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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼

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天使族の考えに毒されている様だ。▼




【イオタの町の近くの森 メギド】


 私たちからそう遠くない場所から魔族の気配がした。


 それも1や2ではない、おそらく10以上いる。

 何の種族かまでは分からないが、それほど脅威のある種族ではないだろう。


 血の匂いなどはしない。


「魔族の気配がする」

「もう追手が来たのか!?」


 先ほどのゴルゴタとの戦闘を見ていたタカシは、いつも緊張感のない様子とは異なり珍しく緊張した面持ちをしていた。


 メルやミューリンは恐怖に顔を引き攣らせている。


「いや……そうだとしたら気配を悟られる前に攻撃を仕掛けてくるだろう。危険はなさそうだが、念のためにレインとクロは攻撃に備えておけ」


 大狼族や龍族、私のような悪魔族もいるのに襲い掛かってくる愚か者もいないだろうが、私が警戒しながらも魔族の気配のする方へ歩み出て、その者たちに出てくるように促した。


 私が歩み出るとその者たちは私から距離を摂る為に後ずさった。

 明らかにあちらの方が私たちを警戒している。


「私は魔王メギドだ。私たちに用事があるなら出てこい。危害を加えてこないのなら、こちらもお前たちに危害を食わえることはしない。一歩踏み出したら敵意がないという意味として捉える」


 魔族の集団は少しの間沈黙していたが、ゆっくりと私たちの方向へと近づいてきた。


 その魔族全て、敵意がないということに偽りはない様子だ。


 出てきたのはエルフ、小人族、獣族、中級デーモン、ケンタウロス、オーク、ケルベロス、鳥獣族、小鬼族など、中位か下位の魔族らだった。


 これだけの多様な魔族が集団でいるのは珍しい印象を受ける。


「メギド様……ですか?」


 その中の女のエルフが1番前に出て、私と対峙する。


 小柄で弱々しい姿をしているように感じた。

 よく見れば、その場にいる者全員が弱々しく魔力量も極めて少ないようだった。


 ――この付近にある魔族の楽園の者たちか……?


 この周辺でこの面々ということは、恐らく魔族の楽園の者たちなのではないだろうかと私は考える。


「そうだ」

「……こんなところで人間などを連れられてどうされたのですか?」


 その疑問はもっともだ。

 私でさえもよくよく考えれば疑問に思う部分が多い。


 私やレイン、クロに怯えているだけではなく、どうやら人間も恐ろしく感じるらしく、怯えた表情でタカシらを見ている。


 その様子から察するに、人間らにも酷い迫害を受けて来たのかもしれない。「魔王様がこんなところに」ではなく「人間などを連れられて」の方が真っ先に出てくるところからして、人間を気にかけているのは明白だ。


