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可愛いあの子は男前  作者: 秋月真鳥
六章 奏歌くんとの六年目
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28.チャレンジ! 西京漬け!

「やっちゃん、西京漬けを作るか、買って、奏歌くんに食べさせたいのよ」

「作るのはやめておけ。買おう」


 あっさりと作る案は却下されてしまった。

 西京漬けは作るのがやはり難しいらしい。私のような料理初心者では無理だと判断された。


「奏歌くんも買ってもらったって言ってたし、いいか」

「西京漬けは焦げやすいから、焼くのも気を付けないといけないぞ?」

「え!?」


 そう言えば奏歌くんも西京漬けを焼いているときに「焦げちゃったかも」という声が聞こえたような気がする。奏歌くんでさえ焦がしてしまいそうになるのならば、私は更に難しいのではないだろうか。

 絶望に立ち尽くす私。

 やっちゃんの部屋には相変わらず茉優ちゃんが来ていて、リビングのソファに座って宿題をしていた。私が来るときにはやっちゃんは茉優ちゃんを必ず同席させるのだ。同席させるのが奏歌くんでないのは、これが奏歌くんのスペシャルディナーのための練習だからだろう。

 今回やっちゃんは西京漬けの焼き方を教えてくれることになった。


「西京漬けの実物がないから説明しにくいな……まぁ、メモでも取ってくれ」

「はい、よろしくお願いします!」


 今日はやっちゃんが先生なので私は大人しく言うことを聞いてメモを取る。


「西京漬けは味噌に付けてあるんだ。それが焦げやすいから、周りの味噌をしっかりぬぐうんだよ」

「洗った方が良い?」

「洗ったらダメだ」


 周りの味噌は拭うだけで、洗ってはいけないらしい。しっかりとメモをすると、やっちゃんが私をキッチンに連れて来る。


「みっちゃんは魚焼きグリルを使ったことがあるか?」

「それ、なぁに?」

「そこからか……」


 若干呆れられた気がしたけれど、やっちゃんはコンロの下についている引き出しのようなものを引っ張った。中には網のようなものが敷かれている。


「これが魚焼きグリル」

「これが……奏歌くんはこれで焼いたのかな」

「そうだと思うよ」


 魚焼きグリルの存在を教えてもらって、私はしっかりとそのこともメモに取る。魚焼きグリルで焼くことを忘れてしまってはどうしようもない。

 魚焼きグリルの操作つまみに手を置いて、やっちゃんが火の付け方と調整の仕方を教えてくれる。


「西京漬けは中火でじっくり焼くんだ。強火だと焦げるからな」

「中火……中火って何?」


 全然分かっていない私のためにやっちゃんが操作つまみの位置を教えてくれる。やっちゃんのコンロには弱火と強火のマークしかないが、その中間が中火なのだとか。


「真ん中が中火」

「コンロによって日の強さが違うから、焦げそうならもっと火を小さくしないといけない」

「まだやらなきゃいけないことがあるの!?」


 西京漬けを買って焼くだけなのに、やらなければいけないことの多さに私は驚いてしまう。焦げやすい西京漬けは、まず周りの味噌を拭わなければいけない。魚焼きグリルというもので焼かなければいけない。魚焼きグリルには火の強さがあって、中火にしておかなければいけないが、火が強そうだったらもっと弱くしなければいけない。


「もっと弱くするってどこで判断すればいいの?」

「外側が早く焦げて来てるとか」

「早いか遅いか分からないんだけど」


 真剣に言う私に、やっちゃんが妥協案を出してくれた。


「西京漬けを焼くときに上にホイルを被せたら焦げにくくなるよ」

「ホイルって、アルミホイル?」

「そうだよ」


 西京漬けを焼くときに上をアルミホイルで覆うと焦げにくくなる。その状態でじっくりと焼いていくのだという。


「どれくらい焼いたら焼けたことになるの?」

「周りに汁が出て来て、じゅうじゅう言い始めたらだな」


 西京漬け、分かりにくい。

 奏歌くんでも焦がしそうになったものを私がちゃんと焼けるのか。不安しかなかった。

 あまりにも分かってない私の様子に不安になったのだろう、やっちゃんはもう一日練習の日を取ってくれた。その日には茉優ちゃんとやっちゃんが私の部屋にやってくる。

 奏歌くんがいるときならば平気なのだが、いないときに私の部屋に他人が入るというのは抵抗があったが、それも奏歌くんのお誕生日のスペシャルディナーのためならば仕方がなかった。

