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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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ステータス:救世主妄想。▼




【メギド ニューの町】


 カノンに名を問われた蓮花は、冷ややかな目でカノンを見ていた。


 私を見る目、ゴルゴタを見る目、センジュを見る目は全て違う。


 ゴルゴタを見るときは幾分か優しい目をしており、センジュを見るときは尊敬の念を込めた目、私を見るときは少しばかり畏怖いふが感じられたが、カノンを見たときの目は軽蔑、怨嗟えんさを感じるような冷たい眼差しで見ていた。


 口に出さないだけでかなり正直者のようだ。


「お答えしてもよろしいですか? ゴルゴタ様」

「好きにしろ」


 その後、ゴルゴタの方を振り返り返答の許可をもらうと、あっさりと蓮花は肯定した。


「そうですよ。お察しの通りです」


 何故名前が知れているという事も理解しているはずだ。

 特級咎人として自分は追われる身分だと分かっているはず。


 ゴルゴタやセンジュがいるにも拘らず、恐れることなくカノンは蓮花の方へと一歩、二歩と近づいていく。


「僕の事、分かりますか? カノンです」

「カノンさん……? うーん……名前は聞いたことあるような……」


 そこまで話したところで、ゴルゴタは不機嫌そうな表情で蓮花の肩を掴んで乱暴に後ろへ下がらせた。


「おい……俺様の所有物と気安く話ししてんじゃねぇよ……ぶち殺されてぇのかてめぇ……」


 その間にタカシや佐藤がクロから降りてきて私の元へと駆け寄る。


 タカシは私の背中の傷を見ておろおろと狼狽ろうばいしてゴルゴタと、蓮花の持っている翼と、私の背中を何度も何度も見つめる。


「メギド、大丈夫か? 酷い怪我してるじゃねぇか……」

「……見ての通りだ。下手に動くな。黙っていろ。黙っている方が賢明だ」


 佐藤はゴルゴタを見て、殺意を剥き出しにして飛び掛かろうと剣を抜いた。


「佐藤、やめておけ」

「なんでですか!? 仇が目の前にいるんですよ!?」

「その指先で弾けば折れてしまいそうな剣で向かったところで、勝算は0だ。落ち着け」


 私は牽制するものの、佐藤は今にも走って向かって行きそうな勢いだ。

 だが、それを強く牽制する。


 佐藤を引き留めている間にもカノンはまた一歩近づいてゴルゴタにうた。


 近づくなと言おうとしたが、私よりも先にカノンは先に話し始める。


「……少しだけ、お話させていただけませんか? 僕は回復魔法士をしております。カノンと申します。お願いします……どうしても蓮花さんと話がしたいんです」


 なるべくゴルゴタを刺激しないようにカノンは丁寧にお願いした。

 両掌を見せながら敵意がないことを証明しつつ、カノンは一定の距離を保ちながらその場に止まる。


「…………ふぅん……お前、本当に有名なんだなぁ……? キヒヒヒ……」


 ゴルゴタとしては、自分の所有している者が多くを求められる存在であることに満足げに笑っていた。


「……私は別に、話すことなんてありません。相手が回復魔法士なら、尚更ありません」

「まぁそう言うなって……5分やる。つまんねぇ話を俺様に聞かせるなよ……キヒヒヒ……」


 自分の玩具の有能さについてゴルゴタは興味があるらしい。


 カノンと会話をすることを勧められて蓮花は渋い表情をしながらもそれを承諾する。


「…………ゴルゴタ様がそうおっしゃるなら、少しだけなら。でも、翼をつけるなら早くしないとなりません。先につけてからでもいいですか?」

「……あぁ、お前の力をその雑魚どもに見せてやれよ……ヒャハハハッ」


 蓮花は敵意を剥き出しにしている私の周りの者たちに、敵意がないことを示しながらゆっくりと近づいてきた。


 クロやレインは今にも魔法を発動させるか、首元を噛み千切りに飛びつきそうになっているのを私は「やめろ」と言って抑えた。


「私は回復魔法士です。今からメギドさんのがれた翼をつけますから、力を貸してください。翼が重いので、誰か支えていてもらえませんか?」

「俺が支える。つけられるのか?」


 タカシがそう尋ねると、蓮花は「はい」と返事をした。


 タカシは蓮花が抱えるようにしている私の翼を受け取り、向きを合わせる。


「信用できるんですか!? あの男の配下の……しかも咎人じゃないですか!?」

「佐藤、落ち着け。嘘はついていないし、悪意も感じない」


 佐藤の怒声に蓮花は少し身を引いたものの、おずおずと私の背中側に回って創部を確認し始めた。


 私の肩に乗っているレインが蓮花の方を見ているが、間近で見て敵意を感じ取れないことを確認すると、黙って私の背中の創部に視線を移す。


 ゴルゴタの配下の者に背中を預けるのは気が引けるが、ゴルゴタの命令で動いているのだから、「力を示せ」と言っているのに顔に泥を塗るような真似はしないと考え、背を預けた。


