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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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回復魔法を使いますか?▼




【魔王城】


 ゴルゴタが城に戻ると、従者の魔族は緊張感でこわばった表情をしながら彼に頭を下げた。


 ゴルゴタの進行方向にいる魔族は道をすぐ開け、絶対に目を合わせようとはしない。


 長時間に及ぶ飛行で疲れていたゴルゴタは、魔王の椅子に座って脚を組み頬杖をついた。


「……おい、お前」


 比較的近くにいた小鬼族にゴルゴタは声をかけた。

 その小鬼はビクリと身体を震わせながらも恐る恐る丁寧に返事をする。


「はい……なんでございましょう。ゴルゴタ様」

「回復魔法士を連れてこい。早くしろよ? 俺様を待たせたらどうなるか、分かってるよなぁ……?」

「は、はい!」


 脅し文句に対して慌てた様子で、その小鬼族は走って地下牢の方へと向かって行った。

『回復魔法士』という言葉を聞いてセンジュはとても嫌な予感がし、ゴルゴタに問う。


「回復魔法士がいるのですか? 何のために?」

「何かと便利だからなぁ……? まぁ、面白れぇもんを見せてやるから待ってろよ」


 その「面白いもの」という言葉を聞いて、センジュは真っ先に死者を生き返らせるということを連想した。


「もし……死者を生き返らせようとお考えでしたら、それだけはお止めくださいませ」


 強い口調でセンジュがそう言うと、ゴルゴタはニヤッと笑った。


 笑ったゴルゴタの顔を見て今は亡きクロザリルを復活させようとしているのかとセンジュは考え、いつもよりも強い口調で牽制する。


「ゴルゴタ様、『死の法』だけは犯してはいけません。それだけは絶対に守らなければならないのです。手遅れになってからでは遅いのですよ」

「ふぅん……珍しくジジイが随分恐れてるんだなぁ……? へぇ……?」

「そうしようとなさっているなら、命を賭けて止めさせていただきます」

「ヒャハハハハハッ! ジジイが命がけとは面白れぇなぁ……その時が楽しみだぜぇ……?」

「ゴルゴタ様!」


 茶化して面白がっているゴルゴタに対してセンジュが強く牽制すると、少しの沈黙の末にゴルゴタは答えた。


「…………なぁーんか勘違いしてるかもしれねぇけど、俺様はお袋を生き返らせようとは思ってねぇ……『死の法』ってのは生き返ったヤツと生き返らせたヤツが呪われるんだろぉ……? そのくらい知ってるっての。いっくら俺が世間知らずの()()()だからってバカにすんじゃねぇよ? なぁ……?」