「それには様々な理由がある。長々と今説明している余裕はないものでな。お前たちは魔族の楽園と呼ばれている場所の者たちか?」

「そうです。そう呼ばれておりますが……」

「そうか。私たちは魔族の楽園を探してここまできた。妖精族の者をお前たちの保護下においてもらいたい。もう妖精族の集落には居場所のない者たちだ」


 私の突然の申し出に対して、エルフらはミューリンとミザルデを見つめた。


 籠に入れられているミザルデを見たエルフらは動揺し、私たちから1歩後ずさった。


「何故籠で妖精族の赤子を拘束しているのですか……?」


 どうやら、ミザルデを私が籠に入れて拘束しているように見えたようだ。


 いくら私に温情がないとは言っても、妖精族の子供に対して加虐する趣味はない。


「あれは私が拘束して虐待している訳ではない。ゴルゴタが『嫉妬の籠』という魔道具に入れて出られないようにしたのだ。誤解するな」

「…………ゴルゴタというと、最近メギド様にとって変わった魔王様のことですか……? 恐ろしい話をいくつも耳にしますが……」


 その言い分に対して私は内心穏やかではなかった。


 魔王交代はしていない。

 厳密に言えば私が魔王だ。


 だが、威圧的な態度をとって怯えさせても仕方がないので、私はできるだけ冷静にエルフの言葉に返事をする。


「あれは正式に魔王になったわけではない。私は戦術的撤退をしただけのことだ。今は奴が魔王城を牛耳っているがな。取り戻しに行く最中だ」


 エルフは他の魔族らと顔を見合わせると、恐ろし気に私の方へと向き直った。


「そうですか……」


 返答に困ったのか、エルフは目を泳がせて私の後ろにいるタカシやメルの方を見て、気づいたように改めて私に対して話しかける。


「あの、お疲れの様子ですが、私たちの村で休まれて行きますか?」


 その提案に乗りたい気持ちは大いにあったが、今は私たちは追われている身だ。


 吐き気のする天使に被害が及ぶのなら私もなんとも思わないが、この弱々しい者たちに被害が及んでしまうのは本意ではない。


 それに、今は物資の調達も容易ではないはずだ。

 私たちが入ることによって物資を余計に使わせてしまうことになる。


 何よりも私の圧政に対して怨みを持っている者も少なくはないだろう。


 まして、人間を魔族の楽園に入れるという行為には強い抵抗感があるはずだ。


「言葉に甘えたい気持ちは大いにあるが、今は私たちも追われている身だ。私を招き入れることによって、お前たちの生活が脅かされることになりかねない」

「追われているのですか……?」

「あぁ。不本意ながらな」

「…………」


 魔族の序列は強さがすべてだ。

 私たちが自分たちの脅威になることはこの者たちも十分に理解しているはず。


 それでも私たちを受け入れようとするところが、普通の魔族の感覚とはズレている。

 だが、追われている身の私たちを受け入れるほどの気持ちの余裕はない様子だ。


「魔王様」


 私が話しをしている横からカノンが割って入ってきた。


「僕たちには休息が必要です。このまま次の町へ行くことはできません。まして、天使族がいる町へ向かうんですよね? 魔王様は悪魔族です。交戦する可能性はかなり高い。少しだけ休ませてもらいましょう」


 カノンの言っていることも尤もだ。


 魔族である私たちはともかく、タカシや佐藤、カノン、メルはかなり疲弊している。

 カノンの回復魔法である程度は持ち直ったとはいえ、空間転移の負荷は相当なものだ。


 回復魔法を受けた分のエネルギーも補給しなければならないだろう。


「………………」


 不快な天使の元へと行くのなら問題が大きくなる可能性は大いにある。


 そこにタカシらを連れて行くと人間を連れているという事で更に話がこじれる可能性も考えられる。


 だが、この場から私が去ればこの魔族らがタカシらを襲う可能性も否定できない。


 ――クロやレインをつければ、私1人で天使の本陣に行くことになる。いくら私が天才だとしても、今の状態で大勢の天使を相手にするのは分が悪い……


 メルの方を見て確認すると、まだ随分顔色が悪い。

 まだ辛いはずだが弱音の一言も口にせずにじっと我慢している。


 ――クロも長旅で疲弊しているはずだ。クロを置いてレインを連れて行けば……いや、空間転移後すぐだ。私もレインも疲弊している……休息を取っている猶予はあるのか……? ゴルゴタが追ってくる可能性は低いとは分かっているが……いや……この状況ではどこにいても身に危険が及ぶことは承知しているが……


