これが最後の戦いだ……?▼
【メギド 魔王城 庭】
現れた神と魔神……ヤツらの目的は明確だ。
私たちを排除すること。
話し合いの余地など最初から存在しなかった。
喧嘩を売った蓮花に強引に巻き込まれたような状態だが、いずれはこうなっただろう。
遅かれ早かれという話ではあったが何の構えもしていない。
先日ゴルゴタがライリーに向かって、常にベストの状態で交戦できるとは限らないと言っていたがまさにその通りになった。
――しかし、神と魔神を同時に相手することになろうとは……
「身の程を弁えろカスども」
魔神がそう言って私たちに襲いかかってきた。
その声は重く地面を這うような不気味なものだった。
私はすぐに魔力で防御壁を張り巡らせた。
しかし、それは紙切れのように魔神の一撃で吹き飛ばされた。
その圧倒的な力に私の身体は一瞬で吹き飛ばされ、宙を舞う。
魔法属性は相殺したがエネルギーは殺しきれなかったので私の身体が軋む。
それでも倒れまいとその場に着地する。
「っく……」
――これで本当に全盛期の力を失っているのか?
私が着地する前に魔神はカナンに向かって襲い掛かった。
カナンは全く反応できずに魔神の拳が直撃する……――――かと思ったが、蓮花が魔法を瞬時に発動させたことによって軌道が逸れた。
しかし、カナンの右肩が吹き飛んだ。
「あぁあああああああぁぁああぁ!!!」
想像を絶する痛みだったのか、カナンは叫び声をあげる。
魔神は次に蓮花を狙った。
蓮花を潰すのが最善手だと判断したのだろう。
私の動体視力でギリギリ目で追えるような速度で動いている魔神の猛攻、片脚を失っている蓮花は捌けない。
そんな蓮花をセンジュが抱きかかえて避難させる。
意思の疎通をする間もない。
蓮花は何か言いたげだったがそんな隙は存在しない。
「ちぃっ……!」
ゴルゴタが妖刀五月雨を振るって魔神に挑んだ。
だが、妖刀五月雨を魔神に突き立てたところで魔神には傷一つつけることができなかった。
その事実にゴルゴタは僅かに動揺する。
しかし間髪入れずに妖刀を持っていない拳を魔神に叩き込んだ。
「!?」
魔神に対する感触が全くなかったのか、ゴルゴタは一度魔神から距離をとった。
「かてぇ……! ビクともしねぇぜ……」
「馬鹿だね。魔族が魔神を傷つけられる訳ないじゃない」
そう言ったのは神だ。
神は一歩も動かず、魔法を展開した。
ノエルが発動した魔法と同等の強力な魔法が一瞬で展開されゴルゴタに襲い掛かる。
私が空間転移魔法をゴルゴタの前に展開し、その魔法を別の方向に無理矢理ずらす。
それがなければゴルゴタが粉々になっていたところだ。
「ならてめぇから殺す!」
ゴルゴタは神に挑んだ。
魔神の動きに劣らないゴルゴタは一瞬で神の間合いに入った。
妖刀五月雨を振り抜くと、神の白い肌にわずかな傷をつけることができた。
だがその傷はすぐに回復した。
生半可な力では、深手を負わせるまでには至らない。
ゴルゴタは怒りに身を任せ、何度も再び斬りかかる。
しかし神はその攻撃を涼しい顔でかわし、魔力でゴルゴタを弾き飛ばした。
「私によこせ」
ゴルゴタの持っている妖刀五月雨を私は奪い取った。
妖刀五月雨は魔力によって切れ味が変わる。
ゴルゴタの乱れた魔力では妖刀五月雨は真価を発揮しない。
私は魔力を込めた。
五月雨は私の魔力によって鋭く長い刃を作り出した。
私はその刃を神に向かって振り下ろす。
「遅すぎるよ」
当然と言えば当然だが、私の振りは遅く神は容易にそれを避けた。
「貸せ!」
ゴルゴタは私が魔力を込めた妖刀五月雨を奪い取り、そのまま振り回す。
神の速度に通用する速度で刃を翻すが、徐々に刀身が短くなっていき切れ味も落ちていく。
「畜生っ……!」
一方、ルシフェル率いる天使族は蓮花の怪我の回復に徹していた。
白羽根どもは魔神信仰だったはずだが、魔神の存在を忘れているからかこの戦場に普通に参戦していた。
とはいえ私たちと白羽根どもは息が全く合わない。
援護しているつもりだろうが、かえってそれがこちらの妨害になってしまっている。
蓮花の怪我の回復をしたいようだったが、魔神が執拗に蓮花を狙っているので容易ではなかった。
私は二神が弱体化した感触は確かに感じていた。
だが、それでもヤツらは私たちが想像していた以上に強敵だった。
センジュが抱えていなければ蓮花はとっくに魔神に殺されているだろう。
センジュは蓮花の身体を抱え、防御に徹していた。
攻撃をかわし続けながら後退し、なんとかライリーの元へと運ぼうとするが蓮花はそれを拒んだ。
「駄目です。私は離れられません。ライリーが来るまで持ちこたえてください」
センジュは蓮花の言葉に戸惑いながらも防御に徹する。
しかし、神がそれを許さなかった。
神はセンジュに向かって巨大な光の槍を無数に放った。
センジュは蓮花を庇いつつ、その光の槍を見事なみかわしで避けていく。
しかし、圧倒的な物量でセンジュの身体に光の槍がかすめる。
センジュは不死身だ。
防御に徹すれば蓮花を守り切れるはず……――――だった。
だが、センジュの身体からは傷口から血が滲んでいた。
――まさか、死神を完全にとらえた事により不死の契約が無効になったのか……!?
