呪われた剣が完成しました。▼
【魔王城】
「た……助けてください……」
蓮花の手や服は血まみれだった。
震えて、顔が真っ青になっていて「助けて」とゴルゴタやセンジュに心の底から懇願している。
「駄目だ。続けろ」
悍ましく、うねうねと、聞きなれない異形のうめき声を発しながら、蠢くそのモノに向き合い続けることは蓮花には難しい事だった。
その蠢くものは刀蛭7匹だ。
大きさは10cmから15cm台で、センジュの用意した柄のある鉄の棒に接合している作業中だが、蓮花が嫌がる為に中々進んで行かない。
刀蛭の身体を結合させるのは蓮花が行い、その刃の向きを微調整して軸の鉄の棒に溶接するのはセンジュの役目だ。
蓮花についているのは刀蛭の血と自分の手から出ている血だ。
中身を確認しながらつなぎ合わせている為にどうしても刀蛭に触れなければいけない。
刀蛭の鋭い刃で手を傷つけながらも、刀蛭を傷つけるという酷い作業を続けている結果として血まみれになっている。
「蓮花様、次はこことここを繋げてください」
「はぁ……はぁ……こ……これ……終わったら……ご褒美は当然あるんですよね……? うぅっ……くっ……」
「ご褒美だぁ? てめぇは俺様の下僕なんだからやるのは当然なんだよ。思い上がるんじゃねぇぞクソ猿が」
「例えば……温かい毛布とお布団……例えば……ナイフを研ぐ道具……例えば……うっ……筋肉、皮膚……つ、繋げましたよ……」
「ええ。では次はこちらですね」
蓮花はゴルゴタの部屋の前の廊下で就寝していた。
床は冷たい大理石で硬い。
痩せている蓮花にとっては骨が当たって痛い上に、寒さでよく眠れていなかった。
だが、その処遇はまだいい方だ。
地下牢に幽閉されている回復魔法士たちはゴツゴツとした岩の上に所狭しと押し込められて、最低限の動きしかできないような劣悪な状況下で生活している。
拘禁反応がでて正気を失いかけている者すらいるほどだ。
「寝具とナイフ研ぎぃ……? そんなもんがほしいのか?」
「身体と頭をきちんと休めて……本領を発揮できる状態にしたいんですよ……睡眠不足だと頭がボーっとしてしまうんです……うっ……こっちも繋げました……」
ぎぇええぇ……と刀蛭は鳴き声をあげている。
不気味に身体をくねらせるが、軸の棒と他の刀蛭と結合してしまって動きはかなり制限され、逃れることは出来ない。
「ふぅん……まぁ、城に腐るほどあるもんだからなぁ……? 使わせてやっても良いぜぇ……? ただし、それを完璧に作り終えたらなぁ?」
「本当ですか……? じゃあ、もうちょっと頑張ってみます……」
「………………あと少しで仮の接合が完了しますね」
蓮花とセンジュがそれに奮闘している中、ゴルゴタの着ている服の内側から何か音が聞こえてきた。
何やら、話し声のような音だ。
蓮花はそれを聞き取れなかったが、ゴルゴタとセンジュはそれがなんなのか聞き分けられた。
それを聞いて瞬時にセンジュはゴルゴタの方を向いて目を合わせる。
彼が何を言わんとしているか、ゴルゴタには手に取るように解った。
「キヒヒヒ……」
心底楽しそうにゴルゴタはニヤッと笑って部屋から歩いて出て行った。
そして、転がっている死体以外は誰もいない場所まで移動し、胸ポケットから何かを取り出した。
淡い桃色の水晶だ。
それは『現身の水晶』。
うっすらと光を放っているそこから、明確に声が聞こえてくる。
「センジュ、聞こえたら応答しろ」
その声をゴルゴタが聞き違えるはずがない。
「よぉ。だーれだ? キヒヒヒヒ……」
カリッ……
ゴルゴタは自身の親指の端を噛み、少し出血した血を舌で舐めとった。
それはいつもの馴染みのある味がする。
ゴルゴタはその味を舌で感じるとやけに落ち着くのだ。
興奮した気持ちを落ち着かせるには、その方法はちょうどいい。
「そろそろ連絡してくる頃かと思ってたところよ……元気かぁ? 兄貴ぃ……キヒヒヒヒ……」
その『現身の水晶』の通話口にいるのはメギドだった。
その声、その話し方、ゴルゴタが間違えるはずがない。
「ふざけるな。センジュに代われ」
「おーっと、連れねぇなぁ兄貴は……ジジイは仕事中だから代われないぜぇ?」
「仕事? センジュは無事なんだろうな?」
「ジジイは元気元気。ヒャハハハッ! なぁ、なにもたもたしてんだよぉ、兄貴がいつ俺様を殺しに来るかとずっと魔王城で待ってやってんのにさぁ……?」