 マンションの部屋に上がると、やっちゃんがビニールのパックに入っている西京漬けを持って来てくれていた。


「これが銀鱈の西京漬け。かなくんと食べる分も買ってきてるから、冷蔵庫に入れておくよ」

「ありがとう、やっちゃん」


 今日焼く分を取り出して、やっちゃんの指導のもとキッチンペーパーで周りの味噌を拭う。魚焼きグリルを引き出して西京漬けを並べると、上にアルミホイルを被せた。


「中火……これくらい?」

「多分、それで大丈夫だと思う」


 西京漬けが焼ける間気になって何度も覗いてしまう私に、やっちゃんが声をかける。


「アルミホイルが熱くなってるから、気を付けろよ」

「はい!」


 お箸で捲って見て、焼けているか確かめるが、焦げ目がついていないだけによく分からない。しばらく待っていると魚焼きグリルから香ばしい匂いがして、じゅうじゅうと音がしてくる。

 汁が出てそれがちょっと焦げているのを確認して、私は魚焼きグリルから西京漬けを取り出した。お皿の上に乗せて、やっちゃんが焼け具合を見るために二つに割ってみる。


「中まで火は通ってそうだな。火が通ってなかったら、電子レンジで加熱すると良いよ」

「火が通ってないって、どうやったら分かるの?」

「その辺は、かなくんに聞けよ」


 最終的には奏歌くんの判断に任されてしまった。

 西京漬けを焼くだけで精いっぱいになってしまうだろうと予測された私に、やっちゃんはほうれん草を茹でて冷凍庫に入れておいてくれた。


「これに鰹節を振りかけて、白だしをかけるだけで一品になるから」

「ありがとう!」


 奏歌くんのお誕生日のスペシャルディナーのメニューは、ご飯とフリーズドライのお味噌汁とほうれん草のお浸しと西京漬けに決まった。

 その日焼いた西京漬けは、茉優ちゃんとやっちゃんと私でお昼ご飯に頂いた。皮までパリッと焼けていて美味しく食べられた。

 奏歌くんのお誕生日のために私はコンサートチケットとお手紙を用意する。

 コンサートチケットには「奏歌くんのための特別コンサート」と書いて、お手紙には奏歌くんとの一年間の思い出を書く。

 奏歌くんが11歳になってから、今年は全国ツアーがあった。全国ツアーでは夏休みを犠牲にして奏歌くんはずっと私に付いて来てくれていた。ツアーで場所が変わっても不安にならなかったのは、奏歌くんのおかげだった。

 京都の公演のときに車折神社で奏歌くんは私が男役トップスターになれるようにお祈りしてくれた。そのおかげで私は男役トップスターになれた。

 茉優ちゃんのお祖母様と会った日のこと、喜咲さんが退団を決めて私が男役トップスターになれると分かった日、劇団にOG科ができて劇団も変わっていくが退団した先輩たちも戻って来て賑やかになったこと。

 クリスマスには沙紀ちゃんも呼んで賑やかに過ごした。

 春公演のお披露目の演目には驚いたけれど、奏歌くんが評価してくれて嬉しかったこと。

 この一年にあった様々なことが思い出されて、書きたいことはたくさんありすぎた。


「奏歌くん、140センチを越したんだった」


 140センチを越したお祝いをした奏歌くんが、もう12歳でもっと大きくなっていることに驚きが隠せない。

 ずっと一緒に過ごしているから気付きにくいが、奏歌くんはこの六年の間にとても成長していた。


「お誕生日のスペシャルディナーも美味しかった」


 西京漬けを教えてくれて、私も奏歌くんに食べさせたいと思うくらい美味しかった。

 奏歌くんから食べさせてもらったものを、私は奏歌くんに返しているような気がする。それも仕方がない。奏歌くんが食べさせてくれるものはいつもとても美味しいのだ。


「奏歌くん、お誕生日おめでとう」


 呟きながら私は書き終えた便箋をチケットと一緒に封筒に入れて、シールで封をした。

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