プロローグ
「きゃっ」
風のイタズラに、スカートを押さえる女子高生の声。
風に文句を言いながら、友達と恥ずかしそうに歩いていく。
「あざっす。」
俺は心の中で手を合わせながら、そう呟いた。
瞬間、右の耳たぶに指で弾かれたような痛みが走る。
「っつ、痛いなぁ。」
これくらいイイじゃないか。
「俺はお前たちの国を救ってやったんだぞ?」
俺は耳を押さえ、つぶやく。
今度は逆の耳たぶに根性焼きをされたような(されたことはないが)、、、。
「熱っつ!」
慌てて冷やした左手で左の耳たぶを押さえる。
ヤバい、少し大きな声を出してしまった。
恐る恐るあたりを見回す。
予想通り、、、。
指さす子供と、嗜めながら手を引き足早に離れる母親。
かわいそうなモノを見る目のおばあさん。
明らかに距離を取ったOL。
おい、こら、そこの大学生!
写メるんじゃない!ましてやアップするんじゃないっ!
下を向き、そそくさとその場を離れる。
『お前らのせいで余計な恥かいたぞ』
今度はちゃんと、頭の中で彼女らを非難した。誰にも聞こえないように。
[ワタシの力を、あんな事に使うからでしょ!]
[そうだな、隼人が悪い。]
[オマエ、こっちに帰って来てからホント、ダメ人間だな。]
[まぁまぁ、ハヤト君だって若い男の子なんだから。]
[こんな布切れでよければ、ワシのを見れば良いじゃろ]
[[話をややこしくするなっ!!!]]
頭の中でかしましい声の大合唱。
頭の中で5人の可愛い女の子の声が響く。
..........................................。
大丈夫、安心して。
俺はおかしいワケじゃない。
アルミホイルは必要ない。
今から3週間前、俺は声の主の彼女たちに、
いわゆる[異世界]へ召喚されていた。
そしてその異世界[ダステール]のある国、
[オスル王国]を救ってきた。
いわば救国の勇者だ。
とは言え、
世界を闇で満たそうとする大魔王を倒す!なんて物語のような冒険大活劇ではなかった。
国中にできたいくつかのダンジョン[魔界への穴]を攻略し、
各ダンジョンのボスを倒し、[魔界への穴]を封じる。
なんとも地味なダンジョンRPGだった。
まぁ、[魔界の穴]が開きっぱなしだと魔界から魔物が溢れてくるそうだから、
オスル王国を救った事には違いない。
そんな異世界で5年ものダンジョン攻略を終え、
元の世界に戻ってくると、こちらでは3週間しか経っいなかった。
5年の死闘で鍛えられ、逞しく成長した俺の肉体も、
召喚前の普通の男子高校生にほぼ戻り、
学校のも復帰して毎日元気に登校している。
こちらに帰って来てまだ3日だというのに、
すでに召喚される前の普通の毎日に戻っている。
周りの好機の目は少し痛いが、鍛えられた俺の精神力ならなんてことはない。
召喚前と変わったのは、
脳内に住み着いた彼女たち、
--世界を構成する5元素の妖精たち--と、
それに付随する魔法が使えるようになった事だろう。
彼女たちは俺が気に入ったらしく、異世界から付いて来てしまった。
彼女たちの力で、冒頭のようなイタズラが可能になった。
素晴らしい力だ。
5年の異世界生活を思い出し、少し懐かしんでいた時、
「あ、あのっ!」
掛けられた声の方を向くと、
クラスメートの女子が二人。
-道祖 飛鳥-
少し茶色がかった、肩より少し長めの髪
少し跳ねた毛先が少女の可愛らしさを強調する。
くりっとした大きい瞳にも目を引かれるが、
何より引かれて離せなくなるのはその胸だろう。
150cmない身長には不釣り合いなその胸から、
簡単に目を離せる人間はいない。
そして、もう一人。
-神前 凛-
腰程もある綺麗なツヤのあるまっすぐな黒髪。
切れ長の瞳がクールな印象を与えるが、仲の良い道祖といるためか、
今は年齢より幼いイタズラっ子に見える。
『子犬みたいだな』
道祖の背中を押しながら、何事かけしかける神前。
負けじと足を突っ張って押されまいとする道祖。
そんな美少女ふたりのイチャイチャを見ながら、そんな事を考えていた。
「何か用?」
二人はこちらから話しかけられるとは思ってなかったようだ。
少し、びっくりした顔でこちらを見ている。
そりゃそうだ。
5年前、こちらでは3週間前。
召喚(こちらでは家出、失踪扱い)になる前の俺はどちらかというと陰キャ。
クラスでもあまり目立たず、数人の男友達と教室の端でたむろっているような生徒だった。
そんな俺から話しかけられたんだ。
びっくりしても仕方ない。
「俺に何か用かな?」
もう一度、ぶっきらぼうにならないよう、美少女を怖がらせないよう、
努めて丁寧に話しかける。
「高御座から話しかけてくるとは、びっくりだ。
失踪中に何かあったのか?」
神前がなかなか失礼な質問をしてくる。
「どうだろう?
失踪中のことはよく覚えていないんだ」
適当にごまかす。
3週間失踪してたけどホントは異世界で5年もダンジョン探索してたんだ!なんて言えやしない。
ホントは少し、言ってみたい。
手に汗握る、数々の冒険のエピソードを。
陰キャだった俺が、君たちみたいな美少女に臆せず話しかけられるきっかけになったエロエピソードをっ!
思い出して少し、頬が緩んでしまった。
[ド変態が]
[すけべぇじゃのう]
[男の子ですものねぇ]
頭の中の妖精がうるさい。
こいつらがこっちに付いて来て以来、妄想もままならない。
監視社会にNo!だ。
「あ、あのね、高御座くん!」
道祖の声に妄想から復帰する。
「えっと、3週間も学校お休みしちゃったじゃない?」
「そうだね」
違う、ホントは5年だ。
「それでね、えっと、その、もし、もしだよ?」
道祖の会話は少しも進まない。
異世界に召喚される前の俺のように、異性との会話にテンパっている。
見かねた神前が助け舟を出す。
「これからアスカと一緒に勉強会なんだが、
もしよかったら一緒にどうだ?
3週間分の授業も取り戻せるんじゃないか?」
美少女二人との勉強会。
とても魅力的な提案だ。
断る理由がない。
「ありがとう。
ぜひお願いするよっ」
俺は異世界で身につけた、異性を魅了する笑顔を二人に見せた。
これはスキルとか魔法じゃない。
処世術みたいなもんだ。
結果、道祖は少し頬を赤らめたように見えた。
逆に神前の顔は少し引きつったように見えた。
なんだよう。
そして俺は、二人と勉強するため美少女の家へ、、、、
と思ったら、行き先は図書館だった。
つづく