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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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毒を手に入れてください。▼




【アザレア一行 シータの町とニューの町の中腹】


「なぁ、まだ? もう3時間か4時間くらい経つぜ? 多分」


 ウツギとイザヤは2人して痺れを切らしていた。


 あまりにも時間を持て余している為、その辺に生えている雑草を毟り取ったり、転がっている石を投げてみたり、組手をしてみたり、粗方できることは試し終わっている。


「もう少しだ」


 イベリスはウツギの質問に対して返事を返した。


「1時間前も同じこと言ってた」

「仕方ないでしょ。イベリスは別に専門家じゃないんだから」

「そうだけどよ……しっかし、こんなときにホワイトタイガー号が壊れるとはな……もう歩いて行った方が早いんじゃねぇの?」


 アザレア一行が乗っていた車のベレトカーン号(ウツギいわくホワイトタイガー号)はシータの町を出て、ニューの町へと向かっている中腹の森の中で突然動かなくなってしまった。


 機械に詳しい者がいないために原因の解明には時間がかかっていた。


 何がどう異常で、どうしたら動くようになるのかということを、原理を確認しながらエレモフィラとイベリスが原因を究明している。


「いーさん的にはどのくらいの割合で直りそうなんだ?」

「時間をかけて8割といったところか。原因としては見る限り、魔鉱石をエネルギーに変換する魔法式が破損しているらしい。部品が壊れたわけではないから、もう少し魔法式を解析して、私が構築し直して成功すれば再び動くようになるだろう。が、なかなかこれが複雑でな……変に組み替えると本当に動かなくなってしまうそうなんだ。だから慎重に時間をかけて作業をしている」


 イベリスとしてはこうしたものの解明作業は楽しいのだが、なにせ今はそういった時間があまりない。


 今にも魔王はずっと人々を苦しめているのだから、悠長に解析して研究している時間はなかった。


 エレモフィラも手伝っているが、見たこともないほど高度な魔法式が組まれていてその作業は難航している。


「ふーん……8割かぁ……歩いて行くことも視野に入れないとな」

「歩いて行くのは私とイベリスにとっては現実的じゃないと思う。ウツギみたいに体力有り余ってる訳じゃないし」

「でも直らなかったらそうするしかないだろ? 馬とかその辺にいる訳じゃないし」

「そうしたら簡単な台車を木で作るから、ウツギが引っ張っていってよ」

「俺を馬扱いするな!」


 あれこれ話している間にも時間は一刻、一刻と過ぎて行ってしまう。


 一番焦っているのはイザヤだった。

 早くイザヤは魔王城に乗り込みたいと考えているので、尚更こんなところで足踏みしているのは性に合わない。


 まして、アザレアたちと会わずとも元より1人で行くつもりであった。


「俺は先に行ってもいいか? 直ったら途中で拾ってくれたらいいだろ」

「1人じゃ危険だって。焦っても仕方ないよ。確実な方法を取る方が大切だ。ひとつひとつ解決していこう。イザヤさんの力が必要なんだ」


 アザレアがそう言うと、イザヤは深いため息をついて「分かった」と返事をする。


「イザヤでいいよ。もう俺たち仲間なんだろ」

「分かった。イザヤって呼ぶよ」

「そんなに暇なら、植物を探して取ってきてよ。夾竹桃きょうちくとう、トリカブト、マチン、ストロファンツス、幻夢草げんむそう悋気草りんきそう、あたりがほしい。キノコ類もほしいけど、今はキノコの時期じゃないから……あればカエンタケも」

「す、すとろ……? と……とりあたま?」

「……うーん……見に行っても見分けがつかなかったら採ってこられないよね。鳥頭とか言ってるくらいだし」


 エレモフィラは暇を持て余しているウツギらに植物探しの依頼したいが、知識がないとどうにもならないことを言っても、達成できない目標だと考えを撤回せざるを得ない。


「何言ってるのか全部分からなかったぜ……イザヤ、分かったか?」

「毒のある植物がいくつかあったのは分かるけど」

「え、そうなの? へぇ……」


 ウツギからすると、イザヤは自分と似ているしそれほど賢くないと思っていただけに、イザヤがいくつかエレモフィラが言っている植物の名前が分かったという事実は少しばかりショックだった。