カリッ……カリッ……
「復活の儀が難航してるという割に、随分余裕だな?」
「キヒヒヒヒ……それがさぁ、そうでもねぇんだわ……最近面白い玩具を手に入れてよぉ……それを使った面白れぇ方法を思いついたのよ。もう段取りは組めてるってわけ」
「ほう……興味深い話だな」
「でもよぉ、俺様も70年暇してたから色々タノシイこと見つけてさぁ……ついつい寄り道してんのよ。物には順序ってもんがあんだろぉ? 最短でやっちまったら面白くねぇだろうが。兄貴に見せてぇなぁ……俺様の玩具……」
ゴルゴタはメギドに対して、自分が最近手に入れた蓮花という玩具を見せびらかしたい衝動に駆られた。
メギドも人間を従えている。
それも「メギド」と呼び捨てにしていたことから親しい間柄だということが分かっていた。『解呪の水』を捨ててでも庇う程に、だ。
だが、ゴルゴタが手に入れた蓮花よりも性能の良い玩具ではなさそうだ。
玩具の見せ合いをして遊んでもいい。
なによりも、今作っている刀蛭を使った武器を使ってみたい。
どうせ使うなら、メギドの従えている人間で試し切りをしたいという考えが浮かんでくる。
「面白い玩具? 人間を攫っていることと関係があるのか?」
「へぇ……? キヒヒヒヒ……」
「私の質問に答えろ。人を攫って何を企んでいる?」
「秘密。ヒャハハハハッ! せいぜい考えてな、兄貴ぃ……」
早くメギドの苦悶に歪んだ顔が見たいと感じ、ゴルゴタはゾクゾクしてその感情が声色として現れていた。
「…………お前が今からでも心を入れ替えて大人しくするというのなら、再び檻に入れなくて済むのだがな」
心から残念そうな声でメギドはそう言った。
その言葉を聞いて、ゴルゴタはほんの少しだけ笑顔を引き攣らせる。
「兄貴にしては面白れぇこと言うんだなぁ……? 俺様が心を入れ替えることはねぇし、俺様は二度とあんな場所には戻りたくねぇんだよ。兄貴の方が今からでも心を入れ替えたらどうだぁ?」
「悉く、私とお前は意見が合わないらしいな」
「ヒャハハハハッ……! だろうなぁ? 俺様は兄貴をあの檻の中にぶちこみてぇのさ……俺様がどんな気持ちであのクソみてぇな場所にいたか、一生閉じ込めて兄貴にも味わわせてやるよ」
ゴルゴタが幽閉されていた檻は、今もそのままになっている。
誰もそこにはいれていない。
そこはゴルゴタにとって特別な場所だったからだ。
自分が幽閉されていたその場所に兄を入れて幽閉するという計画の為に。
「しくじったなぁ……兄貴ぃ?」
「何をだ?」
「キヒヒヒヒ……今、パイの町にいるんだろぉ……?」
◆◆◆
【センジュの部屋】
ゴルゴタが部屋から出て行った後、相変わらず蓮花は蠢く刀蛭に生理的な嫌悪感を隠せないまま、武器作りに取り組んでいた。
「……伺いたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「うっ……な……なんですか……?」
目を細めて冷や汗をかきながら刀蛭を繋げていく。
時折刀蛭が鳴く度に目をギュッと瞑って手を引っ込めている。
「何故このようなものをゴルゴタ様に提案されたのですか?」
「愛用の面白い武器がほしいと言っていたので……ふと思いついただけですよ。こんなことになるなら、言わなければ良かったです……」
「…………」
何か意図があって言ったわけではなさそうだと、センジュは蓮花を見ていてそう感じた。
心の底から刀蛭を「気持ち悪い」と思っている様子が見て取れる。
その様子を見ていても演技には見えない。
――何か裏があるようには見えないですが……
渋い表情をしている蓮花の顔の番号記号のタトゥーを、センジュはどうしても目で追ってしまう。
「ゴルゴタ様がいらっしゃると余計な会話ができませんからね。年寄りは世間話が好きなんですよ。少し付き合っていただけませんかね?」
「こんな状態で世間話ですか……? 会話ができるよう……ど……努力はしますが……うぅっ……心が折れそうです……」
そう言いながらも蓮花は刀蛭の血管や神経、内臓、皮膚を繋げていく。
「人間を滅ぼしたいという理由について聞いてもよろしいですかな?」
センジュが蓮花にそう言うと、蓮花は険しい表情からスッと無表情に戻り、そして弱く自虐的な笑みを浮かべた。
「…………前にも申し上げましたよ。どんな理由を並べたところで結局、落伍者の戯言になると」
