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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼

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理想の魔王像について話を聞いてください。▼




【メギド ミューの町 郊外】


 空間転移の負荷はカノンの回復魔法によってある程度は寛解かんかいした。


 まだ眩暈や嘔気おうき、頭痛などは多少残っているものの、それほど酷い訳でもない。


 応急処置程度の回復魔法士かほどこされていない為、あまり調子がいいわけではなかった。

 特に、私の肩の上でぐったりしているレインはまだ相当気持ちが悪そうにしている。


「メギド……帰ってきたんだな……」


 私の顔を見て、半ば泣きそうな表情をしているタカシを見ると、左手の指が2本折れていて、右手は『風運びの鞭』を強く握り込んだために血塗ちまみれだった。


 他に別段外傷や以上は認められない。


「情けない声を出すな。カノンに手を治してもらえ」


 私はタカシの身体の状態よりも気になることがあり、倒れているその男に疑問を投げかけた。


「何故ここにいる?」

「は……ははは……わ……我は悪を滅する正義の……や……闇からの使者……えっと……その……」


 死ぬ思いをしたせいか、その男――――琉鬼は自分が何を言っているのか分からない状態になってしまっているらしい。


「……っていうか、僕、行かなきゃダメ? すっごく気持ち悪いのあんまり治ってないんだけど……頭もまだ痛いし……」

「魔法の制御だけはしっかりしろ。私が補助はするが」


 レインは私の返事を聞いて落胆しながらも、諦めたようについてくることを決めたようだった。


「おい、末期。事が済んだら徹底的に聞くからな。お前たちはカノンのところへ戻れ。末期の方は腕から血が出ているぞ」


 末期(琉鬼)の方は腕から出血していた。

 鋭い爪で引き裂かれたような傷ができていた。


 着ている服が比較的丈夫な素材であったために、それほど大きな傷ではなさそうだ。


 もしこれが生身であったら、下手をしたら腕が取れていたかもしれない。


 タカシらが跳ね橋を渡って戻っていったのを確認した後に、私は結界の境界の際まで歩み寄って状況を確認した。


 倒れている魔族の中には、骨が折れているであろうものもいた。

 恐らく『風運びの鞭』の風圧と結界に挟まれ、身体が無理な方向へと曲がってしまったのだろう。


 これはカノンに治させるべきかどうか悩むところだ。


「め……メギド様……」


 私を見ると、水棲族、鳥獣族はたじろいで後ずさった。

 倒れている仲間も引きずるようにしてできるだけ私から遠ざかろうとする。


「メギド様が直々に起こしとは……これはこれは……」


 他の魔族が私に畏怖いふの念を示す中、軽薄な話し方をしている悪魔族の男が私に向かって話しかけてくる。


 笑っているものの、その笑顔が引き攣っているのが分かった。


 短パンしか履いておらず、ファッション性はかなり低いと言えるだろう。

 が、恐らくゴルゴタの下で働いているがゆえに着る服がないのかもしれない。


 服を着せられないというのは奴隷の特徴に当てはまる。


 あるいは好きで服を纏っていないのかもしれないし、雨で服が体に張り付くのが嫌だから着ていないのかもしれない。


「血の詰まった革袋なんかと随分仲良くしていらっしゃるようですね」

「仲良くしているように見えたか? どうやらお前の目か、視覚野は腐っているようだな。あるいは、余程の短絡的な考えの者か」


 私が皮肉を言うとその悪魔族の男は尚も顔を引き攣らせながら笑っていた。


「どうして人間をそう気に掛けるんですか? 不干渉の関係を続けていたのではないですか? 戦争の遺恨もありますし、人間どもを皆殺しにするチャンスだっていうのに」


 またその話だ。


 また同じ話をしなければならないのか。

 何度私はその話をしなければならないのだろうかと気が遠くなってくる。


「もう二度と私はその話をしたくない。会う魔族全員にその説明をしなければならないのは面倒だ。理由については自分で考えろ」

「へぇ。自由に考えるとすれば、“前”魔王メギド様は血の詰まった革袋が、三度の飯よりも好きってことですかねぇ……?」


 戯言にしても面白みに欠ける発言だ。何の捻りもない安直な言動に思う。


「お前みたいな者は話にならない。あるいは、そう言って私の事をあおっているのなら無駄なことだ。だが、私の家来を随分痛めつけてくれたようだな。その清算はしてもらうぞ」

「家来ですって? あの血の詰まった革袋が家来? いくら魔王を引退されたからといってもあんなものを家来にするなんて落ちぶれ過ぎじゃないですかねぇ?」

「人間は醜く劣悪な面を持つ者も多いが、それがすべてではない。あまり過小評価すると痛い目を見るぞ。いや、もうすでに先ほど痛い目を見たばかりでそう豪語するとは、大した自信家だな。あと、私は魔王を引退したわけではない」


