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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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タウの町の拘置所を目指してください。▼




【メギド ミューの町 宿】


 私は仮眠から目覚めて夕食を摂っている最中、特級咎人の拘置されているはずであるタウの町へ行くかどうか考えていた。


 行くにしても、行かないにしてもどちらもそれなりのリスクはある。


 だが、知った以上は不安要素を確かめないまま後で取り返しのつかないような状態にはしたくないという考えがどうしても頭をよぎってしまう。


 結論として行くことにした。


 特級咎人という、人間として破綻している者に一縷いちるの望みを持つのも愚かかもしれないが、可能性は一つ一つ潰していくしかないと考えた。


 この呪印が消える可能性があるのならば、多少交戦することなど安いものだ。


 レインかクロを連れて行けば全体の空間転移の負荷で戦闘力が低下しても、協力すればそれなりにまとまった戦力は確保されるだろう。


 特級咎人の判別についてだが、確か人間の咎人というものは顔に数字と記号を刻み込まれると聞いたことがある。カノンに識別番号を聞いておけば容姿を知らずとも判別することができるはずだ。


 私は食事が済んだ後、タカシらに少しばかり席を外すという話をした。


「少し遠い町に用事が出来た。空間転移で私は移動する。レインは私と一緒に来い」

「少し遠い町ってどこ? まぁ、ノエルを探しに行くのに同行してあげても良いけど」

「俺たちはついて行かなくていいのか?」

「人間は空間転移の負荷に耐えられない。行く場所はタウの町だ。用事が済んだら戻ってくる」

「タウの町に行くなら、僕も行きます」


 案の定、町の名前を出すとカノンは行くと言ってきた。

 しかし空間転移で人間を連れて行くことはできない。


「いくら回復魔法士とはいえ、空間転移負荷で血を吐くことになるぞ。お前が再起不能になったら困る」

「空間転移はしたことがないですけど……そんなに負荷がかかるものなんですか?」

「あぁ。かなり前に空間転移をした人間を見たが、ほぼ全身から血を吹き出して死の狭間はざま彷徨さまよっていた。人間の空間転移は危険すぎる。魔族ですら空間転移を短時間に繰り返すことはできない」

「じゃあメギドはタウの町に行ったらすぐには帰ってこられないんじゃないか?」

「用事が済むまでの間休息を取れば大丈夫だ。2回程度なら多少体調を崩す程度で済む」

「か弱い龍族の幼体でも耐えられるんだよね?」

「かなりキツイということだけは言っておく」


 それを聞いてレインは「えー」と嫌がりながら、いつも通り肉をついばんでいる。


 ふとその姿を見て気づいたが、まだ会ってからそれほど経っていないもののレインは身体が一回りほど大きくなっているように思う。


 元の龍族の大きさを考えれば、クロと同等か、あるいはそれ以上の大きさになるだろう。


 とは言っても、それは10年、15年以上の歳月がかかるはずだ。


 重量が増したレインをまた肩の上に乗せて歩くのはあまり気が進まないが、連れて行くのなら小型のレインが適役だと判断する。


「クロはこの町で何かあった時の為に残っていろ。念のため結界も張って行くが、万が一のときはクロが守れ」

「貴様の結界は私の一撃で砕けたぞ。結界は気休め程度にしかならないだろう」

「永氷の湖でのことを言っているのか? あれは前日に妖精族の森を復元した際に消耗していたから強度が足りていなかった節があるだけだ」


 あのときはかなり消耗していたせいで、結界の強度が足りなかった。


 それは認めよう。

 だが、今の私の体調で生成した結界なら強度も問題ない。


「前日にも森を修復したのか……? どれだけ無尽蔵な魔力を持っているのだ貴様は……」

「まぁ、そういうことだ。そうタウの町に時間をかける気はないが、明日やることをあらかじめ指示しておくぞ。カノンは『雨呼びの匙』の最終交渉を続けろ。町長が渡さないと言ったらそれまでだ。ブラシと佐藤はここを守っている無職に稽古をつけてもらえ。それは今夜だ」