「ふむ……言いたくありませんか。貴女の腕については聞き及んでおりますよ。首を捥がれた者の首と命を繋げるほどの腕前の回復魔法士だと」
「ええ。それなりです」
「死者を生き返らせることも可能だとか」
「はい。理論上は可能ですね」
刀蛭を繋げている手を一度止め、目の前でうねっている結合性双生児のような生き物に目を落す。
センジュも蓮花が手を止めたことで手が止まった。
「『死の法』はご存じですね?」
「はい。知っています」
「それを犯した者がどうなるのかはご存じですか?」
「……ええ。以前に呪われた町でその形跡を見つけましたから」
あの呪われた町に生きている人間が入ったという話を、センジュは初めて聞いたので驚いた。
「あの町に入られたんですか……?」
「はい。解呪の心得がありますので。どうしても知りたいことがあって入りました」
「命知らずですね……どうしても知りたいこととはなんでしょう?」
「死神の呪いについてですよ。あの町は死神の逆鱗に触れた“呪われし者たち”がいると聞いたもので」
「…………それで、収穫はあったんですか?」
「そうですね。案の定死神の呪いを防ぐ研究がされてましたよ。研究もあと一歩という段階まで来ていたようです。あの姿になった者を生前の姿に戻す研究についても資料がありました」
再び刀蛭を繋げて始めた蓮花に合わせてセンジュも作業を再開する。
別の話で気が紛れているうちは刀蛭への生理的嫌悪感からも多少は逃れられているらしい。
「それは……理論上可能なのですか? 貴女の見解としては」
「……色々試してみたんですけど、1人……元の姿に戻せたんですよ」
「!!」
「戻せたはいいんですけど、すぐに死んでしまいました……。私としてもそれ以上は町にいられずに出てきちゃったんです。危うく正気を失うところでしたよ。いや、私は元から正気じゃないのかも知れませんが」
「それは、本当ですか? 貴女は本当にアレを戻せたんですか?」
「え……あぁ、1人だけですけど」
センジュはその言葉を信じられない気持ちで聞いていた。
止まってしまったセンジュを、何度か瞬きしながら蓮花は見つめる。
「どうされました?」
「あ……いえ、驚きまして……死神の呪いを解ける方がいるなんて……」
「まぐれですよ。偶然うまくいっただけです。回復魔法士ですから、どうしても人の生死というものに触れますし『死の法』や死神の呪いについて最終的に行き当たるのですよ。お陰様で、かなり勉強する羽目になりました」
刀蛭は「ぎえぇえええぇ」と目の前で鳴いている。
いや、泣いているのかもしれない。
しかし、虫の感情や感覚は蓮花には分からない。
分からない方がいい。
理解できる共通言語で「助けて」と懇願されるよりはやりやすいからだ。
「何故、それほどまでに人を救う為の勉学に励まれていた貴女が、一転して人を滅ぼしたいと考えているのか、わたくしは疑問なのですよ。その知識を悪事に使おうという悪意で勉強し始めたという訳でもないのでは?」
「……簡単ですよ。プラスにマイナスを掛けると、それはマイナスになるんです。そういうことですよ。私は……人間という生き物に心底絶望しているんです」
「なるほど。どのような部分にでございますか?」
「センジュさんが人間のことをどのくらい知ってるか分からないですけど……」
ただ、自分の手についている刀蛭の血のぬるぬるした感触を蓮花は確かめながら、センジュに返す言葉を探す。
「人権がどうとか言いながら、そんなものは大義名分です。皆、自分が幸せになれば他人のことなんて結局どうだっていいんですよ。それで簡単に、相手から略奪する。それも、大した理由じゃないんです……目障りだったとか、嫌いだからとか、気に食わないからとか……そういう理由です」
指同士をくっつけたり離したりすると血の糸を引いて、少しばかり凝固し始めた血を指先で弄ぶ。
「でも、誰にだって大切な存在はいる。その誰かの大切な存在を簡単にそんな理由で傷つけて、踏みにじって、奪っていくんです。なのに、そいつは傷つけた相手の事を忘れて笑ってるんですよ」
そこまで言ったところで、蓮花はギュッ……と爪が掌に食い込むまで握り込む。
「傷つけられた側は、一生その傷を忘れられずに生きていくのに……っ……!」
声が震え始めた蓮花は、本人でも気づかないうちに涙を流していた。
