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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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長所を10個あげてください。▼




【メギド ニューの町】


 悪趣味な条件提示だと考えた。


 このまま戦ったところで私の方の勝算が低いことは私もゴルゴタも分かっている。

 だから私が3名差し出すのなら他は見逃すという条件を出した。


 あるいはその3名も出せないというのであれば、今度は私の腕を切り落とせという言い分だ。


「面白い話だろぉ……? キヒヒヒヒ……どれだけペットを大切にしてるか、俺様に教えてくれよぉ……?」


 私が腕を失うことがどれほどの損失になるか考えれば、家来の3名を差し出した方が全体の勝算は上がるだろう。


 しかし、私が3名の犠牲者を差し出せば、その後の旅に影響が出る。

 今はなんとかまとまりのある状態の私たちの関係は断絶し、修復は不可能だ。


 かといってこのまま戦う選択をするのはあまりにも愚かしい行為に他ならない。


 そして、選択肢を提示することで暗に私の選択の自由を奪っている。


 そこまで考えて条件を提示している様には思わないが、回りくどいやり方を好まないゴルゴタが、そんな提案を率先してすることに疑問を覚える。


「そのなまくらの剣で切り落とすんだよぉ……この辺からなぁ……? ヒャハハハッ」


 二の腕の中腹の辺りをゴルゴタは指さして私に提示する。


「随分悪趣味な遊びを思いつくものだな」

「キヒヒヒヒ……俺様が思いついた訳じゃねぇ……この人殺しが最近やってた遊びを参考にしたまでだぜぇ……? なぁ……?」

「自分以外がやっているのを見ると、複雑な気持ちになります」


 ――やはり、入れ知恵か


 ゴルゴタが蓮花の方を向いてそう言っているのを見て、やはり特級咎人になるほど性格が歪んでいるように感じた。


 私が怪訝けげんな表情で蓮花を見ている以上に、カノンは呆然とした表情で蓮花の方を見ていた。

 しかし、すぐに険しい表情になってゴルゴタに食って掛かる。


「蓮花さん、そんなやつと一緒にいると貴女にとって悪影響でしかありません」

「…………もう、貴方と話すことはありません」

「クソガキ、てめぇは少し、身の程を弁えた方が良いんじゃねぇかぁ……? ご主人様のしつけが行き届いてねぇみてぇだなぁ……」

「どうしたら僕を信じてくれるんですか?」


 ゴルゴタを恐れもせずに、カノンは蓮花に食って掛かる。


 得策とは思えないが、しかし、私はカノンがゴルゴタの気を引いている間に、打開策を考えた。


 恐らく、センジュはゴルゴタ側にはいるが私の方へと傾倒していると考えていい。

 なら、少しの手心で逃れられるはずだ。


 あるいは、空間転移の負荷を度外視して別の町へと転移するしかない。


 ただ、空間転移の魔法を構築する時間を稼ぐ必要がある。


 この範囲にいる全員を魔法陣の中に入れるとすると、構築にかかる時間は3秒~5秒。

 琉鬼も回収しなければならない為、2つの魔法陣を同時展開することを考えれば、6秒程度は必要だ。


 だが、ゴルゴタやセンジュはこの距離であれば一瞬で間合いを詰めてくる。


 それを魔法で妨害したとしても隙ができる時間は3秒、4秒程度だろう。


 ――空間転移の負荷に耐えられるかどうか、それは賭けだ。ミューリンやミザルデは死んでしまうかもしれない。だが、カノンが負荷を緩和することができればいいが、その当人のカノンも空間転移の負荷がかかる。賭けをする他ない


「……私は回復魔法士を他の誰よりも信じられないんですよ」

「じゃあ僕は回復魔法士という立場を捨てます。僕はただのカノンです。だから蓮花さんも特級咎人の蓮花さんという肩書や、しがらみは捨てて僕と向き合ってください」


 そのカノンの言葉を聞いて、蓮花はますます険しい表情をしてカノンを見つめた。


 ゴルゴタは食い下がってくるカノンに対して嫌悪感を示しながらも蓮花とカノンの会話には興味があるらしく、無理やりに中断させることはなかった。


「向き合ってどうするんですか? 貴方は私を思い通りにしたいだけじゃないですか。なら、ゴルゴタ様の方がいいです。私を選ぶ人よりも、私が選んだ人の方が良い。人……じゃないですけど」

