人気者だったが、俺は…その、そうでもなかったから…緊張するんだ。」
「そうなんですね…。」
チェーレは俺の手を握り返し、
「で、道祖様と神前様、どちらがお好きなんです?」
「ぅえっ?!そ、そんな、えぇっ?」
予想外の質問に、声が上ずってしまった。
正直、この世界に来てからメイドたちとエッチしまくった結果、
“好き”と言う感覚がわからなくなって来ている。
どのメイドたちも等しく好きだ。誰が一番なんてない、つもりだ。
だが、向こうは俺をどう思っているんだろう?
好かれてるつもりだが…。
特に神前だ。
アイツは俺の事を”好き"ではないだろう。
なんか、欲求不満の解消相手くらいに思ってそうだ。
おぉ、同級生をセフレにしたのか、俺は!
驚愕の事実に、顔がニヤケてしまった。
ーコンコンコンー
ノックの音が。
「さ、道祖かっ?どうぞ、入ってくれっ。」
俺はチェーレの手を離し、道祖を招き入れる。
「ごめんなさい、こんな時間に。」
「いや、全然大丈夫だよっ。ささ、どうぞどうぞ。」
俺に招き入れられ部屋に入った道祖は、テーブルの上の二つ並んだカップに目を止める。
「…ごめんなさい、お邪魔だったかな?」
「そ、そんな!これは違っ!」
少し頬を引きつらせる道祖に、俺は弁明する。
いや、そもそも弁明する必要があるのか?俺と道祖は付き合ってるわけでもないし…。
道祖は踵を返し部屋を出ようとしている。
俺はどうしていいかわからなくなっていると、
「ご主人様が、道祖様が来られるので、大変緊張されておりましたので…。
少し落ち着いていただこうとお茶を。」
チェーレが何事もなかったように説明する。
いや、本当に何事もなかったわけだが…。
「そ、そうだったんですね、ごめんなさいっ、私ったら///」
チェーレの態度を見て、道祖も落ち着いたようだ。
自分の早とちりに赤面する。
「道祖様も、いかがですか?」
「じゃ、じゃあ、いただきますっ。」
道祖は軽く頭を下げると、俺の対面のソファに腰を下ろす。
「では、失礼いたします。」
紅茶を淹れ終えたチェーレはそう言うと、部屋を出ていきかけて、
「あ、道祖様にご伝言を預かっておりました。」
何事か道祖に耳打ちし、
「では、失礼致します。」
深々と礼をすると、部屋を後にする。
心なしか、道祖の顔が赤い。紅茶で温まったのか?
「…伝言、誰から?」
「あ、うん、えっと…凛ちゃ…ん?」
「そ、そう。」
なんだ、この会話?
俺はバレないように、小さく深呼吸する。
部屋に憧れの美少女と2人…。
こんな刺激的なことがあるだろうか?
つづく
読了ありがとうございます。
『異世界運送~転生した異世界で俺専用の時空魔法で旅行気分で気ままに運送業!のつもりが、ぶっ壊れ性能のせいでまさかの人類最強?!~』という小説を新たに書き始めました。
よろしければ、そちらも宜しくお願いします!