「ブラシじゃなくてタカシ! それはいいけどよ、いつ頃返ってくるんだ? もう夜の良い時間だぜ?」

「遅くても明日の昼までには帰る予定だ。順当に行けば日が変わる前までには戻る。カノン、話がある。来い」


 私はカノンを再び自室に入れ、タカシらに聞こえない程度の声量でカノンに特級咎人のいる場所の詳細や咎人識別番号を訪ねた。


「人間の施設の、拘置所と言ったか。それはどこにある? あと咎人の識別番号が知りたい」

「拘置所の場所の詳細は分からないですが、塀で囲まれた場所なので上空から見ればすぐに分かると思います。彼女の顔にある識別番号は……『011713★』です。星は黒星です」

「確か番号には意味があったのだったな」

「はい。『01』初犯の『17』タウの町での事件の『13』殺人罪、『★』は黒星なので更生の余地なしです」


 ――更生の余地なしか……それだけの事件を起こしたのならそうだろうな……


「他にもその番号の咎人がいるのではないか? 外見的な特徴を聞いておこう」

「いないと思いますけど……彼女の特徴としては20代半ばの女性で、日に透かすと茶色く見える黒髪で、身長は170cmくらいで痩せています」

「何? 私は年配の者を想像していたのだが……20年そこそこの年齢で上位の回復魔法士なのか? 随分印象が違うな」


 人間の年齢で言っても20年そこそこの者がそれほどの腕前なのかと考えると、かなりの実力者なのは理解できる。


 経験を積んで実力をつけたというよりは、自分の感覚で開拓していく力があるのだろう。


「真面目な人だったと聞いています。血の滲むような物凄い努力をして必死に人を救っていたんです」

「…………まぁ、何にしても当人を見れば概ね解るだろう」

「はい。本当に同行できないのが残念です……もし、いた場合はどうするんですか? 負荷の話は聞きましたが、彼女を空間転移で連れてくることは可能なんですか?」

「そうだな、いた場合はまず話をする。あとは本人次第だ。もし連れてきた場合はお前が手当をしろ。話に聞く通りの危険人物だと判断した場合はこの町に入れるわけにはいかない」


