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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第4章 裏ストーリーをクリアしてください。▼

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犯人を捜してください。▼




【メギド 魔王城 食堂】


 私は食堂に戻り、そこにいる者たちを一人ずつ見ていった。


 タカシ、アザレア、イベリス、エレモフィラ、ウツギ……ルシフェルと大天使4名、ノエルとレインとその伴侶、ライリー。

 ほぼ全員がここにいる状態だ。


 全員の顔に疲労の色が濃く出ていた。


 私が食堂に戻ってきても皆は気にせず食事を続けていた。

 王座の間で何があったか知っている者がこの中にいるのだろうか。


 ヤツらにとってこの時間はようやく得られた安らぎのひとときなのだろう。

 安穏とした様子で食事をしているだけだ。


 私はその空気を一瞬で凍てつかせる言葉を言い放った。


「お前たち、聞け。王座の前の棺に触れた者は申し出ろ。触れていない者は挙手をしろ」


 急な私の言葉に皆は唖然としていた。

 何のことか理解していない者ばかりだったが、賢いアザレアらはすぐに私の言葉の真意を察したのだろう。

 アザレアらは静かに手を挙げた。


 タカシもアザレアらが手を挙げたのを見て、やっと私の言葉を理解したのか食べ続けながらも手を挙げた。

 その間抜けな姿に私は少しだけ苛立ちを覚える。

 阿保のタカシはいつも通りだ。

 その間抜けさを見て、タカシはこの件には絶対に関わってないだろうと断言できる。


 アザレアらとタカシは勇者の剣が抜けてからずっと私と共にいたし、嘘をついている様子もない。


 そしてルシフェルら白羽根も顔色一つ変えずに手を挙げた。

 ヤツらの表情からは何も読み取ることができなかった。

 だが、それも嘘ではないようだ。


 レインは食べ物に夢中になっていて私の言葉に気づいていなかったが、ノエルがレインの身体を軽く叩いて気づかせ、私が言ったことを改めて言った後はレインとノエル、そしてノエルの伴侶も挙手をした。

 こちらも嘘をついている様子はない。


 私が最も疑っていたライリーも、顔色を変えずに手を挙げている。

 ヤツの瞳は私をまっすぐに見つめていた。


「…………」


 全員が挙手をしている。

 誰も嘘をついている様子はない。


 ――ここにいる者ではないのか……?


「どうしたんだメギド?」


 タカシが心配そうな顔で私に問いかけた。


「王座の前にある棺の中の遺体が何者かによって持ち去られた。知っている者は引き続き挙手をし続けろ」


 私の言葉を聞いて全員が手を下ろした。

 やはり全員嘘をついている訳ではない。


 私の話した内容で皆の顔に驚愕と、困惑の色が浮かんでいた。

 驚きは演技にも見えないし、魔道具のピアスも正常だ。

 やはり誰も嘘をついている様子はない。


 私は真っ先にライリーに視線を向けた。

 ヤツはこの中で最も怪しい。


「ライリー、お前は何も知らないのか」


 名指しされたライリーは険しい表情をしながら返事をした。


「なんで私が真っ先に疑われるんだ。何も知らないよ」

「勇者の剣が抜かれるまでは確かにあの中に遺体があった。あの戦いにいなかったお前から疑うのは当然だ。ライリーでなければ白羽根連中だ」


 私は次にルシフェルらを睨んだ。

 ルシフェルらは私の視線に動じることなく余裕そうに笑っている。


「魔王家の者の遺体に何故私たちが干渉しなければならないのですか」

「外の白羽根連中の可能性もある」


 私の言葉にルシフェルは心底呆れたように言った。


「それを本気で言っているなら、相当混乱しているようですね」


 ルシフェルに煽られて私の苛立ちは募るばかりだった。

 だが、ルシフェルの言葉には一理ある。


 私がこの状況で動揺していることは犯人らにとって有利に働くだろう。


 その時、ライリーが静かに口を開いた。


「前魔王の遺体に興味があるのは、『真紅のドレス』の連中くらいだろう」


 ライリーのその言葉を聞いて、私は以前ライリーが言っていたことを思い出した。


“「……前魔王クロザリルの別の呼び方だよ。真っ白のドレスが返り血で真っ赤に染まったのを『真紅のドレス』と呼んでいた。それがそのまま組織名になったんだ。魔王信仰の奴らはクロザリルを信仰していた」”


 だが、そんな不気味な連中がこの城の中にいたらすぐに気づくはずだ。


「それらしい奴らは見ていないし、すぐにわかるはずだ。それに、勇者の剣が抜かれた事を知らなければこんなタイミングで遺体がなくなったりしない」

「なら、外部から丁度良く入って来た誰かじゃなくて、元々ここにいた誰かなんじゃないかな」


 アザレアの言葉は私の疑念をさらに深めた。


 ――元々ここにいた誰か……私の知っている者のいずれかという事か


「真紅のドレスの連中の特徴は何かないのか」


 私がライリーへ問いかけると、首を横に振った。


「魔王信仰って言ってもそれぞれだし……一枚岩の組織じゃないからね」


 魔王信仰があることは小耳に挟む程度には知っていた。

 私自身は魔王信仰の具体的なことは何も分からないし、知りたくもない。

 今から少しずつ魔王信仰の実態を掴もうとするのは現実的ではない。


 しかし、この場にいる全員が白なら、他の連中を尋問するまでだ。


「魔王城にいる全員に尋問するまでだ」


 私は誰の意見も聞かずに再び食堂を後にした。


 残るは、蓮花、カナン、地下牢の人間ども、白羽根の連中全員、そして、どこにいるのか分からないダチュラ。


 ――あるいはこの中にもう実行犯はいないのか?


