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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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頭を打ち付けた!(状態異常:狂気)▼




【ニューの町】


 メギドらは足元に展開された空間転移魔法で、ゴルゴタの前から一瞬で消えた。


 蓮花はそうなることを予期していた。

 メギドやセンジュがゴルゴタに気づかれないように魔法を展開していたことは知っていたからだ。


 その後、ゴルゴタがどう反応するのかということまでは予期していなかったが、もしメギドを取り逃がしたらゴルゴタは烈火の如く怒り狂い、自分やセンジュに対して暴力を振るうのではないかという不安はあった。


 しかし、その予想に反してゴルゴタは余裕そうに笑っている。


「キヒヒヒ……尻尾巻いて逃げやがったか……腕の一本くらい持って帰りたかったがなぁ…………」


 指の端をカリカリと噛む様子もなく、ゴルゴタはそれほど苛立っていたり興奮していたりするわけでもないらしい。


「その刀蛭とうてつの剣で1人殺すという目的は果たせましたね」

「正確には殺してねぇよ。でも……まぁ……圧倒的な力の差ってやつを見せつけられたから俺様は満足だぜぇ……血も吸わせられたし……玩具のお披露目もできたしなぁ?」


 ゴルゴタがそう話をしている中、センジュはただ静かにゴルゴタと蓮花を見つめる。


 その視線に気づいて蓮花はセンジュに目配せした。

 センジュは蓮花の目を見て、なんと言わんとしているかすぐに分かった。


 要するに、「余計なことを言わない方が良い」ということだ。


 メギドらが逃げることにセンジュや蓮花が加担したとあれば、ゴルゴタはすぐさま機嫌を損ねるだろう。


 とはいえ、ゴルゴタが気づいているとしたら言わないという選択は悪手となりえる。

 その微妙な判断をするのは難しい。


「彼らは空間転移の負荷に耐えられるんでしょうか」


 別の話題を振って、蓮花とセンジュはゴルゴタの様子を見た。


 人間が空間転移魔法を使うと、瀕死の状態になると蓮花は聞いたことがある。

 人間もそうだが、下位の魔族もかなりの負荷を受ける。

 妖精族もいたようだが、耐えられるのかは疑問だ。


「さぁなぁ……前、妖精族を転移させたときは耐えてたけど……そう何度も耐えられねぇだろなぁ……キヒヒヒヒ……死んじまうかもなぁ……」

「回復魔法士がいましたので、生存率は高いかと思います。…………追いますか?」

「どこに行ったのかなんざすぐわかる……でも、追いかけ回して痛めつけるのは小物のやるこった……ヒャハハハッ……俺様は別のシゴトだ……」


 ここで「追いかけない」と言ったことに、センジュと蓮花の両名は安堵していた。


 追いかけて行って「殺せ」などと指示された場合はそれを遂行しなければならない。


 それに、空間転移後の負荷がかかっている状態で追撃をすれば、間違いなくメギドたちに勝算はないだろう。

 センジュとしてはそれを避けたいという気持ちが強かった。


「次は何をされるおつもりですか?」

「アギエラ復活の方を進めるんだよ……高位魔族の連中の首を縦に振らせる。キヒヒヒ……俺様が直接行くつもりだ……下のやつらじゃ話にならねぇって分かったからなぁ……毛のない猿ってのはやっぱどいつもこいつも俺様を不愉快にさせやがるぜ……楽しみは取っておきてぇがなぁ……そろそろ全部掃除しちまわねぇと……」


 ゴルゴタ自身が高位魔族の元へ行くと聞いて、蓮花は嫌な予感がした。


 高位魔族の元へ行く際に、自分が連れていかれるのではないかと蓮花は不安に駆られる。

 高位魔族に喧嘩を売りに行くとしたら、命がいくつあっても足りない。


 ただでさえ、メギドと対峙するというときに護衛としてセンジュをつけなければならなかった。


 今回の事はただの幸運だったに過ぎない。


 メギドが理性的でなかったら、今頃死んでいたかもしれないと蓮花は不安に感じる。


 ひと呼吸おいて蓮花はゴルゴタに不安に思っていることを問うた。


「あの……念のためにお伺いしますが、高位魔族の説得には私は同行しなくてもいいですよね?」


 ゴルゴタは振り返って蓮花の方を向き、その不安げな瞳を見据えた。


「何言ってやがる。てめぇもくるんだよ」


 その話を聞いて蓮花はがくりと露骨に肩を落とした。


 それを見たゴルゴタはニヤリと笑って蓮花の頭を掴み、無理やり上げさせる。

 鋭い爪が蓮花に痛みを与え、少しばかり蓮花は表情を歪ませた。


 その少しばかり歪んだ表情にゴルゴタは満足げな表情を浮かべる。


「勘違いするなよぉ……? てめぇは俺が監視してるんだぜぇ? そこんとこ、ちゃーんと理解して身の程を弁えろよなぁ……?」

「ゴルゴタ様、蓮花様の身に危険が及びます。何よりも、人間を連れて行けば各高位魔族の反発は更に強くなるでしょう」

「あぁ? 俺様は交渉しにいくなんて言ってねぇだろぉ……? 首を縦に振れるようにぶっ潰しに行くんだ」


 案の定と言うべきその返答を聞いて蓮花は少し可笑しく思い、笑ってしまった。

 蓮花が笑ったと同時にゴルゴタは蓮花から手を放す。


「ふふっ……それでこそ、ゴルゴタ様ですね。でも、私はついて行っても足手まといにしかなりませんよ。それに、攫ってきた人間の方の処理もあります。分担をするのは悪くないと思いますけど、いかがでしょう?」

