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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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勇者の剣が煌いた。▼




【タカシ 魔王城 庭】


 俺は走った。


 足がもつれて、息が切れて、もうどうにでもなれってくらいめちゃくちゃに走った。


 魔王城の正面扉の王座の前になぜかずっと置いてある棺桶と、それに突き刺さっている謎の剣。

 メギドに聞いたけど、これはメギドたちが何をしても抜けないという『勇者の剣』らしい。


 メギドには「来るべき時が来るまで絶対に触るな」としか言われていない。

 メギドたちが総出で抜こうとして抜けないような剣を俺が抜けるのか?


 アザレアが急に蓮花に殺されたと思った矢先、死神とか、天使が来たり神とか魔神とか、もう訳が分からねぇ!

 っていうか細かい事何にも説明ないから何も分からねぇ!


 メギドが忙しそうだからなんとなく話聞けなかったけど、後半は俺が忙しくてメギド暇そうだったじゃん!?

 ゴルゴタってやつ怖すぎじゃね!?

 それよりも蓮花ってやつヤバすぎるだろ!?

 脚炸裂してたけどあれは何!? 大丈夫なのあれ!?


 俺の言いたいこと何にも言えてないし、なんでこうなってるのかさっぱりわからないし、っていうかメギドも何が起こってるのか分かってないみたいだし、だとしたら俺はもっと分からないよ!


 棺桶に物騒に刺さってる剣を掴むのに躊躇あめらいはほぼなかった。

 滅茶苦茶急かされて焦ってたのもあるし、俺は難しい事は何も分からなかったからすぐに剣に手を伸ばし、掴んだ。


 引き抜けるか疑問だったけど、俺がその剣は「サクッ……」と抜けた。


「え、抜けた……?」


 手に握った勇者の剣は、やけに軽かった。

 まるで何も持っていないかのような軽さで、自由に振り回してもなんの抵抗も感じない。


 そんなことを気にしている場合でもなく、俺は急いでメギドたちがいたところに引き返した。


 なんだろう。

 剣を抜いた後から体まで軽い気がする。

 いつもより早く走れているような気がする。


 庭に戻ると、そこは地獄のようだった。

 もともと庭は荒れていたけど、この戦いでもう滅茶苦茶になっていて、綺麗な薔薇の木が無惨に吹き飛んでいる。


 俺は、震える手で勇者の剣をしっかりと握りしめた。


「メギド! 勇者の剣持って来たぞ!!」


 俺が叫ぶとメギドは驚いた顔でこっちを見た。

 その隙をあの化け物が、見逃さなかった。

 その視線に俺はゾッとする。


「そいつを切れ! そいつがお前が仕留めるべき敵だ!」


 そいつってどいつのことだよ!?

 色々いすぎてもうどれなのか分からない。


 それでも走って俺は戦場に向かって行く。


「うぉおおおおおお!! そいつってどいつの事だよ!!?」

「そのバケモンだよクソ猿!!!」


 ゴルゴタが指さした方を見ると、そのバケモンは蓮花を狙うのを辞めて俺の方に真っ直ぐに向かってきた。


「っ!?」


 俺はその圧倒的な速さに体がすぐには動かなかった。


 でも、見えた。


 アザレアと共に稽古した成果が出ている。

 相手の動きの軌道がギリギリ見えていた。


 ――でも……反応しきれない……!


 そう思っていた。

 だが、俺の身体はとても軽く自分の想像以上の動きをした。


 俺に襲い掛かる魔神に、俺は力の限り勇者の剣を振り下ろした。

 それを魔神に弾かれ、魔神から攻撃が繰り出される。


 次の動きを考えて避けるということをアザレアに教わった。


 次の動きがしやすいように避けて、再び俺は剣を振る。


 メギドが俺の方を気にして別の敵に集中できていないのが見えた。

 俺は……正直、目の前の奴が怖かったし、メギドに助けて欲しかったけど、いつも俺はメギドに守られてばかりだった。


 ――今度は俺がメギドの役に立つ!


 「俺は大丈夫だ! 俺に背中預けてくれ!!」


 俺がそう叫ぶとメギドは俺を信じて背を向けた。

 俺が足を引っ張る訳にはいかない。

 俺はこのためにアザレアと稽古をしてきたんだ。


 俺は魔神に向かって再び剣を振り下ろした。

 魔神の攻撃はとてつもなく重く、剣で防ぐのが精一杯だった。


 何回か防いでいるうちに俺の身体に攻撃がかすり、徐々に傷だらけになっていった。


「小賢しい!」


 魔神の一撃を勇者の剣で防いだ瞬間、俺はその衝撃で吹き飛ばされて地面に転がった。


「ぐっ……」


 全身が痛み、まともに息ができない。

 頭がクラクラしてすぐに立ち上がることができなかった。


 ――しまった……!


 俺は心の中でそう叫んだ。

 絶体絶命だ。

 ここから身体を立て直して剣を構えるのに数秒かかる。

 それでは間に合わない。


 魔神が俺に止めを刺そうと飛びかかってきた。


 ――駄目だ……間に合わない!


 もう俺は諦める他なかった。


 せっかくメギドの役に立てると思ったのに。

 俺を信じて背中を預けてくれたのに。

 俺はまだ、メギドに髪飾りを作ってやっていないのに……


 色々な事が頭の中をよぎる。


 そして、ついに魔神の攻撃が俺に到達する……――――


 その時、俺の前に誰かが入ってきて魔神の攻撃を防いだ。


 ガキンッ……!


 「え……?」


 俺は目を疑った。


 もう何の理解も追い付かない。

 どうなっているんだ。

 俺がおかしくなったのか?


