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異世界召喚おかわり、もう一丁っ!!  作者: HY
神前という女
19/88

神前という女 その1

「紅茶を淹れてもらったんだ。

飲みながら、少し、話さないか。」

ドアを開け、ノックの主が声をかけてくる。

そこには寝間着姿の神前が立っていた。


透ける様に薄い、絹製の黒の寝間着姿。

裾や襟元にレースがあしらわれ、

胸の下を絞る可愛いリボンが、胸を強調するデザインだ。

マイヤーやルヴォークのように、

夜の相手も務めてくれる者に支給している、

そこそこ高級な寝間着だ。

神前はソレを借りているようだ。

マイヤー達が着ているのは見慣れているが、

同級生が夜の相手が着ている寝間着を着ている……。

俺は神前から目が離せず、ぼーっとながめていた。


「高御座?こんな所で立ちっぱなしは恥ずかしいんだが…。」

「あ、あぁ、すまない。紅茶だったな。ありがとう、いただくよ。」

俺は慌てて神前を招き入れる。

紅茶のいい香りが部屋に溢れる。

恐らく、俺を心配したマイヤーにでも頼まれたんだろう。


神前に椅子をすすめ、自分も対面に座る。

神前が持ってきた紅茶をポットからカップに注いでくれる。

「ありがとう、いい香りだ。」

「マイヤーさんに淹れてもらったんだ。」

「そうか…アイツの淹れる紅茶は美味いんだ。」

言いながら、俺はカップに手を伸ばす。

そして、俺たちはしばらく無言で紅茶を味わった。


……気まずい。

戦場で喜々として人を殺しまくった俺を、

彼女達はどう思っているのだろう。

夕食は無言で食べていたし、とてもじゃないが顔を見れなかった。

道祖に至っては、食事にすら来なかった。

明らかに、俺に批判的だ。

まぁ、当然と言えば当然か…。


神前はどうだろう。

彼女も俺を非難するために来たのだろうか。

俺が神前にチラリと目をやると、

「紅茶、美味いな。」

気づいた神前が口を開いた。

気を遣わせてしまった。

「……マイヤーが持っていくよう頼んだのか?」

俺はどうでもいいことを尋ねる。

「いや、私が頼んだんだ。手ぶらではなんだったからな。」

「そ、そうか。ありがとう。」

神前が俺の目をまっすぐ見ながら答えた。

俺は、彼女の視線に、思わず目を伏せてしまった。


神前はわざわざ苦手なマイヤーに頼んで紅茶を淹れてもらい、

わざわざ部屋に来てくれた。

これは彼女の優しさ、誠意だろう。

俺もちゃんと向き合おう。

今日の事をしっかり説明しよう!

そう決意し、顔を上げ、神前の顔を見ると、

心なしかその顔はうっすら上気しているような……。


「?」

「どうした?私の顔に何か付いてるか?」

「い、いや、今日の戦場のことなんだが…。」

「どうでもいい。」

俺が意を決して放った言葉はピシャリ!と遮られた。


「え?いやあのね、戦場でのこととか、この世界の倫理観とか…。」

「だから、どうでもいいんだ、私には。」

「?」

「この世界に召喚された時、適性がどうとか言っていたな?」

「ああ、そうだ。魔法への適性値が高い者が召喚される。

お前や道祖は俺にひっついてたからかもしれないが……。」

「私にも適性があったようだ。」

「!魔法が使えるのかっ?!」

俺は興奮して立ち上がった。


「落ち着け、魔法はまだ試してない。」

「そ、そうだな。そんな時間なかったな。」

俺は椅子に座り直し、

「で、適性とは?」

「…この世界への適性だ。」

「?」

「お前は多分、私がお前の残酷な行為を非難している、と思ってるな?」

「ああ、その事を俺は君たちに説明……。」

「はっきり言おう。私は何とも思ってない。」

「えっ?」

俺は思わず再度立ち上がる。


「だから、落ち着け。座れ。」

「あ、ああ。すまない。」

俺は椅子に座り直し、

「どういう事だ?」

「…無理を言って戦場に連れて行ってもらった時、

マイヤーさんから戦場の事、この世界の倫理観について、

少し説明されていた。

奴隷制や人身売買、死人が出る喧嘩や、夜盗の類も多いこと、

何より、人の命が日本より軽い事を教えられた。

そのせいで、お前が最初に召喚された時に随分苦労した事も、な。」


マイヤーは彼女達をいきなり戦場に連れてきたワケではなかったようだ。

さすがマイヤー、有能だ。

明日礼を言って、可愛がってやらねば。

そんな事を考えながら、

「ウチの領地には、夜盗は多くないがな。」

「それも聞いたよ。立派な領主として領民に慕われていることもな。」

「そうか…。」

俺は平静を装いながら、安堵した。

とりあえず神前には俺を非難する気は無いようだ。

道祖のことは、わからないが…。


「それを伝えるために、わざわざ来てくれたのか。ありがとう。」

俺が神前に礼を言うと、

「ここからは、私の話を聞いてくれ。」

「?ああ、どうぞ?」

「……実は私はな、あの戦場で、無残に死んでいく兵隊たちを見て、

……………興奮していたんだ。」


「えっ?!!!」

俺は大声を上げ再々度立ち上がる。

「まだだ、落ち着け。座れ。」

「あ、ああ。すまない。」

俺は椅子に座り直し、

「……間の悪いコントみたいだな。」

「私の真剣な告白中に茶々を入れるなよ…。」

「……すみません。」

神前に睨まれた俺は、深々と頭を下げた。



つづく


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