 私がそこまで言ったところで、カノンは険しい表情をして視線を逸らした後、懇願こんがんするように私の方を向いた。


「……ごめんなさい。やっぱり僕を連れて行ってもら――――」

「駄目だ。2度の短期間の空間転移を人間は絶対に耐えられない。聞きたいことがあれば私が代わりに聞いておくから諦めろ」

「…………分かりました。じゃあ……何故事件を起こしたのか、詳しく聞いてもらえませんか?」

「どの道、危険人物かどうか確認するために話は聞く。言っておくが、期待はするなよ。生きているかどうか、いるかどうかも分からないのだからな」

「はい……」


 カノンは納得しているようには見えなかった。


 恐らく、私と同行して実際に状態を確認しなければ納得はできないのだろう。


 私はカノンと共に部屋を出て、まだ肉をついばんでいるレインを肩に乗せてタウの町への空間移動魔法を展開した。


「私が戻ってこなかったら、そのまま人間は滅びると思え」

「お前が返ってこなかったら、俺たちだけでも何とかして見せるっての」


 タカシは少し胸を張って雄弁に「何とかして見せる」などという希望的観測を口にした。雄弁に理想を語るのは容易いが、それは到底無理な話だと私は呆れる。


「それができるなら、何も苦労はしない」


 それだけ言って私とレインは空間転移魔法陣に足を踏み入れた。




 ◆◆◆




【メギド タウの町】


 魔法陣をくぐると、そこはすぐにタウの町の中心地であった。


 ゴルゴタの配下の魔族がいても不自然ではないと考えていたが、丁度私とレインが降り立った場所に魔族が集結していた。


 そこには人間の死体も集められていた。

 腐臭を放つものもあったが、まだ腐っていないものもいる。


 ざっとみて40人程度は横臥おうがしているように思う。


「!!!」


 突然現れた転移の魔法陣と私たちに、魔族たちはただただ驚愕したようで唖然とした表情で私たちを見ている。


 見渡すと、リザードマン、獣族、オーク族などのやはりあまり見かけない組み合わせの魔族が町にいた。


 それを見て、この町にはもう蓮花とやらはいないだろうと直感する。


「メ……メギド様!」


 私が誰なのかという事が視覚情報から脳に送られて、漸く処理が追いついたらしい。


 全員が武器を持つでもなく、ただ私から少しばかり距離を取るのみで敵意などは感じなかった。


 私は空間転移の負荷が身体にかかり、少々の眩暈めまいや脱力感を覚え、多少の頭痛に険しい表情をする。


「争う気はない。少し調べたいことがあってきただけだ。騒ぎ立てるな」

「あー……なんかクラクラする……頭痛い……」


 レインも私と同様の空間転移の負荷を感じているらしい。

 だが、やはり人間の空間転移とは異なり、軽傷で済んでいるようだ。


 総勢30匹程度が私とレインを凝視しているが、その中を堂々と私は翼を広げた。


 そして飛び去ろうとしたところ、1匹のリザードマンが動いた。

 攻撃かと思い、そちらに意識を集中するが、その者は武器などを持たずに私の方へよろよろと近づいてきている。


「なんだ?」

「……メギド様……助けてください……!」


 泣きそうになりながら情けない声を出すリザードマンを、私とレインは見つめた。

 騙し討ちをしようなどという悪意は感じないが、私は警戒心は持ったまま少しリザードマンから距離を取る。


「助けるとは?」

「もうゴルゴタ様の下にいたら俺たち、命がいくつあっても足りません!」


 中のリザードマンの1匹が私に対して頭を垂れた。


 他の獣族、オーク族の者も動揺しながらも口々に「助けてほしい」というような言葉を口にする。


「お前、そんなこと言ったのがバレたら殺されるぞ。ゴルゴタ様はメギド様をも出し抜いて魔王交代したんだ」


 その言葉を聞いて、私はほんの少しばかり眉間にしわが寄る。


 魔王交代はしていない。

 ゴルゴタが正式に魔王になったわけではないのに、やはり他の魔族には魔王交代をしたという認識があるらしい。


 ゴルゴタがでたらめなことを吹聴ふいちょうしたせいだ。


「でも……あのゴルゴタ様に対抗できるのはメギド様だけだ。俺たちが束になっても勝てねぇよ……頼みます、メギド様……助けてください……」

「嫌なら逃げ出せばいいだろう」

「逃げたりなんてしたら、俺たちの種族ごと根絶やしにされてしまいます! 従う他ないんですよ……家族や友人が全員種族単位で捕虜ほりょにされてるんですよ」


 確かにゴルゴタの気性の荒さを考えれば不思議なことではない。


 この者たちも恐らくは最初、人間を襲わないという制約が消えてゴルゴタが新たに仮の王座についたときはゴルゴタを崇めただろう。


 だが、ゴルゴタは魔族の未来など一切気にしてはいない。


 気に入らなければ町ごと、いや、国ごと亡ぼすということも平然とやってのけるはずだ。

 その脅威にこの者たちも気づいたらしい。


「お前たちを助ける、助けないというのは別にして、私も魔王城に戻って奴を王座から引きずりおろすつもりだ。まだもう少しばかり準備に時間がかかるがな。それまでは奴の機嫌を損ねないことだな」

「……メギド様はこの町にどんな用なんですか?」

「ここの町に生きている人間がいるかどうか探しに来ただけだ。色々、事情があるのでな」

「はぁ……なるほど……。この町にはもう生きている人間はいませんよ。くまなく探しましたから」

「だろうな。食料として転がっている死体以外は人間はいないような気がする。が、私は一応自分の目で確認しに行く。私の事はゴルゴタには黙っていろ。話されるとろくなことにならないからな」


 それだけ言って私は上空へと翼を広げて飛び上がった。


 町の広さはそれほど広くはないが、2つ大きな施設があるのが確認できる。


 片方は10階建ての病院のような場所で、もう片方はカノンが言っていた大きな塀によって囲まれている施設だ。


「ここにもノエルはいなさそう……本当に……どこにいるのかな。せめて手がかりでもあればいいのに……死体の中からそれらしい反応はなかったから良かったけど」

「今から施設の中に入る。人間はもういないだろうが、注意して見ていろ」


 私は大幅に壊れている拘置所の敷地内に入り、誰もいる気配のない建物の中に入っていった。




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