涙が頬を伝った感触でふと我に返り、血まみれの手で頬の涙を拭う。
「……ごめんなさい。取り乱しました」
「いえ、わたくしの方こそ立ち入ったことを聞いて申し訳ございませんでした。色々あったようですね」
「はい……」
目を若干赤く充血させたまま、何度も蓮花は瞬きをして血のついていない部分で涙をふき取る。
「人間が全員そうとは思いませんがね。それに、それは人間に限ったことではないと思いますよ。ゴルゴタ様はその最たるものだと思いますが…………更に言うなら、貴女も殺人罪を犯した特級咎人……誰かの大切な方を傷つけた。同じことをされているように思いますが?」
「そうですね。だから私も殺されたとしても仕方ないんです。それは行動に移す前に十分理解していましたし、覚悟をもってしたことです。この顔のタトゥーの重みも分かってます。結局、私も我儘なだけなんです。分かってるんですけどね……未だに未練があるから綺麗な理論に縋りたくなってしまうだけなんですよ」
左手の爪先で自分のタトゥーを軽く触れながら、蓮花は悲し気な顔でセンジュに話を続ける。
「まぁ……人間に絶望していることはそれだけじゃないですよ。でも、話が長くなってしまうので全部は言えませんけど…………これ、早く仕上げないとゴルゴタ様から怒られちゃいますから、集中しましょう。すみません、つまらない話をして」
そう言って蓮花は心を閉ざした。
心を閉ざしたことはその口ぶりからもセンジュはすぐに分かった。
――もう少し、色々聞きたかったのですが……心を閉ざされては仕方ないですね
センジュはできるだけ自然に笑顔を作りながら、蓮花に言葉を投げかける。
「…………また、時間があればこの老体とお話をしてくださいますか?」
「え……あぁ……私なんかで良ければ……退屈な話しかできませんけど」
「大変興味深いお話でした。こんなところに押し込められていると退屈でしてね。話し相手がいると助かるのですよ。では、次はここを繋げてくださいませ」
「はい」
そうして、刀蛭を使った40cm程度の比較的に小さめの剣が出来上がりつつあった。
◆◆◆
【魔王城 廊下】
ゴルゴタは廊下に転がっている死体を足蹴にしながら、楽しそうに会話をしていた。
「間抜けだなぁ、兄貴ぃ……? 人攫いをしたって知ってるってことは、その町にいねぇと分かんねぇことだ……なにせ今日のことだからなぁ? そんなに早く他の町に情報は行かねぇ……つまり、パイの町にいるってこった」
「ほう。つまり人攫いをしたのはパイの町だけということか」
「キヒヒヒヒ……まぁ、これからもっと攫ってくるかもしれねぇけどなぁ? 兄貴の居場所も分かったことだし……またからかいに行ってもいいんだぜぇ? 兄貴の玩具をぶっ壊しにさぁ……久々に兄貴と遊びてぇなぁ……新しい玩具も試したいし……キヒヒヒ……」
死体の首を切断し、その頭を蹴りながらゴルゴタは笑う。
しかし、少しばかり強く蹴ったところ、その頭は粉々に飛び散って新たにその血と肉片が壁に染みを作った。
「迷惑だ。私が行くまで待っていろ」
「ヒャハハハハッ! はいそうですか、って俺様が言う事を聞くと思ってんのかぁ? 毛のない猿と一緒にいすぎて馬鹿になっちまったんじゃねぇか? 兄貴ぃ……?」
今度は死体の腕を切断し、それを振り回して遊んでいる最中にセンジュの部屋の方から蓮花が出てきてこちらに向かって来ているのが見えた。
「ゴルゴタ様ー!」と遠くでゴルゴタを呼ぶ。
「ん……?」
「愚かなのはお前の方だ。取り返しのつかないことになる前にやめ――――」
「あー、もういいや。ちょっと黙ってろ」
「は?」
走ってきた蓮花は足元にあった死体に足を取られないように、慎重に避けながらゴルゴタに近づく。
「こんなところにいたんですか。できましたよ」
「キヒヒ……そうか。俺様の新しい玩具ができたみてぇだからもう切るぜぇ? まぁ、俺様とお話ししたくなったらいつでも連絡してこいよぉ? 仲良しだもんなぁ? ヒャハハハハッ!」
蓮花にとってはゴルゴタが何やら淡く光る桃色の水晶に向かって独り言を言っているように聞こえた。
ついに見えない友達と喋り出したのかと、訝しい表情をしながらゴルゴタの楽しげな表情を見つめる。
「誰と話してたんですか?」
「んー? ヒ・ミ・ツ。キヒヒヒヒ……」
――独り言を聞かれたくなくて席を外したのだろうか?