「では何を生き返らせようと言うのですか?」

「キヒヒヒ……お袋をぶっ殺した勇者の方さ……それを聞けば俺様が何をしたいかくらい、ジジイなら分かんだろぉ? ヒャハハハッ」


 その言葉でゴルゴタが何を求めているのかセンジュは分かった。


 一先ずはクロザリルを生き返らせるという考えではないということを聞いて、センジュはほんの少しだけ安堵する。


 口で言っても聞かないゴルゴタに対して、どうやってそれを阻止するかということをセンジュは考えた。


「…………勇者一行の墓の場所がどこにあるかご存じなのですか?」

「方々の魔族に調べさせてんだよ。まぁ……そのうち見つかるだろぉ……なにせ伝説の勇者様だからなぁ……? 丁重に埋葬されてることだろうぜぇ……」


 ゴルゴタとセンジュが話している中、ダチュラは痛みでうめき声をあげていた。


 骨が折れて顔の形が変形しているダチュラをゴルゴタは冷ややかな目で見ている。

 あまりにもその姿が痛々しく、センジュはそのことに言及した。


「ゴルゴタ様、無益な殺生や暴力はお止めください。貴方様に忠義を尽くしている者さえも手にかける暴挙……いずれは誰も貴方様に従わなくなりますよ」

「『血水晶のネックレス』があれば忠誠心なんざいらねぇよ……それに、俺様は魔族統治には興味ねぇ。毛のない猿を一匹残らずぶち殺すっていうだけよ」

「……人間を全て殺す必要はないのではないでしょうか」

「必要とか不要とかってことじゃねぇよ。楽しくてやってんだからさぁ……俺様の趣味みてぇなもん。ヒャハハハッ」


 その応答にセンジュが頭を痛めていると廊下の方から誰かが叫ぶ声と、怒号を飛ばす声が聞こえてきた。


「嫌だ! やめて!」

「早くしろ! 殺されたいのか!」


 先程の小鬼が1人の若い男の人間を連れてきた。

 人間の年齢で言うと、20歳前後だろう。


 ボロボロの法衣を纏っており、白を基調としているのにもかかわらず酸化した血や泥で全体的に茶色になってしまっている。

 黒い髪も血でべったりと顔に張り付いてしまっていた。


 首輪、手枷、足枷がついており、その枷から鎖が伸びて小鬼がしっかりと掴んでいて逃げられない状態だ。


 酷く怯えており、小鬼が無理やり引っ張ってきている中ゴルゴタを見ると「ひっ」と短い悲鳴をあげた。


「連れてまいりました。ゴルゴタ様」

「やめて……もうやめてください……助けて……お願いです……」


 怯えて震えているその者にゴルゴタは近づき、法衣の胸ぐらをつかみあげる。


「いいか? てめぇがちゃーんと仕事すれば生かしておいてやるからなぁ……? 何にも役に立たねぇ回復魔法士だったら用はねぇってことだ……分かったな?」

「っ……助けて……助けてください……」

「あぁ? 分かったなら返事くらいしろよ。礼儀のなってねぇ猿だな……お仕置きが必要だよなぁ? ヒャハハハハッ!」


 ゴルゴタは炎の魔法で回復魔法士の肩を焼いた。

 服が燃え、皮膚が燃えた。


「あぁあああぁあああっ!!」


 肉の焼けた匂いがし、魔王城内に悲痛な悲鳴がこだまする。

 ゴルゴタは鬱陶しそうに泣き叫んでいる回復魔法士をセンジュとダチュラの前に乱暴に投げ出した。


「この女を治せ」

「……っ……うぅ……」

「早くしねぇと“花占いの刑”だぜぇ……?」

「ひっ……」


 ゴルゴタが「花占いの刑」と言うと、回復魔法士は怯えて震えながらもダチュラの方を向いた。


「あの……そこに、横にしてください……」


 涙を流しながらそう言う回復魔法士をセンジュは痛ましく思いながらも、言う通りにダチュラを横に寝かせた。


 ダチュラの身体の状態を回復魔法士は確認する。


 よく見ると骨折して骨が肉から突き出ている場所もあった。


「始めます……」


 回復魔法士は震える手を胸の前で組み、祈るようにした。


「……罪深き私、カナンに……彼の御方のお許しを施しください……」


 回復魔法士の男――――カナンがダチュラに対して祈りながら魔法を発動させると、徐々にダチュラの身体が時間が巻き戻っているかのように傷が癒えていった。


 顔の骨も戻り、元の端整な顔立ちに戻り、ダチュラの苦しそうな様子もなくなる。


「…………終わりました……」

「あれほどの傷を一瞬で治すとは……」

「ギタギタに刻んでミンチみたいにしても、生きてさえいれば治せるんだぜぇ……ヒャハハハハ……便利だよなぁ?」

「………………」

「つーか……焦げ臭ぇんだよ。さっさとてめぇの焼けた肉も治しやがれ」


 カナンは自分の肩の傷も同様に回復魔法で治した。


 痛みが引いたのか険しい表情が少し和らいだが、相変わらずゴルゴタの前で冷や汗を出しながら恐怖に怯えた表情をしている。


「もういいや。お前、牢屋に戻しておけ。逃がしたらどうなるか分かってんだろうなぁ……?」

「はい」


 小鬼が鎖を引っ張ると、引きずられるようにしてカナンは再び牢の方へと向かって行った。


 傷が治ったダチュラは身体を起こし、魔王の座に座っているゴルゴタに向かってこうべを垂れてかしずいた。


「申し訳ございませんでした。ゴルゴタ様……お許しを」

「今度勝手なことをしたら、てめぇが“花占いの刑”だからなぁ……?」

「承知いたしました……」

「さっさとジジイを部屋に連れていけ」

「はい……」


 ダチュラがセンジュに対して「こちらへ」と促すと、センジュは大人しくそれに従った。

 歩き出す前に、センジュは再度ゴルゴタに要望を伝える。


「監視付きで結構ですので、たまには外に出してくださいませ。城内の雑用係の足しにはなるでしょう」

「……そんなに雑用がしてぇなら考えておいてやる。部屋で大人しくしてたらなぁ……」

「期待しておりますよ」

「けっ……さっさと行け。やかましくて仕方ねぇ」


 あまり詰め寄ってもゴルゴタは話を聞かないということはセンジュも良く解っていた。

 なのでそれ以上は口を出さず、大人しく部屋に戻ることにした。


 今はゴルゴタの機嫌を取りながら色々と探っていく他ない。


