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異世界召喚おかわり、もう一丁っ!!  作者: HY
神前という女
18/88

倫理観

「申し訳ございませんでした。」

マイヤーが深々と頭を下げ、謝罪する。

「お止めしたのですが………。」

「止められなかったか…。」

「申し訳ございません。」


自室の椅子に座り、マイヤーから再度謝罪を受ける。

道祖と神前を戦場へ連れてきた件だ。

彼女たちに、俺が人を殺す所を見せたくなかった。

そのため、彼女たちには俺の出陣を内緒にしていた。

マイヤーにも誤魔化すよう命じていたのだ。

つまりこれは、未だに彼女たちに体面を取り繕おうとする未練、

俺のワガママだ。


「仕方ないさ、それに、いつまでも隠せる事じゃないだろう。」

戦場で大勢の敵兵を殺した事を、

この世界の倫理観を丁寧に説明すれば、

おそらく、彼女たちも理解してくれるだろう。

しかし………。


「少し考えたい。一人にしてくれ。」

「畏まりました。」

マイヤーが部屋を出る。

「あの…。」

マイヤーに続いて退室しようとしたルヴォークが振り返り、

「ハヤト様はカルザスの民を救うため戦われました。

それなのに、何を苦しんでおられるのですか?」

「それは…。」

「ルヴォーク、これは異世界の方々にしか、わからない問題です。」

「しかし、ハヤト様が苦しまれているっ!

私は臣下として、ハヤト様の力になりたいっ!」

「この件に関しては我々ではどうしようもないのです。」

「お前もわからないくせにっ!知った風な口をっ!」

二人の口論がヒートアップしていく。


「ルヴォーク、ありがとうな。だが、ケンカなら余所でやってくれ。」

「は、はっ!申し訳有りません!」

二人は頭を下げ、マイヤーに続いて、ルヴォークも退室する。

廊下ではまだ言い合いが続いているようだが、

その声もだんだん遠くなっていく。


この世界は、日本より命の価値は軽い。

割と簡単に命の取り合いになるし、夜盗や盗賊の類も多い。

人身売買に奴隷制度もあるし、家族を捨てる事も売る事もある。


そうだ、俺も最初に召喚された時、

街の裏路地で行き倒れてる人や、

街の外ではモンスターと同じくらい盗賊が恐れられている、

人の死が日常的に身近にあるこの世界に恐怖した。


かく言う俺も、ダンジョンへ一人で向かう途中、

山道で盗賊団に襲われた事があった。

修行の成果か、盗賊団は返り討ちにしたが、

その時の、初めて人を殺した感触は今も覚えている。

体格的にはオークに似ていた盗賊だった。

顔も覚えている。

オークに似て不細工なヤツだった。


だが、オークを斬った時とは全然違った。

いや、感触は似ていた。

が、それ以外は全然違った。


同じ[生き物]を殺しているのだが、

斬りつけた感触や浴びる返り血、

断末魔の声なんかへの嫌悪感が全然違った。

糸の切れた操り人形のように、

力が抜けて膝から崩れてゆくさま、

何より、あの絶望に沈んでいく貌が忘れられない。

あの日、高校生にもなって俺は、

一晩中師匠たちに抱き着いて、

子供のように泣きじゃくった


その後も何度も命を狙われ、

身を守るために逆に命を奪ってきた。

言わば正当防衛だったが、

それを繰り返すうちに、

命を奪う事への抵抗感、嫌悪感は消えていった。

今ではもう、殺した相手の顔など覚えていない。


領地を与えられてからは、

領民を、領土を守るため戦い、命を奪った。

俺には領民の命を守る義務がある。

今回は[カルザス]の市民を守るため、俺は帝国軍を皆殺しにした。

中途半端な被害を与えるだけでは、また襲ってくるかもしれない。

完膚なきまでに叩き潰し、再侵攻を防ぐためには仕方なかった。

そう考えれば、決して非難される事ではないだろう。


ただ、今回の戦いでは、

俺は八つ当たり、ストレス解消のために帝国軍を皆殺しにした。

元の世界で考えれば、

『むしゃくしゃしてヤッた。誰でもよかった。』

ってヤツだ。とても理解できない思考だ。


俺も元の世界でなら、八つ当たりで人を殺さない。

この世界では俺は市民を守った良き領主、頼もしい領主として敬われている。

敵を鏖殺した動機にまで言及される事はないからだ。

そうして、俺はこの世界で公爵にまでなり、勇者とさえ呼ばれている。

この世界の倫理観に従えば、だが……。


……どんなに自分を正当化してみても、

道祖の俺を見る目が忘れられない。

非難するような、蔑むような、悲しんでいるような……複雑な顔だったな。

あんな顔、見たくなかったな………。

頭の中を道祖の顔がいくつも浮かんでは消え、

ぐるぐる回っている………。



ーコンコンー

ドアをノックする音で目をさます。

窓から見える景色は真っ暗で、随分夜も更けているようだ。


「考えすぎて、寝落ちしてしまったか……。」

マイヤーかルヴォークあたりが様子を見に来たのだろう。

「入れ。」

俺はノックの主に入室を許可する。


ーガチャッー

「え?」

ドアが開き、入って来たのは予想外の人物だった。



つづく




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