と、聞きたいがあまり詮索すると不機嫌になりかねないので蓮花は言及しなかった。
ゴルゴタは振り回していた死体の腕をその辺に放り投げ捨てる。
「……随分機嫌がいいですね」
「まぁなぁ……新しい玩具の試し切りをする相手が見つかったからなぁ?」
センジュの部屋に戻って出来上がった禍々《まがまが》しい武器を見て、満足そうにゴルゴタは笑みを浮かべた。
刃の方向は剣のそれと同じように両側に向くように設計されている。細かい薔薇の棘のような刃は全体に広がっていた。
これで殴ろうが、刺そうが、切りつけようが絶対に傷がついて血がつく。その血どの場所からでも吸えるように、身体の構造から強制的に変えてしまっていた。7匹の刀蛭を1匹となるようにつなぎ合わせて、どの刀蛭が血を吸っても全体に供給されるようにしてある。
7つの小さな心臓がドクン……ドクン……と脈打っているのが何とも不気味だ。
「へぇ、いいねぇ……」
片手でそれを掴み上げ、軽々とそれを振って感触を確かめる。
「よく片手でそう軽々と持てますね。私は両手でも持ち手の方を持ち上げるだけでやっとなのに……」
「ばぁーか。てめぇと俺様の力を同列に考えんなよなぁ? よっしゃ……試し切りに向かうかねぇ……?」
「そのような呪われた剣を作る日が来るとは思いませんでしたよ」
「呪われてる? ヒャハハハッ……上等じゃねぇか」
剣を軽い手つきで振り回しながら、ゴルゴタはその不気味な剣をまじまじと見つめる。
「あ、そう言えばさっき、ゴルゴタ様に報告があるって魔族が来てましたよ」
「あぁ……? はぁ……白けるぜ……この武器の試し切りはクソつまんねぇ奴にはもったいねぇからなぁ……」
「殺す前提ですか。でも、結構重要っぽい話でしたけど」
「なんだよ、てめぇが聞いてるならさっさと言え」
要件を口に出す前に、蓮花の脳裏にはつまらない報告をした魔族が悉く惨い扱いをされている姿が思い出された。
「……貴方からしてつまらない内容だったとしても、カッとなってその剣で私の事を刺し殺さないでくださいね」
「さっさと言え」
剣を蓮花の首に近づけると、やはり生理的に受け付けないのか即座に剣から飛び退いて「言いますから、それを近づけないでください」と懇願する。
そのやりとりをずっと見ていたセンジュは、数度瞬きしながら2人を黙して見つめていた。
「魔王クロザリルを討った、伝説の勇者の墓の場所が分かったとかって言ってましたよ」
その言葉を聞いたとき、ゴルゴタは沈黙した。
「………………」
黙ったまま自分の指をガリッ……と噛んで血を流し、舌で血をすくって口の中に広がる血の味を確かめる。
「……キヒヒヒヒ……たまには面白れぇ報告してくるじゃねぇか……ククククク……」
そうやって、血の味を感じながらゴルゴタは興奮している自分を必死に抑え込もうとしていた。