「全部毒のある植物。イザヤは私が言った植物がどんな姿をしているか分かる?」

「いくつかは知ってる。夾竹桃と、トリカブト、幻夢草辺りは」

「そう。一番欲しいのはストロファンツスなんだけど……都合よく生えてる訳でもないと思うから、あったらほしいんだけど……」

「必要ならエレモフィラも行ってきなさい。エレモフィラがいないと滞るかも知れないが、それも必要な準備だ。手分けして対応していこう」


 イベリスにそう言われ、少しばかり考えた後にエレモフィラは首を縦に振った。


「魔族がいて交戦することになったら互いに知らせよう。そんなに遠くまで行かないようにな」

「分かった。あるかどうかは運だから、遅くても1時間以内に戻ってくる。食べられそうなものがあったら取ってくるね」

「気を付けて」


 そう言って山の中へとエレモフィラ、ウツギ、イザヤは入っていった。


 それを見送って、アザレアとイベリスがその場に残ったものの、アザレアは特にイベリスの役に立つことができない。


「悪いな、魔法式のことになるとあまり得意じゃないからイベリスに任せっきりになっちゃって」

「それは構わない。得手不得手えてふえてがあるからな」

「あまり話しかけると邪魔になってしまうだろうけど、気になってることがあるんだ。1つ聞いてほしい」

「どうした? 改まって」


 魔法を展開していたイベリスは一度手を止めてアザレアの方へと向き直った。


「俺たちがオメガ支部で目が覚めてから、すぐに人間の回復魔法士と交戦したけど……魔王ゴルゴタが一部の人間を使役していたのかな……?」

「どうだろうな。ミアさんやイザヤの話では人間が召喚魔法を使って町を襲うような事件は今までなかったそうだが……魔王と関係あるのかどうかもわからない。あれ以来は襲ってくる人には会っていないが」

「もし人間が相手では戦いづらいと思って……とはいえ、魔王を討つためには避けられないのかもしれないけど……」

「ふむ……人間を滅ぼすと言っている魔王の側について、自分だけは生き永らえようと考えている輩もいる可能性はあるだろうな」

「意図は分からないけど、覚悟はしておかないといけないと思う。ごめん、それだけちょっと不安だったから話しておきたくて」

「そうか。お前さんは優しいな。悪人にも心を砕くとは」

「そうかな……記憶がないからか、自分の事もよく分からなくて」


 アザレアは複雑な表情をしていた。


 人間と戦いたくはない。

 しかし、立ちはだかってくる者たちとは戦わなければならないとアザレアは分かっていた。


 ポケットに入っている老婆の身分証を取り出してそれを眺める。


 そうしているアザレアを見て、イベリスは何と返事をしたら適切なのか考えたが、下手な言葉をかけられても余計に思い詰めさせてしまうだけだと判断して黙した。


 そして再びイベリスは魔法式の修復に戻る。


「……せめて記憶が戻れば他にも色々考えられるかもしれないのにな」

「まぁ、そう焦ることはない。ゆっくりやっていけばいいだろう。私たちは私たちの配分があるのだから。信じる信念を貫いて行けばいい」

「……そうだな…………」


 それからしばらくアザレアは無言で自身の持っている剣を振って、剣の感触を確かめていた。


 記憶はないが、剣の振り方は憶えている。

 剣を振っていれば何か思い出せるような気がしたからアザレアは懸命に剣を振った。


 エレモフィラたちが植物を探しに行ってから約1時間が経過した頃、イベリスが声を上げる。


「よーし、なんとか組み終えたぞ。これで動くかどうか試してみようじゃないか」

「できたのか?」


 イベリスがベレトカーン号のエンジンをかけようと鍵を回すと、シュルシュル……という機械音がしばらくした後にエンジンが無事に始動する。

 少しばかり動かしてみるが、きちんと動くようになっていた。


「いいぞ。動くようになった。これで徒歩は回避できるな」

「凄いなイベリス。全く知らない魔法式からまた同じように組み直せるなんて」

「いやぁ、我ながらやればできるものだな。自分を見直したぞ」


 そう言って喜んでいたところ、丁度エレモフィラたちも戻ってきた。

 ウツギとイザヤは泥だらけになっていて、手に何やら持っているのが見える。


「お、なんだ、直ったのか? やるじゃんいーさん」

「見くびってもらっては困る。魔法の研究が趣味みたいなものだからな。それより、目当てに物は見つかったのか? 何か持っているようだが」

「うん。本当に偶然なんだけど、トリカブトが生えていたの。毒性も問題なさそう」


 エレモフィラは手に持っているトリカブトをイベリスに見せた。

 かなりの量のトリカブトに「少し欲張り過ぎでは」とイベリスは苦笑いをする。


「聞いてくれよあっくん、いーさん。えーちゃんがこの植物見つけて、根に毒があるって説明した後にそれをかじったんだぜ? 信じられるか? 毒性があって死ぬかもって話してる最中にかじるんだぜ? どう思う?」

「あぁ……種類や時期によっては毒性の強さが違うからな。まさに毒見という訳だ。道理は分かるが無茶なことをする」

「これはピリッと痛くて舌が痺れたから猛毒のあるトリカブト。すぐ吐き出したし、自分で解毒したから問題ない。ウツギが大袈裟なだけ。あと矢毒に使えるカエルが生息してたから捕まえてきた」