 そこに立っていたのは死んだはずのアザレアだった。

 アザレアは魔神の一撃を剣で受け止めていた。

 しかし、魔人の攻撃でアザレアの剣は折れそうに軋んでいる。


「アザレア……!?」

「立てタカシ。生命の続く限り諦めるな」


 アザレアは普通に喋って動いている。


 俺は更に何が何だか分からなかった。

 アザレアが生きている。

 そして戦っている。


 その事実に俺の身体は再び熱くなった。


 俺は痛みをこらえて立ち上がった。


 アザレアは俺に背を向けたまま魔神に向かっていく。

 アザレアの動きは俺が知っているいつものアザレアの動きだった。


 人違いではない、本当にアザレアだ。


 俺はアザレアの動きに合わせて体勢を立て直して勇者の剣を振るった。


 アザレアと俺の動きは完全に一致していた。

 俺たちは言葉を交わさなくてもお互いの動きを理解していた。

 数日だけだけど一緒に稽古したのもあるし、身体も以前よりも調子がいい。

 だから俺はアザレアと息の合った攻撃ができた。


 アザレアが魔神の注意を引いて俺が攻撃する。

 俺の攻撃を魔神が防ぐとアザレアが魔神の隙をつく。


「小賢しい猿どもがぁっ! 滅ぼしつくしてくれる!」


 それでも魔神は相当強い。

 俺とアザレアが魔神の片手で薙ぎ払われたとき、俺たちもかなり息が上がっていて傷の痛みで動きは確実に鈍くなっていた。


 そこを狙うように魔神は追い打ちをかけてきた。

 アザレアはまだ立とうとするが、明らかに魔神の攻撃についていけていない。


 今度こそもう駄目だと思った瞬間、魔神の身体が一瞬で凍ったのが見えた。

 完全に凍った訳じゃなかったから、動きが鈍ったところをアザレアが受けた。


「アザレア! 畳みかけろ!」


 後ろから聞こえたのはイベリスの声だった。

 イベリスも死んでいたはずだ。

 もう疑問を感じる時間はなかった。


「気を抜かないで。敵から目を離さないで」


 身体の痛みが急に引いたのと同時に、エレモフィラの声も聞こえる。


 俺とアザレアの身体の傷は瞬く間に治って、身体が更に軽くなった。

 俺は感謝を伝えたい気持ちもあったが、今目を離すなと言われたばかりであり、アザレアはまだ魔神と戦い続けている。


 ――俺がここで頑張らないと……!


 俺がアザレアの動きに合わせて魔神に向かう。

 俺たちの隙をイベリスが魔法で補助をしてくれて、怪我をしたらエレモフィラが魔法で治してくれる。


 それでも、魔神の隙はなかなか生まれない。

 このまま戦い続けてもジリ貧で俺たちが負けるかもしれない。


 そんなとき、誰かが走ってくる音が聞こえて魔神に強力な蹴りが入った。


「!?」


 全身に蓮花の顔のタトゥーのような模様が書いてある青年だった。


 その攻撃を受けて魔神は一瞬ひるんだ。


ひいらぎ……!?」


 エレモフィラは驚いてその全身タトゥーの青年を呼んだ。


「やっぱ、俺がいねぇと駄目だなお前ら!」

「なんで……」

「今は敵に集中しろよ!」

「あぁ!」


 魔神が物理攻撃だけでなく、魔法を放って全力で応戦してきた。

 魔法をイベリスとアザレアが防ぐ。

 俺も隙があれば魔神に切りかかった。

 俺たちの攻撃がジワジワ効いたのか、魔神の動きも徐々に鈍くなってきていた。


 その隙をアザレアが見逃さなかった。

 魔神の硬い体の鱗の隙間に剣を叩きむと、魔神に大きく隙ができた。


 「タカシ、今だ!」


 アザレアの叫ぶ声が聞こえた。

 俺は勇者の剣を魔神の心臓部に向かって突き出した。


 しかし……俺の剣は一瞬止まった。


 俺は食べる目的以外で何かを殺したことがない。

 殺すなんて物騒な事はできればしたくない。


 土壇場になってそんな思いが俺の剣を一瞬鈍らせる。


 その隙に魔神が俺に攻撃を仕掛けてきた。


 ガキンッ!


躊躇ためらうな! 後悔は後から俺が共に背負うから!」


 アザレアの叫ぶ声が聞こえた。

 アザレアは俺の代わりに魔神の攻撃の軌道を逸らした。

 俺の身体には攻撃がかすっただけで済んだ。


 まともに攻撃を受けていたら俺が死んでいた攻撃だ。


 それが分かって俺は今、戦場にいるんだと実感した。


 俺はアザレアの言葉に覚悟を決めた。

 俺は剣を魔神の心臓部に向かって突き刺した。


 「うぉおおおおおお!!!」


 勇者の剣が魔神の身体を貫いた。


「がぁっ……!」


 貫いた魔神の動きが止まり、身体から黒い煙が噴き出して……

 魔神はついに倒れた。


「はぁ……はぁ……」


 俺たち全員が息があがっていた。

 全力を出し切ってやっと倒せた強敵だった。


 俺がやったという実感が沸かなかった。

 こんな強敵に俺は勝てたのか。

 剣を振り始めてまだ数か月しか経っていない俺が……メギドたちの敵に打ち勝てたのは奇跡だと感じた。


 倒れた魔神の身体は少しずつ消滅始め、やがて完全に消えた。


 それを見た俺はその場に崩れ落ちた。

 全身が痛み、徐々に意識が遠のいていくような感覚がする。


「よくやったな、タカシ」

「かっけーぞお前!」


 アザレアと柊は俺にそう声をかけてくれた。


「でも、まだ終わってない」


 エレモフィラはすぐに視線をメギドたちの方に向ける。


 魔神は倒したが、まだ神がメギドたちと戦ってた。




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