「センジュ!」
「お気になさらないでください。必ず守り切ります」
センジュは衰えを全く感じさせない動きでかわし切っている。
全く連携がとれていない私たちは劣勢であり、圧倒的に神と魔神の方が優勢だった。
神は次々に魔法で私やゴルゴタ、天使らを攻撃し続け、魔神はセンジュに抱えられている蓮花を執拗に狙う。
「よそ見してる場合じゃないんじゃないかな」
私が戦況を見極めている間に、神は私に向かって特大の魔法を放った。
――しまった……!
防ぎきれず、且つ避け切れないと覚悟を決めた。
しかし、ゴルゴタが私の身体を乱暴に掴んで翼を大きく羽ばたかせて空中に一時的に避難できた。
「テメェで飛べ! 足手まといはいらねぇんだよ!!」
「五月雨をよこせ!」
空中で私たちは五月雨を渡し、一時的に二分した。
だが、飛行は体力を大きく使う上に隙だらけになる。
私が再び妖刀五月雨に魔力を注ぎこみ、長く強靭な刃を形成したところをゴルゴタが奪い取り神に向かって貫くように突き立てようとする。
しかし、突きの攻撃を見切った神は容易にそれを避けた。
かすめた傷もすぐに塞がってしまい、意味を成さない。
このまま戦い続けてもジリ貧だ。
決定的な何かがなければこのまま押し負けるかもしれない。
私がそう思った時、遠くから声が聞こえてきた。
「メギド! 勇者の剣持って来たぞ!!」
振り返ると、タカシが走ってきていた。
「!」
タカシの手には、母上の胸に深々と突き刺さっていた伝説の勇者の剣が握られていた。
何をしても抜けなかった忌々しい勇者の剣がついに抜かれたのだ。
タカシは負傷している私や天使族を見て、恐怖で顔が引きつっているし足取りも不安定になっていた。
だが、タカシの瞳は決して揺らいでいなかった。
タカシは震える手でしっかりと勇者の剣を握り、着実に近づいてきている。
「そいつを切れ! そいつがお前が仕留めるべき敵だ!」
「うぉおおおおおお!! そいつってどいつの事だよ!!?」
「そのバケモンだよクソ猿!!!」
ゴルゴタが魔神を指さすと、魔神は蓮花を狙うのを辞めてタカシに向かって行った。
「っ!?」
圧倒的な魔神の速度にかろうじてついていける程度の動きでしかないが、タカシはしっかりと剣を構えた。
いつも情けない事ばかり言っていたタカシが覚悟を決めた顔で魔神を見据える。
その姿はまるで、アザレアのような本物の勇者のようだった。
タカシが襲い掛かる魔神に、勇者の剣を振り下ろした。
それが魔神に弾かれ、攻撃を受けるとそれを次の動きがしやすいように避けて再び剣を振る。
それは以前に見たことがあった軽やかな洗練された動きであった。
以前タカシが暴走してゴルゴタとセンジュを亡き者にしたあの時と同じ、操られているような動きだ。
――まさか、神の力に乗っ取られたか……!?
そう思われたが、タカシは正気を保っており的確に魔神を狙って攻撃をしている。
「何……!?」
神はその光景を見て驚きを隠せなかったようだ。
以前はアレは神の支配が強くあった剣。
今は信仰力を失って弱体化したからタカシは正気を保っているのかもしれない。
この場において全ては私の憶測の話に過ぎない。
「よそ見してんじゃねぇ!!」
その神の一瞬の隙をついてゴルゴタは、神の腕に目掛けて妖刀五月雨を振り抜いた。
スパンッ……!
神の左腕が地に落ちた。
左腕がまるまると落ちた神は苦悶の表情を浮かべ、少しゴルゴタから距離をとる。
――効いている!
神は大きく欠損した部分は再生しなかった。
私はタカシの方が気になっていたが、タカシはそんな私に気づいたのか叫ぶように言った。
「俺は大丈夫だ! 俺に背中預けてくれ!! 俺だってお前の役に立てる!!!」
それを聞いて私は失笑した。
「ふ……」
――生意気な事を言うようになったではないか……
「集中しやがれ! ここでぜってーぶっ殺す!! 足引っ張んなよなぁ!?」
「お前こそ足を引っ張るなよ。全力でいくぞ!」
私は魔神を相手するタカシに背を向け、神を始末する為にゴルゴタと共に神を見据えた。