「なんでそんな男を……」

「じゃあ、俺様のどこがいいのか10個言ってみろよぉ……? キヒヒヒ……」


 こんな状況下であるのに、随分ゴルゴタは悠長だ。


 だが、それほど私たちをいつでも殺せるというおごりがあるのだろう。


 それをつけば上手くいく。


 蓮花はゴルゴタの言う「良いところ」を10個想像しているのか、難しい表情を維持し続けていた。

 私としても、ゴルゴタの良いところを10もあげるのは不可能だ。


 ゴルゴタを良く知っている私が不可能なのだから、当然付き合いの浅い蓮花は言えないはずだ。


「10個ですか? うーん……自分の事を最優先に考えている、嘘をつかない、自分を取り繕わない、意外と真面目、信念に忠実、自分を隠すのが下手、頭が良い、私に対して率直に話してくれる、大義名分を振り翳さない、圧倒的な暴力を行使できる、あと……あと1つは……えっと……顔が良い」


 ゆっくりと私が空間転移魔法を構築する中、蓮花の言葉を聞いていて「それは良いところなのか?」と言いたいところがいくつかあったが、よくゴルゴタのことを観察していると感じた。


 出会ってからまだ日も浅いはずだが、それでも要点はついている。

 それに、悪いところも巧みに良い点に置き換えて言っているようだ。


 蓮花のその言葉を聞いて、センジュは不意をつかれたのか失笑した。

 口元を押さえて上品に笑っている。


「ふっ……ほっほっほっほ……中々趣深い回答でございますね」


 上品に笑った後、センジュは私に自然に目配せしてきた。

 そして指先をゴルゴタに見えないように軽く動かす。


 探知できない程の小規模な魔法を、ゆっくりとセンジュが展開したことは分かった。


 それは魔法関知を阻害する魔法と、認知を歪ませる魔法だ。

 それが完成すれば私が魔法を展開してもゴルゴタは気づく頃には私たちは空間転移で別の場所へと移動できる。


 ――流石はセンジュだ。私の考えもお見通しという訳だな


 本当に有能な執事だ。


 だが、この状況下でセンジュがゴルゴタに従う明確な理由が分からない。


 城に幽閉されているのだと考えていたが、今なら逃げる事も可能だ。

 私と共にゴルゴタの野望を阻止することもできる。


 その選択肢もセンジュであれば、当然あるはずだ。


 ――何か弱みを握られている……?


 だが、センジュはずっと魔王城で一緒に暮らしてきた。

 長い間時間を共にしてきたが、何か弱みを握られるような隠し事があるようには思えない。


 あるいは、私に悟られない程の秘密を隠し通していたというのか。


 ――そうであるなら、私にも知られたくないセンジュの秘密とはなんだ?


「おい、顔の事を取ってつけたように言うんじゃねぇよ……言うなら一番初めに言え」

「ゴルゴタ様が綺麗な顔をしているのは以前から思ってましたが、今言うべきかどうか悩みました。ですが、10個目が出てこなかったので最後に申し上げました」

「…………」


 その言葉に嘘はない。


 本当に良いところだと思っている点を挙げていたようだ。


 崇拝的にも感じる。

 だが、心酔しているというわけでもない。


 女が男に心酔する場合、盲目的になり、それが容易に見て取れる。

 心酔していればゴルゴタももっと雑に蓮花を扱うだろう。


 だが、それがこの二者の間には見受けられない。


 ――何を企んでいる……? 本当に人間を滅ぼすというだけか……?