「しっかり支えていてください。下手に動かすと繋げている先に切れてしまう可能性があるので、動かさないようにお願いします」

「分かった」

「背中の凍っている部分を溶かしてもらえませんか?」


 そう言われ、私は氷魔法で止血している部分を溶かした。

 再び出血し始めて背中を血を伝う感触がする。


「僕が補助をします」

「……いえ、私の回復魔法が不安なようでしたら見張っていていただいて結構ですから、1人でさせてください。いつも1人で行ってましたので、そちらのほうが慣れているんです」


 カノンの申し出を断ったのは、ゴルゴタの顔を立てる為だろう。


 手伝わせて成功しても自分の性能を誇示することには繋がらない。

 それは蓮花本人もよく分かっている様子だ。


 それに、ただ単に本人はあまり手伝ってほしくなさそうに見える。


「……分かりました。見学させていただきます」


 カノンはすぐに引き下がった。


 カノン本人も蓮花の回復魔法の実力を実際に確かめたいと思っているに違いない。


 カノンが見ている手前、尚更おかしなことはできないだろう。

 おかしなことを少しでもすればカノンが気づくはずだ。


「始めます」


 蓮花が回復魔法を展開すると、背中の痛みが一瞬で引いていった。


 そうしている間に、もう失った翼の感覚が戻ってくる。


「感覚が戻っても動かさないようにお願いします」


 蓮花が回復魔法を展開してからものの1分程度しか経っていないのにも拘らず、背中の痛みは完全に消え、翼の感覚もしっかりと戻り動かせるようになった。


 タカシが私の翼をどのように持っているかも全て伝わってくる。


 かなりの腕前なのは体感すれば分かる。

 怪しげな回復魔法などというものを当初は侮っていたくらいだったが、これほどまでの技術であるなら十分に実用的に思う。


「終わりました。動かしてみてください。もう手を放しても大丈夫ですよ」


 私が捥がれた翼を羽ばたかせてみると、以前となんら変わらない自分の翼の感覚に驚きさえする。

 早い上に、正確で確実だ。


 カノンの回復魔法も正確だが、これほどまでに早くはない。


「異常はないですか?」

「あぁ。ない」

「そうですか。カノンさん、確認してもらえますか?」

「はい」


 カノンが魔法で私の翼の付け根の部分を検査するが「問題ありません」と回答する。


 蓮花はその返事を聞いて身を引き、一礼してゴルゴタの方へと戻って行こうとした。


「待ってください。お話を……」


 カノンの引き留める声に、蓮花の脚は止まった。

 だが、中々振り返ろうとせずに2秒、3秒経った頃にやっと振り返った。


「…………質問をするのなら1つだけでお願いします。あんまり話したくないんです。動機とか聞いてくるのだけはやめてくださいよ」

「……分かりました。じゃあ、自己紹介からしますね。改めまして、僕はカノンと申します。回復魔法士として稼働しています」

「…………どうも……私の事はご存じかと思いますので、失礼ながら割愛させていただきます」


 口で説明する代わりに、顔の番号のタトゥーを見せるように髪を払う。


 あくまで自分のことは話したくない様子だ。


「僕は……蓮花さんに憧れてました。いえ……“ました”というよりも、今も憧れているんです。本当に多くの人を休む間も削ってずっと直し続けて……その傍ら、研究熱心で、何度もあなたの研究発表を聞いたことがあるんですよ」

「そうですか……」


 自分のことをそこまで知っている相手に対して、蓮花は喜ぶよりも嫌悪感に近い感情を示す。


「僕は、蓮花さんのようになりたくて勉強中なんです。でも、やっぱりあなたほどの技術には手が届いていません」

「…………」

「以前、蓮花さんを見かけた時に声をかけようとしたんですけど……でも、勇気がでなくて、話しかけられなかったんです。でも……今ではそれをずっと後悔しています」

「どうしてですか?」

「もし僕があなたの支えになることができていたら、あなたの苦しみを少しでも、その一端でも分かることができたら……こんなことにはならなかったかもしれないと思うからです」