 その後、何か言っていたが私はこれ以上話を続けるつもりはなかった。


 周囲にあった大量の水を魔法で浮かせて周囲の魔族全体を包み込むように素早く誘導した。

 一気に魔族らは大量の水に飲み込まれ、成す術なくその激流に飲まれている。


 言うなれば、魔法で起こした作為的な洪水のようなものだ。


「レイン、氷結魔法の試し時だ」

「はーい……」

「八方向から一気に全力で行け」


 項垂れた身体を起こし、レインが本気で氷魔法を放つと、私が操っていた水は一気に凍り付き始めた。


 一方向からでは凍る速度が遅い為、四方八方から氷魔法を使用して一気に外側から凍らせた。


 こうすることで水をある程度操る水棲族も温度を一気に奪われて抵抗できない。


 しかし、あまりに急激な温度変化があると死んでしまう為、魔族の個々の周囲には空気をいれてやった。

 それに、呼吸が長時間可能なように空気を吸う穴もあけてやっている。


 そして素早く氷の側面に魔封じの魔法を刻み付けて中からの魔法を封じた。


「ふむ。まぁまぁだな」


 結果としては閉じ込める為の気泡のある巨大な氷の塊ができ、各魔族はほぼ動きを封じられたと言える。


 素手で壊そうにも氷の厚みがありすぎて無理だ。

 というよりも、周りの氷を溶かすような行為は得策ではない。


 その溶けた水が周りの氷に冷却されてどんどん体温を奪われるからだ。


 ……と、私は考えているが、どれだけその点について思慮できているかは分からなかった。


「はぁ……気持ち悪いのになんかお腹空いてきた」

「また食事の話か。いやしい龍だな」

「育ち盛りなの!」


 水棲族、鳥獣族、悪魔族……この中で異質なのは悪魔族だ。


 こんな場所で悪魔族が他の魔族を率いてやってくるなどということは、ゴルゴタの指示以外ではありえない。


 上位魔族は基本的に他種族を虫か何かのように思っている為、協力的な行動はあまりとらない。


 特に、悪魔族はその傾向が強い。


 まして、ここ最近ずっと魔王の座についているのが悪魔族であるから、明らかに図に乗っている傾向がある。


 ――忌々しい考え方だ。自分には何の力もないくせに種族が同じだからというだけで大きい顔をして自慢げにする……


 数人の悪魔族がいたため、その悪魔族の周りの氷だけ溶かし、呪い魔法で首から下の動きを完全に封じた状態で氷の塊から取り出した。

 吐き出されるように氷山から出てきた数人の悪魔族を風魔法を使って集め、私は尋問を始める。


「ゴルゴタの指示か? 人攫いが目的だったようだが、何を企んでいるか言え」

「はははっ……そんなこと、言ったら俺らの命がないから言えませんね」

「ほう、反抗的な態度を取るのは得策ではないぞ。私とゴルゴタのどちらが恐ろしいのか、よく考えた方がいい」

「……そりゃゴルゴタの方が恐ろしいですよ。あいつ、本当に狂ってるし、容赦がない。毎日毎日、死体の山の掃除をさせられる気持ちが分かりますか? いくら俺らが血生臭いのが好きだからって、限度ってもんがあるでしょう……」


 余程恐ろしい目に遭ってきたのか、私を前にしてもゴルゴタの方を恐ろしいと断言していた。


 確かに論理的ではない者は何をしでかすか分からないので恐ろしいという見解も真っ当な感覚に思う。


「寝返って私の側につくなら、最低限命の保証くらいはしてやってもいいぞ」

「命の保証ですか……言っておきますけどね、俺らはメギド様のやり方は気に入らないんですよ。人間に『眠れる獅子』とか言われて馬鹿にされて、魔王城に引きこもってるあなたにはとっくに愛想が尽きてるってことですよ。同じ悪魔族として恥ずかしいったら――――」

「お、おい。やめろよ。喧嘩売るなって……」

「別にいい。言いたいことを言え」


 言いたいことなど聞かなくても概ね分かっているが、ゴルゴタについての尋問をするよりは言いたいことを言わせた方が多くの情報を吐くだろうと私は踏んだ。


「俺らは確かにゴルゴタが怖いですよ。癇癪かんしゃく起こすみたいに些細なことですぐに手が出て殺される奴なんて毎日見てますし、次は自分なんじゃないかってビクビクしたりしてる……でも、人間にびたりしないですよ! 堂々としてるし、前魔王のクロザリル様のように威厳がある。他の魔族も、人間も、みんなゴルゴタを恐れてる。魔王ってのはそういうのじゃないんですか!?」


 何故そこまでいきどおっているのか定かではないが、目の前の男は自分の理想の魔王象と私が似つかないことに憤っているようだ。


「魔王がこうであらねばならないという概念は捨てろ。考え方が古い。偶像崇拝はやめろ。それに70年も魔王を継続できているのもそういないぞ。つまり、私は優秀な魔王という事だ。それに、私は人間に媚びた事など一度もない」