 部屋の前まで来たところで、センジュは暗い表情をしているダチュラに小声で話しかけた。


「ダチュラ、いくつか聞きたいことがあるのですが、よろしいですかな」

「…………答えかねます」


 余計なことをしたら、また身体的苦痛を味わうことになると分かっているダチュラは、センジュの問いかけに対して拒絶反応を示す。

「聞かないでほしい」と縋るような目で彼女はセンジュを見ていた。


「……では、ひとつだけ聞かせていただきたい。あなた自身についての質問です。それなら彼にとって“余計な事”ではないでしょう」

「……答えられそうなことならば」

「では聞きます。貴女は彼が……いつかは大切にしてくれると、振り向いてくれると思っていますか?」


 その質問に、ダチュラはムキになったように答える。


「あたしはゴルゴタ様にとって、センジュ様やメギド様と同様に特別な存在です。だから殺されずに治療もしてもらえるのです」

「……あまり、彼に愛情を求めるのは賢明とは言えませんね。彼の関心はもっぱら復讐にしかありませんから」

「彼は愛情を求めているんです。愛情をどう表現したらいいのか分からないだけなんですよ」


 確信的にそう話すダチュラに対して、センジュはなんと言ったらいいか思考する。


 ダチュラが言ったような節があるかもしれないが、ゴルゴタはダチュラの思っているような状態ではない。

 愛情をもって接すればどうにかなるというのは、ダチュラが抱いている幻想だ。


「…………彼に対して幻想を抱くと、身を滅ぼしますよ」


 センジュがそう言うと、ダチュラは自身の拳を握り込み、明らかな不快感を示した。


「センジュ様、お言葉を返すようですが……何故ゴルゴタ様を助けようとしなかったのですか? もっと早く助け出していたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに……!」


 悔しさを滲ませ、震えた声でダチュラは主張する。

 その言葉にセンジュは過去を思い出し、悲し気な表情をして目を逸らした。


「……わたくしがいくら言葉をかけ続けても、彼の心は結局復讐を忘れられませんでした。それについては私の力不足です。弁解の余地はありません」

「メギド様は……センジュ様も、ゴルゴタ様よりも人間が大切なのですか……? こうなったのは非道な仕打ちを彼にしたせいです。この惨状は、メギド様とセンジュ様にも責任があるのですよ……!」

「わたくし共に責任があることは、メギドお坊ちゃまもわたくしも理解しております。人間も、他の魔族も、そして彼自身のことも大切に思っておりますよ。メギドお坊ちゃまも同じ志でございます」

「ゴルゴタ様の心を壊しても、それでも大切だなんて……どうして言えるんですか」


 ダチュラは涙を浮かべながら激しい怒りの感情をセンジュに向ける。


「…………言い訳をするつもりはございません。しかし、メギドお坊ちゃまの英断を否定することはできません。ずっと人間と小競り合いを続けていたら、魔族は更に衰退しておりました。貴女も生まれていなかったかもしれませんよ」

「あたしは……あたしが生まれないことでゴルゴタ様が救われる未来だったなら、生まれなくてもよかったと思います」


 センジュの脳裏に一瞬『救世主妄想メサイアコンプレックス』という言葉が浮かぶが、それは口にせずに部屋の扉を開いた。


「ご自愛を」


 それだけ伝えて、センジュは自身の部屋に戻った。


 中に入ると見慣れた光景がセンジュの目に入ってくる。

 センジュの部屋は以前と変わらず、血しぶきも飛び散っていなければ死体も横臥していない。


 それを見ると妙に落ち着いた。落ち着くと、次から次へと色々な事が浮かぶ。


 ――やれやれ……次から次へと問題が起こりますね。回復魔法士ですか。困りました……


 ――メギドお坊ちゃまは無事なのでしょうか……連絡しようにも『現身の水晶』は没収されてしまいましたし……


 ――『解呪の水』がメギドお坊ちゃまの手に渡った可能性は……? ゴルゴタお坊ちゃまは上機嫌でお帰りになったことを考えれば、メギドお坊ちゃまに『解呪の水』が渡ったとは考えにくい……


 机まで歩いて行って、一先ずはそこに座る。


 センジュは部屋に掛けてある歴代の魔王の肖像画や、クロザリルが生きていた頃の家族の絵画を見て懐かしく思った。


 歴代の魔王の肖像画はクロザリルの父の魔王アッシュ、そのまた父のヨハネがそれぞれ描かれている。

 どちらも威厳のある風貌だ。


 家族の肖像画にはまだ幼かったメギド、ゴルゴタとクロザリル、そしてセンジュもそこに描かれている。

 こちらは全員が笑顔で描かれており、暖色を基調とした温かい印象を受ける絵だ。


 この絵に描かれているようなゴルゴタはもういないのだろうかと、センジュは短くため息を吐きだした。


 ――さて……城内である程度素材も調達できましたし、続きに取り掛かりますか……


 センジュは部屋の隅に置いてあるものに目を向けた。

 何か大きなものに白い布がかけられていて、センジュがその白い布を取ると等身大の機械人形が現れた。


 人間型の人形で、作りかけの状態だ。

 まだ内外部ともに未完成で、人間型だということがかろうじて分かる程度のもの。


 センジュはダチュラと共に城内を歩いているときに、見つからないようにこの人形を作るための部品を調達していた。


 ――随分放置していますが、別に文句を言ってくる訳でもないですし、今やることでもないのですが……これ以外に今できることもないのも現状……ゴルゴタお坊ちゃまに対して過剰に要求をしても激昂されるのみですし、ゆっくりわたくしのできることを増やしていくしかないですね……回復魔法士の方も早めに手を打たなければ


 センジュは考え事をしながらその人形を机の上に置き、いくつか持ってきた部品素材を魔法で加工して人形に組み込んでいった。




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