 絶対に母上の遺体を取り戻す。

 その事だけを考え、疲労感を拭い捨てて歩いた――――……と言えれば良かっただろうが、私の疲労感は気合や怒りなどの感情でどうにかなる程度を超えていた。


「はぁ……はぁ……」


 私が廊下の壁に肩をつけて少し休憩していると、後ろから声がした。


「メギド、俺になんか手伝うことはあるか?」


 そう言って現れたのはタカシだった。

 私の鬼気迫る様子を見て心配でもしたのか追いかけてきたらしい。


 タカシも魔神との戦いで相当疲れているはず。

 それでも私の事を気遣って追いかけてきた様子。

 家来として殊勝な心掛けだ。


「疲れてるんだろ、無理すんなって体力ないんだから」

「……やかましい。事が事なのだ。犯人がそう遠くへ行っていない今行動しなければ……」

「難しい事は分かんねぇけど、ほら」


 タカシは私に背を向けてしゃがんだ。


「背中貸してやるからさ」

「…………」


 ここ最近は自分の足で歩くことが多かった私は、その選択肢があったかとひらめいた。

 私は以前していたようにタカシの肩に乗る。


「……おい、背中を貸してやるって言ったんだぞ! 肩に乗るな!」

「お前に乗るくらいの体力はある」

「だからその謎のバランス能力なんなんだよ!」

「早く歩け」


 軽くタカシの後頭部を蹴ると、不満そうにタカシは歩き出した。

 自分で歩かない分、幾分か楽になった。


「蓮花の部屋はあっちだ」

「俺の頭上で指さされても俺は見えないって言ってるだろ!」


 そんなやり取りが遠い昔のように感じた。

 しかし、焦っていた私の気持ちはタカシの間抜けさで少し落ち着いた。

 今の私の頭脳は凡庸ぼんよう以下の状態だ。


 蓮花の部屋についた私はタカシの肩から降りて、少し待つように伝えた。


 コンコンコン……と蓮花の部屋の扉を軽く叩き「私だ」と言って中に入った。

 中でゴルゴタはベッドの横の椅子に座って眠っている蓮花の様子を見ていた視線を私に移す。


「……で?」


 ゴルゴタが私に尋ねる。


「食堂にいる全員は嘘をついていないようだった。あの連中はずっと私と一緒にいたからな。元々違うであろうと思っていた」

「チッ……蓮花ちゃんが起きてれば俺様も探しに行けるんだけどなぁ……」


 疲れがないゴルゴタが今動ければ大きいが、ゴルゴタとしては蓮花の方を優先したいと考えているようだ。

 過去の母よりも今生きている蓮花を優先する事は否定することじゃない。

 それに、母上を生き返らせるにしてもこれから何をするにしても蓮花が必要となる。


 私はゴルゴタを責めはしなかった。


「残るはこの城にいる白羽根全員と、カナン、地下牢の人間ども、それからどこにいるか分からないダチュラが残ってる。ライリーは母上を信仰していた『真紅のドレス』とかいう魔王信仰の連中が魔王城の中にいるのではと言っていた」

「……気持ち悪ぃな……」


 ガリッ……ガリッ……とゴルゴタは自分の指を噛み千切り始める。


「お前は蓮花の事はしっかり監視していろ。その女も容疑者の一人には変わりない」

「あ? コイツには無理だろ。ずっと俺様の視界の届くところにいたんだぜ?」

「その女はあらゆる道理を覆してきた。何か知っている可能性も捨てきれない」

「人殺しがお袋の死体をどうにかしたってンなら、なんとかしようとしてるんじゃねぇ……?」

「……お前は少しはその女を疑う事を覚えろ」


 ゴルゴタは納得していなそうな表情だったが、それだけ言って私は蓮花とゴルゴタを残して部屋を出た。


 私が蓮花の部屋を出るとタカシが眠そうに欠伸あくびをしているのが見えた。

 好きなだけ食事を摂ったタカシは眠くなったのだろう。


 その後、衝撃的な言葉を言われた。


「メギド、もう今日は休んだら? クマできてるぞ」

「なっ……」


 部屋を出た瞬間タカシにそう言われ、私は大きなショックを受けた。


 ――この私の美しい顔にクマが……!?


 私は反射的に自分の顔に触れる。

 鏡があったらすぐにでも確認したい衝動に駆られる。


「キレキレの頭も回ってないみたいだし、マジで休んだ方がいいぞ」

「…………」


 タカシのいう事に従う事はしゃくだったが、これから完璧な私の生活が始まるという矢先に私自身のコンディションが悪いのは由々しき事態だと自覚し、今日のところは休むことを決意した。


 タカシのデリカシーのない言葉がなければ私は徹夜で捜索をしていたに違いない。

 こんな状態で捜索を続けても真実を突き止められないだろう。


「私はもう休む」

「おう、俺も休むわ。ふわぁ~……」

「その前に、白羽根どもは庭の端の方で寝ろと言って来い」

「え……部屋使わせてやらねぇの?」


 当たり前だ。

 招き入れただけでもかなりの譲歩である。

 部屋を与えるなど正気の沙汰ではない。


「奴らも城の中で過ごしたくないだろうし、私たちも白羽根どもと同じ屋根の下で眠るなどできない」

「……天使アレルギーって言ってたもんな。でも、流石に可哀想じゃね?」

「食事を振舞っただけでありがたいと思えと言っておけ」


 もう後の事を全てタカシに丸投げし、軽くシャワーを浴び、着替えをして私は自室に戻ってベッドに倒れ込み、気絶するように眠ることにした。




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