 大きな葉に包むように、イザヤは何やら中で動いている包みをイベリスに見せた。


「これも酷いぜ。俺たちにカエル捕まえろって言うんだよ。でも素手で触ると危ないからって滅茶苦茶言うんだぜ? 殺すなって言うからもうカエルと必死に追いかけっこだよ」

「だから泥だらけなのか」

「この少し外れに沼があって、そこにカエルが沢山住んでた。色が極彩色だからすぐに見つけられた。小さいカエルだけど猛毒。ゾウも殺せる。採れる毒が少ないから使う場面は選ばないといけないけど。あとストリキノス属の木が生えてたから、樹液と樹皮をたくさん取ってきた。これも矢毒として使える」


 エレモフィラは若干興奮しているのか少しばかり早口でとめどない言葉を紡いでいる。

 こうなると遮らないとエレモフィラが止まることはないだろう。


「おぉ、分かった分かった。豊作だな。それは頼もしい」

「でも夾竹桃はなかったし、ストロファンツスもやっぱりなかった。悋気草もあれば良かったけど、この辺りには生えてない」

「そうか。魔王にも毒は効くのか? 我々としては魔王ゴルゴタの情報が圧倒的に欠如している。魔王の情報を集めるのも効果的だと考えたのだが」

「魔王軍の魔族を尋問するの? なら、シキミがほしいところだね。本当に悋気草がないのが残念。ふふふ……」


 不敵な笑みを浮かべるエレモフィラにアザレアとイベリスは苦笑いをする。


「採ってきたものをベレトカーン号に積み込んでニューの町へ行こうか。もし魔王の配下の魔族がいたら、魔王について聞いてみよう」

「素直に答えてくれねぇだろ。えーちゃん、毒でゴーモンして吐かせるつもりか?」

「やっぱり魔族にどれだけ毒が効くのかっていう試験をしなきゃ。人間に有毒でも魔王には効かないとこの作戦は使えないし。下準備は大切……」

「マジでジャドウな方法って感じ。そういうのあんま好きじゃねぇんだけどなぁ……」


 文句を言うウツギと、このノリにまだいまいちついて行けていないイザヤはベレトカーン号に採ってきた毒物を積む。


「よし、準備も進んだところで行こうか。無事にベレトカーン号も治ったし」


 ウツギとイザヤは服についている泥を可能な限り払い落して、ベレトカーン号に乗り込む。

 他の3人も同様にして乗り込んだ。


「行くぞ。全員乗ったか?」

「あぁ、全員乗ってる」

「では出発だ」


 イベリスがベレトカーン号を運転し始めると、すぐにイベリスはその違和感に気づいた。


「……? いーさん、ちょっと遅すぎねぇ? 進んではいるけど……」

「うーむ……どうやら魔法式が元通りという訳にはいかないようだな。動くには動くが、前のようには速度は出ないようだ……」

「それで全力なの?」

「うむ。これで全力だ」


 以前の速度の半分以下の速度しか出ていない。


 これではニューの町に着くのはもう少し時間がかかってしまうだろう。

 人が全力で走る速度より少し遅い程度の速度鹿出ていない。


「これ、走った方が早くね?」

「そうかもな。だが、走り続けるよりはベレトカーン号に乗っていたほうが楽だ。まぁ……動くようになったのだからいいだろう」

「見くびらないでほしい。って言ってたくせに」

「ウツギには直せなかったでしょ? 文句ばっかり言わないでよ。動くならいいじゃない。文句があるならウツギだけ走ったら?」

「うっ……それは嫌だ。分かったよ。まぁ、ゆっくり行こうぜ」


 急に弱気になったウツギにイザヤとアザレアは笑った。


「まぁまぁ、物事は考えようだ。かの天才、ベレトカーンも天才でありながら毎日少しずつ努力を続けて歴史に名を残すほどの偉人となったのだ。ようは、少しずつでも前に進んで行くということが大切だ。時間があるときにもう少し魔法式を見直してみよう」

「元の魔法式なら私が覚えているから、復元は可能」

「頼もしい限りだなお前さんは」

「イザヤ、えーちゃんどう思う? 顔は可愛いけど、ちょっと可愛げないよなぁ? もうちょっとアホな方が可愛いのに……」

「そういう言動は不愉快だからやめてって前に言ったでしょ。女だからってそういう見方をされるのムカつくんだけど。それ以上言ったら捕まえてきたカエルを生きたまま食べさせるよ」

「はい、ごめんなさい」


 一瞬でウツギは委縮してエレモフィラに対して謝罪をする。


 そうしてアザレア一行はニューの町へを向かったのだった。




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