 私はその間にも空間転移の魔法を構築し続けた。


 それは私の後ろにいた者たち全員が理解していただろう。

 あの愚かなタカシですら、この状況を理解しているようだった。


 しかし、カノンだけは私の前に居る為に状況を把握しきれていない。

 それどころか、徐々にゴルゴタと蓮花の方へと近づいていく。


 あまり離れられては空間転移魔法陣の範囲外に入ってしまうか、あるいはゴルゴタに気づかれる。


 だが、ここでカノンに声をかけてゴルゴタの気をこちらに向けるわけにはいかない。


「勿論、きちんと考えれば10個では収まらない良いところがあると思いますが、パッと思いつくのはそれが限界です」

「あと、自分を隠すのが下手って悪口だろ」

「私はそれが良いところだと思います。自分を隠すのが上手いのは、悪いことだと思いますから。自分を追い詰め過ぎる。そして破滅して行くんです。それに、腹が黒いのは好かれませんね。目利きの人なら見破れますから」


 そう言い終わった後、センジュは何か言いたげに蓮花を見つめていた。

 蓮花もセンジュを見つめたが、すぐに目を逸らして蓮花は私の方を向いた。


 認知を阻害する魔法をセンジュが展開しているとはいえ、蓮花は目を細めて私の方を怪訝そうに見つめた。


 それに気づいたセンジュは蓮花の気を逸らそうと声をかける。


「蓮花様も、自分を追い詰め過ぎる傾向にあるとお見受けいたしますが」


 しかし、センジュが声をかけたことは逆に悪手であった。


 蓮花はセンジュの手元へと視線を移した。

 魔法に詳しい蓮花が、センジュの手元を見て分からないはずがない。


 ――気づかれたか……勘の鋭い女だ……


 私は強硬手段として強引に空間転移魔法を発動させるかどうか考えたが、蓮花はそれを見てもセンジュを見返すのみで何も言わなかった。


 センジュを見た後、もう一度私の方を視線だけ動かして一瞥してきた。


 まるで、逃がすべきかどうか品定めをするような目だった。

 ここで全面的に争えば、少なくとも自分に危害が及ぶことも考えの内にあるのだろう。


 だが、ゴルゴタに敵対する私に対して、逃すという事が自分の目的の弊害になることも承知しているはずだ。


 私を一瞥した後、またセンジュを見つめた。

 センジュも内心穏やかではいられなかっただろう。


 しかし、蓮花はやはり何も言わなかった。


「…………自分を追い詰めてる訳じゃないですよ。どんどん自分の首が勝手に締まっていくんです。隠したいことはありますけどね。誰にだってありますよ」

「てめぇは俺様に隠し事をせずに何もかも話しやがれ」

「まぁまぁ、全部話してヒラキにしちゃった女にはなんの魅力もないと思いませんか? 何を考えているのか分からないくらいが丁度いいんですよ。それを、根掘り葉掘り聞いてくる男というのは美しくない」


 蓮花はカノンの方を見ながらそう言った。

 これも上手い返しだ。ゴルゴタに言うのではなく、カノンに言う事でうまくゴルゴタを牽制している。


「貴方も回復魔法士をしているのなら、その内分かりますよ。相手に心を開かせるときは、こじ開けるようにしても絶対に開かない。自然と話してくれるまで待つしかないんですよ。どれだけでも、待つしかない」

「…………」

「これは回復魔法士の先輩としてのアドバイスです。信用を得るのは容易ではないですよ。どれだけ信じてほしいと思っても、信じてくれない相手もいるんです」


 やけにまともなことを言っている蓮花に、再び違和感を覚える。


 蓮花はカノンを見るようにしているが、私や他の者たちをゆっくりと視線を動かして見つめる。


 私は蓮花が何が言いたいのか分かった。

 私に対して「早くしろ」ということを言っているようだ。


 これは時間稼ぎの長話にすぎない。


 ――何故私に協力する……?


 これは私の勘違いではない。

 しきりに蓮花と目が合う。


 表情や声色にそれを出さずにうまく隠している。


「……僕が未熟なのは痛感しています。でも、信じる相手を間違えているのは、誰が見ても明白です」

「貴方では私の心を救えない。信じるという行為は、自分が救われたいからする行為です。私はゴルゴタ様なら私のことを救ってくれると信じてます。信じてほしいのなら、次に貴方に会うことがあれば、成長している姿を見せてください」


 蓮花がそう言い終わったとき、私は空間転移魔法を発動させた。




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