 カノンと話をしている最中はあまりいい表情はしていなかったが、その言葉を聞いて蓮花は更に表情を険しくさせる。


「…………それは、あまりにも傲慢な考え方ですよ。貴方に会っていようが、いまいが私はこうなっていたと思います」

「蓮花さんの変調に気づく人がいなかったせいだと思うんです。僕の事、救世主妄想メサイアコンプレックスだって思いますか?」

「ええ。救世主妄想メサイアコンプレックスはこの上なく不愉快です」

「僕は違います。蓮花さんは誰にも頼らないでずっとここまできました。でも、今はゴルゴタに頼っている。僕は頼る相手を間違えていると思います」


 カノンはゆっくりと蓮花に近づく。


 それを警戒して蓮花はカノンと同じ速度で後ずさった。


「……私は間違えたとは思いません」

「彼はあなたを所有物と言っていました。まともな扱いを受けているとは思えないです。彼は蓮花さんの真価を知らないんです」


 ゴルゴタに対しての強気な物言いに対し、ゴルゴタは眉をひそめる。


 この場でその「真価」を何よりも知っている者はカノンだろう。

 だが、深く蓮花のことを知る者に対してよりいっそう蓮花は冷たい目を向けた。


「何もわからないのに、分かったような口ぶりで話すんですね。ゴルゴタ様の私の扱いは、人間にされていた扱いよりもずっとまともですよ」

「人間を滅ぼそうとしている相手からまともな扱いを受けるわけがないです。目を覚ましてください……本当の貴女は……堕ちてしまっていた小鳥をそっと治してあげる優しい人のはずです。彼に脅されているんですか?」


 首を横に振ってカノンの言葉を否定しながら、蓮花はまっすぐカノンの方を向いて返事を返す。


 これだけ悪く言われているのに対し、ゴルゴタは険しい表情はしているものの、ただ蓮花とカノンの方を正視していた。特に口を挟もうともしていない。


「…………どっちが本当の私なのか、カノンさんには分からないでしょう。私は残酷で、冷血で、目の前の命に心を傷めたりしない人間なんです。カノンさんが私に幻想を抱いているだけですよ」

「違います。あなたをずっと見て追いかけていた僕には分かります。あなたは優しい。あなたは真に心を砕いて相手の為に尽くすことができる」

「それが幻想だって言っているんですよ。貴方の目は曇っている。事の一端を取り上げて私の全てを決定しようとしないでください」


 カノンの言葉に明らかな不快感を示し、蓮花の口調は強くなった。


「頼るのなら、頼りないかもしれませんけど、彼ではなく僕を頼ってください」


 熱心なカノンの説得を聞いていて、私はそこに違和感を覚える。


 事件の真相を突き止めたいと言っていたが、カノンの口ぶりからはあまりにも個人的な気持ちが見えている。


 それは明らかな好意だ。


 事件の真相を解明したいという大義名分を被った、個人的な感情があるように思う。


「わかりませんね……どうして私にそう固執するのか。私の研究について知りたいか、あるいは咎人に対して異様に執着する類としか思えません」

「上手くは説明できませんが、僕が蓮花さんを救いたいと思っているのは本当です。あんな男よりも、僕を信じてください。一緒にやり直していきましょう」


 カノンは蓮花に対して手を差し伸べた。

 それを蓮花は見て戸惑う。


 それ以上にゴルゴタやセンジュが険しい表情をしたのが分かった。


「……やり直せるわけがないですよ。これだけ手を血に染めて、私だけやり直そうなんて虫のいい話です。そもそも望んでません。何十人も手にかけたんですから」

「蓮花さんは正確に物事が判断できなくなっていただけです。責任能力が当時のあなたにはなかった。あなたは裁かれるべきじゃない」

「…………その理屈では無理ですよ」

「いいえ。国はあなたを死刑にしたいあまりにきちんと調べていなかった。きちんと調べればわかるはずです。幻夢草をバイヤーから買っていたのは事実でしょう?」


 また一歩カノンが蓮花に近寄ると、蓮花は更にカノンから距離を取る。


 いつもは相手に上手く合わせるカノンだが、この件については熱が入っているらしく、相手の感情を上手く読み取れていないように思う。


 蓮花が立ち入ってほしくないと態度や言葉で示しているのにも関わらず、カノンはそこに切り込んでいっていた。


 よもや、ここにゴルゴタやセンジュがいることなど眼中にないほどのめり込んで行っているように思う。


「……私に固執するのはやめた方が良いですよ。どんな理由があるにせよ……カノンさんは私に幻想を抱きすぎてる。貴方の方が物事を正確に判断できていません。正気ではない者は罰しないという法律のことなら、私が一番詳しく知っています」


 その後、蓮花は驚くべき発言をする。


「あれは私が作った法律なんですから」




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