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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第4章 裏ストーリーをクリアしてください。▼

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怪しい人物を見つけた。▼




【メギド 魔王城 自室】


 私が深い眠りから覚めると、頭が冴えわたっていた。

 カーテンの隙間から日の光が差し込んでいる。


 昨日の疲労と焦燥感は、嘘のように消え去っている。

 睡眠をとる前の私が如何いかに愚かだったか理解するのと同時に、羞恥心を感じる。


 大騒ぎが起きていないことをみると、何も問題はなかったようだ。

 蓮花がまた1人で次々と問題を起こしていないかと不安だったが、そうなっていたらまたタカシが私の部屋まで報告に来ているはずだ。


 ベッドから起き上がり、自室の鏡を確認する。

 鏡に映った自分の顔は完璧な美しさを保っており、ほんのり残っていたクマも薄くなっていた。


 クマを消し去る為にもっと休みたいが、これ以上休んでいるわけにはいかない。

 母の遺体の件を考えれば、すぐにでも行動しなければならない。


 私は着替え、髪をかし、身だしなみを整えると部屋を出た。


「メギドお坊ちゃま、おはようございます。よく眠れましたか?」


 部屋の外に出ると、そこへちょうどセンジュがやってきた。

 流石はセンジュ、魔王家の執事を長年務めているだけはある。

 そのタイミングはいつも完璧だ。


 センジュの顔には疲労の色一つ見えない。

 あの戦いの後、夜通し捜索して疲労していないのだろうか。


「あぁ、疲れがある程度とれた。センジュは休まなくても平気なのか?」

「わたくしは問題ありません。お気遣いありがとうございます。クロザリルお嬢様のご遺体の件ですが、よろしいですか?」


 早速センジュは本題に切り込むセンジュの言葉に私は緊張した。


 センジュは優秀だ。

 痕跡があったのだからそこから突き止めても不思議ではない。

 気持ちの整理をすぐさまし、聞く態勢をとる。


「何か分かったのか?」


 私が尋ねると、少し言いにくそうにセンジュは話し始める。

 その様子から私は嫌な予感がした。


「……あのクロザリルお嬢様を殺めた勇者一行が行動を起こしましてね、あの回復魔法士の女が蓮花様の代わりに働きました」

「そうなのか……?」

「蓮花様の代わりにはなりませんが、それなりに役に立ちました」


 かなり意外だった。


 センジュはアザレアらに並々ならぬ怨恨を抱いている。

 関わり合いを持つことも嫌厭けんえんしていたはずだ。


 食事の用意もろくにしない程センジュは嫌っていたのに、この件はセンジュもひっ迫していたからだろうか。


 私の表情を読んだセンジュは、付け加えて説明した。


「クロザリルお嬢様を殺めた事を真摯しんしに謝罪されましてね。到底許す気にはなれませんが、役に立ちたいと食い下がってきましたので泳がせてみたら彼らが痕跡を見つけました」

「それで何者か分かったのか?」


 私が尋ねるとセンジュは少しだけ顔を曇らせた。

 その表情に、一瞬の戸惑いが浮かんだように見える。


「残っていた遺伝子情報から割り出しているようですが、苦戦しておりましたね。しかし判明しました。勇者らの面識のない人間のようです」

「馬鹿な。面識のないような者が魔王城に入ることなどできるはずがない」


 魔王城は私の結界によって守られていたはずだ。

 外部の人間が易々と侵入できるはずがない。

 ずっとこの場所は私たちが結界を張り続けて侵入を阻んできた。


「三神との戦いでメギドお坊ちゃまの魔力枯渇で魔王城を覆っていた結界が解除されてしまっていたようです」


 センジュの言葉に私は絶句した。

 確かに昨日は疲労困憊であった。

 その際に私の張った結界が解けてしまったらしい。


 ――そうなると、他の町で張った結界も壊れてしまった可能性があるな……


 その事に頭を痛めながら、私はセンジュに返事をする。


「……私としたことがそれは失態だった。だが、昨日のうちに結界を張り直した。私たちが食堂に行ったあの僅かな隙を狙って入ったとしたら、ずっと期を伺っていたとしか思えない」


 魔王城の周辺には自然が広がっているだけで何もない。

 だから魔王城周辺にずっと張り込み続けるのは現実的じゃない。


 相当な執念があれば別の話かもしれないが……


 そんな執念を持って期を伺っている存在がいた事を考えると、私は背筋に悪寒が走った。


「……それで、魔王城付近にいた人間を見つけましてね、捕まえたのですが……」


 センジュは言いにくそうに言葉を濁した。

 なんだ、もう捕まえたのか。


 そこから情報の糸口を割り出すことができるだろう。


「ライリーの言っていた『真紅のドレス』の一員か? 母上の遺体は見つかったのか?」


 私がそう尋ねるとセンジュは少しの間沈黙した。


「クロザリルお嬢様のご遺体は見つかっておりません。今、お話を聞いているところでございます」

「多少手荒にしても構わない。私が口を割らせる」

「……百聞は一見に如かずと言いますし、実際に捕まえた人間を確認してみてください」

「分かった」


 私はセンジュの言葉に従い、センジュの後をついて行き地下牢へと向かった。


 私の足取りは重かった。

 この先に何が待ち受けているのか、不安と期待で揺れ動いていた。

 母上の遺体が見つからなかった事にやはり焦燥感を感じる。


 地下牢の扉を開け、センジュと共に中に足を踏み入れた。

 湿った空気がヒンヤリとして冷たい。

 それ以上にここには捕獲されてきた人間らが押し込められている為、異臭がする。

 あまりここに長くはいたくない。


「こちらです」


 私は薄暗い牢の奥に人影を見つけた。


「!」


 センジュが捕まえた人間を見たとき、私は言葉を失った。

 私の目の前にいたのは私の見覚えのある人物だったからだ。


「お前は……───」




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