 自分の身に危険が及ぶかどうかよりも、自分の中の魔王象がしっくりこない事の方がこの者にとっては一大事らしい。


「そんなに理想の魔王が大事なら、お前が魔王の座に立てばいいだろう。できるものならな」

「ゴルゴタに取り入って、いいところで隙を見て殺せばすぐにでも俺が魔王になりますよ」

「考えが甘いな。ゴルゴタの隙を見て殺す? 一瞬でも殺意を出した時点で、奴がお前を見るも無残な姿に変えるのが先だろうな」

「やってみなければわからないじゃないですか」


 愚かなものはいつもそう言う。


 やってみなければ実際にどうなるのかが分からないらしい。


 今までゴルゴタの何を見てそう言っているのだろうか。


「そこが甘い。やらなければ分からないのか? 結果は見えている。この私でさえ手を焼いているというのに、私に簡単に拘束されて尋問を受けているお前たちでは、天と地がひっくり返るような奇跡でも起きなければ奴は倒せない。命が惜しいなら止めておけ」


 悔しそうな表情をして、私から目を逸らして男は黙り込んだ。

 己の実力が全く分からない程愚かでもないのだろう。


 ――色々尋問したいが、この者たちにあれこれ聞いていると時間がかかるな。一先ずはこの騒ぎを収めるのが先か。あまり鳥獣族や水棲族を長い間閉じ込めておくと寒さか、あるいは呼吸ができなくなり死んでしまう可能性もある。早めに出して、話を利く体制を整えなければ


 ゴルゴタの動向を探るにしても、あまりこの者たちに時間をかけると戻りが遅いということでゴルゴタの別の配下の者が来るか、あるいは私がミューの町にいるという事がバレてしまう。


 かといってゴルゴタの命令を遂行できなかったこの者たちが城に戻ったとしても命はない。


 何か問題があったというのに勘づかれる時間制限としては、大量の人間をつれて地道に魔王城へと帰る道筋を考えれば、せいぜいあと4日か5日だ。


 仮に移動短縮のために空間転移の魔法を使えるとしても、何を目的として人間を攫って行くのか分からないが、パイの町でも足を折ったりしているところをかんがみると、生きていることが条件の一つだ。


 だとしたら空間転移で運ぶことは想定していないはず。


「一先ず、確定的に言えることとしては、私の問いに答えようが答えまいが、お前たちはゴルゴタから逃げられなければ、いずれ殺されて死ぬだけだ。せいぜい私が奴を抑え込むまでは恐怖に怯えながら逃げまどうことだな」


 この者たちが助かる方法としては、ゴルゴタから逃げるしかない。


「逃げる場所なんてないですよ。ゴルゴタが支配者になれば、絶対に見つかって殺される。だから俺たちはこの町の人間を攫って行くしかないんですよ」

「………………」


 男がそこまで言ったところで、私は妙案を思いついた。


「そうか。この町の人間をいくらか攫って行けばお前たちはとがめはないということだな」

「はい」

「それで? お前たちはこの町を攻め落とせる確率はどの程度なんだ?」

「確率ですか? そりゃ……結界さえなければ100ですよ。この町の武器の特徴、防衛性の張り方は水棲族と鳥獣族から聞いてますから。的確に魔法で無効化できれば、俺らは跳ね橋上がってても空飛べますし」

「ふむ……」


 少しばかり考えた後に、私の頭の中で大体の段取りがついた。


「そうか。少し待っていろ。逃げられないだろうが、逃げようとするなよ。余計な手間がかかる」

「え? 何をするつもりですか?」

「言われたとおりに少し待っていろ。具体的に言うと30分から1時間程度待っていればいい」


 拘束している魔族らに背を向けて、私は守備塔の中へと向かって飛んだ。

 塔の中ではタカシと琉鬼がカノンによって傷を治され、自分の身体の動きの確認をしているところだった。


「もう終わったのか」


 相変わらず間抜けな顔をしてタカシは私の方を見て驚いている。


「あんなものは一瞬で終わる。あの悪魔らには聞きたいことが他にもある。拘束しているからそのままにしておけ。私は少し用事があるからここでお前たち全員待機していろ。町の兵士も同様だ」

「用事?」

「後で言う。くれぐれもあいつらに危害を加えるなよ」


 それだけ言って私は、塔の横で待機していたクロの背に乗った。


「町の中心地へ向かってくれ。町長の家に行きたい」

「体調が良くなったのなら、自分で飛んで行ったらどうだ」

「本調子ではない。長時間飛行するのは無理だ。平衡感覚が狂っている状態での飛行は危険だ」

「…………途端に脆弱なふりをするのが得意だな」


 クロは文句を言いながらも、町の中心地へ向かってゆっくり走り始めた。


 この町は家と家の間が大きく空いており、クロにとっては動きやすい町の構造をしている。


「僕は行かなくてもいいんじゃない?」


 心底嫌そうにレインは私の肩の上で項垂れていた。


「私の肩に乗っているだけなのだから、そう文句を言うな」

「乗ってるだけじゃないじゃん! ちゃんとやることやったじゃん!」

「それだけ元気なら問題ない」

「やかましいぞ。私の上に乗っているだけなのはお前たちだろう」


 いまいちまとまりのないまま、私たちは町長の家へと向かった。




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