「んなこと言ってよぉ……てめぇが行きたくねぇだけだろぉ……? 顔に行きたくないって出てるぜ」

「はい。行きたくはないですよ。でも、メギドさんたちが城まで来るのもそう遠くないと思いますし、準備も時間がかかりますので、提案してみただけです。私は戦闘スキルも乏しく、高位魔族の前では無力なので、同行する場合の守備はよろしくお願いします」

「足手まといが1匹いたところで、俺様が劣勢になることなんざねぇけどなぁ……つっても、クソ勇者を生き返らせる方も進めねぇとなぁ……ま、てめぇが2倍働けばいいだけの話だ」

「ゴルゴタ様が人間を滅ぼしてくれるのなら、いくらでも働きますよ。今は大切な時期ですからね」

「へぇ……殊勝な心掛けだなぁ……?」


 蓮花とゴルゴタが話している中、センジュは難しい表情を浮かべていた。


 メギドの元へと蓮花を連れてくることも否定的だったが、高位魔族の元ともなれば更に危険が伴う。


 ゴルゴタが強大な力をもっているとはいえ、複数の高位魔族と対峙すれば無傷ではいられないだろう。


 本人が高位の回復魔法士であることや、ゴルゴタの並外れた回復能力をもってしても、かなりの不安が残る。


「もし、蓮花様を連れて高位魔族の元へ行く際には、わたくしも同行させていただけませんでしょうか。話し合いで解決できれば、それが一番協力を仰ぎやすいと思いますし」

「ばぁーか。俺様をコケにしやがった連中をぶっ潰してぇんだよ……キヒヒヒ……話し合いで済んじまったら、なぁーんにも面白くねぇだろうが……」


 想定内の返答が返ってきたので、その返答にセンジュが答えようとするとゴルゴタはさらに言葉を続けた。


「でも、まぁ、ジジイがいた方が簡単に話が済むだろうなぁ……? 俺様としても優秀な玩具が万が一にもぶっ壊されたら面倒だし……こういうのは面倒でも、ケンジツな方が良いんだろぉ……? そーゆーの苦手なんだよなぁ……」

「良いじゃないですか。力で何もかもねじ伏せることができるのはかっこいいと思いますよ。作戦とか、こざかしいことは私が裏でやっておきますから。ゴルゴタ様は表に立って堂々としていてください」

「……んなこと言って、俺様を都合よく使おうとしてんだろ。見え透いてるっての」


 口ではそう言いながらも、ゴルゴタは機嫌を悪くするわけでもなく笑っていた。


 センジュにはそれが不器用な照れ隠しだということは分かっている。

 だが、それについて言及することはなかった。


「使うだなんて聞こえが悪いですね。私にはどうにもできないことを力のあるゴルゴタ様にお願いしてるだけですよ。目的は同じなんですから、お互い協力し合って達成しましょう」

「…………ま、そうだな。さっさと事を終わらせて、てめぇは魔人化すればいい」

「その資料も全然目を通せていないので、勉強もしないといけないですね。まずは城の人間をどうにかしないといけないですし、やることは山積みです」

「先に城の毛のない猿どもをなんとかしろ。それが済んだらお高くとまってる高位魔族をぶっ潰しにいくぜぇ……? キヒヒヒ……」

「かしこまりました」


 蓮花がゴルゴタに頭を下げるとゴルゴタは蓮花の足首を乱暴に掴み、羽ばたいて空へと飛び立った。


 その際に蓮花は体勢を大きく崩し、地面に後頭部をぶつけてしまう。

 その痛みで両手で頭を押さえながら蓮花はゴルゴタに文句を言った。


「いっ……たぁ……ゴルゴタ様、頭打ったじゃないですか……ゆっくり持ち上げてください……」

「はぁ? 鈍間のろまだなぁてめぇは……」

「頭を強く打ち付けて狂ったらどうするんですか」

「ヒャハハハハッ、元々てめぇは狂ってんだから気にするこたぁねぇぜぇ……? おいジジイ! もたもたすんな!」

「はい、ゴルゴタ様」


 そうして蓮花はゴルゴタに逆さ吊りのまま運ばれ、魔王城へと戻ることになった。


 センジュはメギドらが気がかりで落ち着かない気持ちでいたが、今ゴルゴタの元から離れるわけにはいかない。


 ――メギドお坊ちゃま……どうかご無事で


 名残惜しさを残しながらも、センジュはゴルゴタと蓮花の後を追った。




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