「なぁメギド、メルを休ませてやろうぜ。無理して疲れてるところを襲われるより、ちょっと休んでからの方が良いって。お前も顔色悪いぞ」


 タカシの位置からは私の顔色など見えないはずだ。

 仮に見えたとしてもあの単細胞には顔色を読む高等技術など持ち合わせているはずがない。


「私なら問題ない」

「専門家じゃない俺だって、お前の顔色が悪いってことくらい分かる。レインもクロも元気ないしな」

「そうだよー……僕は頭も痛いし、気持ち悪いし、全然駄目な状態なんだからちゃんと休ませてよね。お腹も減ってるしさ」


 レインの文句を聞いた段階で、やむを得ないと考えたがそれはこちらの問題であり、この魔族らが受け入れるかどうかは別の問題だ。


 私が話しを渋っていると、それを悟ったのかエルフは私に声をかけてきた。


「私たちは弱き立場にある者を助ける立場の者です。お話を聞かせてもらえますか。恐れ多くもメギド様は弱き立場ではないとは思いますが……」


 私たちを受け入れる利点がこの者たちにはあるとは思えない。

 何故私たちにそう提案してくるのかが理解不能だ。


 ――何か思惑があるのか……? それとも、天使の思想に毒されているのか……?


「……天使の思想に毒されているようにも感じるが。ここは天使の息がかかっているのだろう。悪魔族の……あまつさえ魔王の私を入れたとなれば天使の反感を買うぞ」

「困っている方に種族の壁はありませんよ。天使様方も理解してくださります」


 天使族が私の事に関して一切のことを理解するとは思えない。


 天使とはかなり険悪な状態がずっと続いていたし、今もそうだ。


 だが、ここで押し問答をしていても自体は好転していかない。

 天使の息のかかった場所だが、頻繁に天使が来るのかどうかが重要だ。


「天使はよくお前たちの元に来るのか?」

「ときどきは来ますけど、ほとんど来ないです。安心してください。それに、今はこの騒動で天使族の注意はゴルゴタの方へと向いています。ここ最近は全くどなたの顔を見せておりません」

「そうか…………」


 確かに天使族にとって『血水晶のネックレス』の呪縛から解かれている今、魔王交代に力を入れるのは当然のことだ。


 人間が滅びる云々の部分は天使族にとっては付属品的な部分だろう。

 人間などに脅かされるような生活は送っていないはずだ。


 ――ゴルゴタの出方を伺っているにしては長いが……他の魔族とゴルゴタが相打ちになって隙ができるのを待っているのか……? 魔王交代の際に私に襲撃をかけて追い返されたことは脳裏に焼き付いているようだな


 天使族の細かい思惑は分からないが、魔王交代で魔族の頂点に立とうと考えていることだけは間違いない。


 ――私が生きているということは天使族の耳に入っているかは不明だが、私が天使族の元を訪ねれば「ゴルゴタに魔王の座を奪われた負け犬」などと見下されることになるだろうな……


 それを考えると本当に天使の元へ行くのを躊躇させる。

 天使に下に見られるなど到底耐えられる所業ではない。


 しかし、『時繰りのタクト』があれば格段に勝率があがることは明らかだ。

 諦めるわけにはいかない。


「分かった。少し言葉に甘えることにしよう。詳細は休憩をしながら話す。お前たちの村まではここからどれほど離れている?」

「すぐそこです。何もない場所ですが、身体を休める事くらいはできます。こちらへどうぞ」


 エルフが道を示した先へ向かうべく、私はタカシらに目配せしてゆっくりと歩き始める。


「メルを背負ってやれ」


 タカシにそう指示すると疲弊しているタカシが頷いて膝を折り、メルに対して背を向けた。


「メル、俺の背中に乗れ」

「でも、タカシお兄ちゃんも疲れてるから……」

「俺の事なら気にするな。大丈夫だ。体力だけが取り柄だからな」


 躊躇ちゅうちょしていたメルもタカシに促されておずおずとタカシの背中に身を預けた。

 メルを背負うとタカシも多少ふらついていたが、佐藤やカノンが手を貸し、なんとか歩いている。


「あの、辛かったら俺が代わりに……」


 琉鬼がタカシにそう申し出るが、私はそれを却下した。


「お前は駄目だ」

「な、なんでですか!?」

「お前は本物の小児性愛者ロリータコンプレックスにしか見えない」

「へぇ……こっちの世界でもロリコンって単語があるんですね」

「どうでもいい。黙って歩け」


 妙なところに驚いている琉鬼を無視して、私たちは魔族の楽園へと向かった。




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