勇者の帰還 1
この天井には見覚えがある。
5年前、学校帰りに突然光の粒に包まれて、
気がついた時にこの石造りの天井を見た。
背中のこのゴツゴツした、これまた石造りの床も懐かしい。
やはり、ここに帰ってきたのか。
オスル王国 王城地下室 召喚の間
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
SWEET臭、ラクトンC10とかC11とかいう匂い。
程よい重みを感じる両腕に目をやる。
左に道祖。
右に神前。
そう、前回の惨めでぼっちな異世界召喚とは違う。
今回は両手に花の異世界召喚だ。
そっと指先を二人の魅惑的な膨らみへと伸ばす、、、。
[[[この変態がっ!!!]]]
頭の中ではない、直接頭頂部に衝撃が走る。
頭の方を見ると、約40cm程の5人の小人が浮いていた。
そうだ。元の世界では俺の脳内に精神体として存在していた5体の精霊たち。
こちらの世界では実体を持って存在できる。
どうもその内の3体、[火のヴルカ][土のグノー][風のシルヴィ]に蹴られたようだ。
[もうっ、3人とも!ちょっとイタズラしようとしただけでしょっ]
風のシルヴィは俺を甘やかしてくれる。バブ味のシルヴィ。
[ふふふ、お主はどちらの世界でも助平じゃのう]
闇の精霊、シェイディが笑う。5体の中でも一番小さい、30cm程の体長。ロリババアのシェンディ。
[オマエらが甘やかすから、こんな変態になったんだろっ!!]
火のヴルカが怒鳴る。すぐ怒鳴る。いっつも怒ってる。代わりにすぐデレる。ツンデレのヴルカ。
[この世界に召喚した以上、我々は隼人の親代わり。しっかりしつけねばいかん。]
土のグノーが腕を組んで頷く。真面目か。土ってゆーか岩。堅物のグノー。
[エッチなのはダメだっ!]
顔を真っ赤にして怒ってる、風のシルヴィは委員長タイプ。
頭の上で5体の精霊がわちゃわちゃ鬱陶しい。
[お帰りなさい、ハヤト]
足元で声がする。
声の主は分かっている。
召喚魔法を使える光の精霊、ウィル。
俺に付いてあっちの世界に来なかった精霊だ。
「ただいま」
心底面倒臭そうに答える。
[帰って来れて嬉しいだろ?]
かなりトゲトゲしく答えたつもりだが、
彼女には通じなかったようだ。
金髪ロン毛に金色の瞳。
成金の権化みたいな見た目の精霊が俺たちをこの世界に召喚した犯人だ。
両脇の二人を起こさない様ゆっくり起き上がる俺に、
「謁見の間へお越しください。」
ウィルの後ろに並んだ兵士が頭を下げる。
「俺だけで良いだろう?
二人は起きるまで休ませてくれ。
出来ればベッドに運んで、、、、。」
「高御座くんっ!!」
「大胸筋っ!!」
大声を上げ、突然二人が跳ね起きる。
「なんだよ、大胸筋って。」
俺がツッコむと、
「「誰っ!!??」」
二人が同時にツッコみ返す。
そうか、俺がわからないのか。
鍛えられた筋肉に高校の制服がきつい。
そう、再度召喚された今、俺の姿は元の世界に帰る前の姿、
5年間ダンジョン攻略のため、2人の師匠に鍛え上げられた姿に戻ったのだ。
、、、、、、。
戻ったでいいのか??
「ここ何処っ?!」
道祖が辺りを見回しながら。
当たり前の疑問だね。
5年前の俺を思い出すね。
「確か、凛ちゃんと高御座くんの3人で図書館の帰り、、、?」
そうそう、直前の状況をね、
「私たちの周りを光の粒がまとわりついてきて、、、。」
少しづつ思い出すのよ。いいねいいね、この反応。
「中々の上腕二頭筋を触ったような?」
神前、お前こんなにダメっ娘だったんか。
「あー、お前たち。
少し落ち着いて、説明させてくれないか?」
「「誰っ!!??」」
二人が同時にツッコみ返す。
そうか、俺がわからないのか。
再度召喚されたされた今、俺の姿は元の(略)
「俺だ、高御座、隼人だ。」
「なんでカタコトなのっ?!」
「なんで制服パンパンマンなんだっ?!」
なんだ、制服パンパンマンって。まぁ、反応としては正しいが、、、。
「カタコトなのは落ち着かせようと思ったからだ。
筋肉マンなのは、こっちの世界にいる間鍛えてたからだ。」
「こっちの世界?」
道祖が神前にしがみつきながら、恐る恐る聞いてくる。
「そうだ。ここは地球じゃない。俺たち3人は異世界、オスル王国へ召喚されたんだ。」
「異世界、、、召、、喚、、?」
道祖は理解が早くて助かる。
教室でもよく本を読んでいたからな。
そういう本でも読んでたんだろうか?
「そうだ、そこのキンキラキンが俺たちを召喚した犯人だ。」
ウィルが笑いながら、二人にヒラヒラと手を振る。
「もしかして、精霊?」
道祖が興味深げに見入っている。
40cm程の体長の精霊の存在が『異世界召喚』という非現実的な単語に現実味を与える。
「おい、キンニクラ」
タカミクラとキンニクが混ざってるぞ。
「俺はそんな名前じゃないが、なんだ神前。」
「そ、そのっ、そのけしから素晴らしい筋肉はなんだっ??!!
失踪前は、もやしの針金の鶏ガラ野郎だったじゃないかっ??!!」
頬を上気させ、鼻息も荒く人の元の体型をディスってくる。
「その失踪中に鍛えたんだよ。
地球では3週間だったが、こっちの世界では5年だったんだ。」
「つまり、5年鍛えた結果ということか。」
「、、、、二人とも飲み込みが早くて助かるよ。」
神前にしがみ付いていた道祖の指の力が抜けたように見える。
少し落ち着いたようだ。
どこまで理解しているかは不明だが、とりあえずは納得してくれたか?
「あの、皆様そろそろ、、、。」
兵士が気まずそうに声をかけてくる。
しまった、謁見の間で王様がお待ちだ。
つづく