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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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【メギド 魔王城 食堂】


 蓮花は目が覚めてから私たちに何の報告もせずに食堂で食事を摂っていた。

 相変わらず肉を雑に焼いたものに塩や胡椒などの最低限の味付けをしたものを食べている。

 蓮花が起きたことを知ったのはカナンが食堂で起きている蓮花を見たからだ。


 その報告を受けて私とゴルゴタは蓮花の元へと向かった。

 何故私たちが蓮花に合わせて行動しなければならないのか。

 ゴルゴタは喜んで蓮花に合わせているが私はそうではない。

 かといって私があれこれ言ったところで蓮花にいう事を聞かせられる訳ではない。

 ゴルゴタの指示ですら最近はあまり聞こうとしない蓮花に私は手を焼く。


「起きてから俺様に挨拶もなしに一人で飯食ってんじゃねぇよ」


 ゴルゴタが蓮花の隣の席に座り、雑な食事をしている蓮花の肩に腕を回す。

 その爪で蓮花の首に爪を立てていた。


 そんな蓮花は無言でゴルゴタの口の方にフォークに刺した肉を差し出した。

 無言で出された肉をゴルゴタは口を開けて口に含んで咀嚼している。

 それからまた蓮花は目の前の肉を切って食べる。


「おい、黙々と食事を続けるな。行儀が悪い等とうるさい事は言わない。食べながらでいいから話すべきことを話せ」


 もぐもぐ……と蓮花は口に入れた肉を暫く咀嚼して呑み込んだ後、蓮花がやっと口を開いた。


「天使族がこの後来るそうです」


 それを聞いた私とゴルゴタに戦慄が走った。


 ――何をしにくるというのだ


 白羽根の連中は私たちの事を私たちと同じように嫌っているのに、そんな連中が何故わざわざここに来る?


 ゴルゴタもその言葉に硬直していた。

 白羽根が魔王城に来るなど、余程の事がなければないことだ。


「おい、人殺し……どういうことだよ?」

「……私が誘導した訳じゃないんですけどね」


 蓮花はそう言って目の前の肉を切ってまた口に入れて咀嚼する。

 咀嚼している顔が何事もなかったかのような無表情で尚更腹が立つ。


「どう考えてもお前が誘導しなければ、この場所を蛇蝎だかつのごとく嫌う連中がこのタイミングで来るはずがないだろう」

「何しに来るってんだよ。つまんねぇ事だったら白羽根どもをぶち殺すぞ」


 ゴルゴタの蓮花の首にかかった爪は蓮花の肌に食い込む。

 その状態だと食事がしづらいのか蓮花は眉間にしわを寄せながらも食事をするのをやめない。

 淡々と目の前の肉を切り、口に運びながら話を続ける。


「何の用かは知りません。数日後にこちらに来るという情報しかもらっていませんので。一応軽くは止めましたが余程来なければいけない理由があるのでしょう」


 白羽根がここにくるということは、もうすでに向こうも気づいているだろうが連絡の取れない2名の天使が死んでいる事が明らかになる。


「お前が大天使2名を殺した事を詰められたら言い逃れはできないぞ」

「あぁ? 全部俺様のせいにするつもりかよテメェ。俺様に殺させるように誘導したよなぁ?」

「とにかくすんなり話が進むとは思えない」


 ゴルゴタの言葉を無視して私は蓮花に問う。


「白羽根どもに何を話した?」

「無属性魔法の事、死の花をなかったことにする事とか……こちらの情報を色々聞かれましたが最低限しか話していませんよ」

「…………」


 嘘はついていないが、蓮花の裁量の「最低限」がどの程度なのか分からない曖昧な表現だ。


「最低限がどの程度なのか言ってみろ」

「最低限というのは言葉のままです。ゴルゴタ様とメギドさんがギリギリ上手くやってるという話程度は言いましたけど、それ以上は言ってません。あまり喋るとゴルゴタ様に殺されますのでと言って回避しました」


 その言葉にも嘘はない。

 ギリギリ上手くいってるなどという情報すら渡されるのはかんに障ったが、白羽根どもに全く何の情報も渡さず交渉や話はできなかっただろう。

 白羽根どもは救世主思想があるくせにかなり閉鎖的であるから手ぶらの蓮花を中に入れたりしなかったはずだ。


「当たり前だ。白羽根どもにこちらの情報を渡すな」

「ゴルゴタ様が嫌がると思ったので、詳細な情報は漏らしてません」


 そして最後の肉を口に入れて咀嚼し終えた蓮花が話題を変えた。


「それより、天使族がくるまでにノエルさんと話したいのですが」

「勝手に話をしろ」

「取り巻きのふたりが邪魔なのでどうにかしてもらえませんかね。あれこれ口を挟まれると話しづらくて仕方ありません」


 ノエル単体と話がしたいようだが、何をノエル単体と話すことがあると言うのだろうか。


「暴力で排除すりゃいいだろ」


 簡単にゴルゴタは暴力で解決しようとするが、ノエルらにそれは悪手以外の何物でもない。


「少し話すだけでいいので、暴力はちょっと……ノエルさんは伴侶の人を傷つけられたら豹変しそうですし。かといって、私みたいなのと2人で話すのはあのふたりが許さないでしょうし、困りました」

「風呂や手洗いの時なら流石に1人になるだろう。一緒に風呂でも入ったらどうだ」


 私の提案に明らかに嫌そうな表情をした。


「なんでよく知らない相手を前に裸になって無防備にならないといけないんですか。普通に嫌ですよ。それに誘い方とか分かりませんし。ほぼ面識ないですし」

「なんだお前、意外と人見知りとかするタイプ?」

「違いますよ……そんなことで回復魔法士できませんから……」


 回復魔法士としては優秀だろうが、個人的な付き合いはかなり苦手そうに見えるが。

 とはいえ、ノエルと個人的な話をするとは思えない。


「ノエルと何を話すのだ。他に私たちに報告するべきことがあるのではないか。かなり長い間白羽根どものところにいたようだが」

「……天使族の方も、メギドさんたちには黙っているなら情報を与えるとのことだったので、言えませんね。守秘義務がありますので」


 蓮花は無表情で私を真っ直ぐに見つめた。

 この後に及んで守秘義務だなどと言いだした事に私もゴルゴタも驚きを隠せない。


「はぁ? テメェどっちの味方なんだよ。あんなクソどもの肩持つってのかぁ……?」


 蓮花の頭を乱暴に掴んで無理矢理蓮花を自分の方に向き直させる。


「私はゴルゴタ様の味方ですよ。ゴルゴタ様の不利益になるようなことはしませんから。信じてください」

「お……おう……」


 ゴルゴタは蓮花の言葉にたどたどしく返事をする。

 自分の味方だと言われて少し戸惑っている様子。

 一応これも嘘ではないようだが、相変わらず具体的な内容ではないので信用はできない。


「おい、私に対しては弁解はないのか。そんな言い分は到底納得できないのだが」

「ありません」

「は?」

「ねぇよなぁ? キヒヒヒヒ……」


 ゴルゴタは私に対して勝ち誇ったような表情をした。

 本当にこの女と話していると腹が立つ事この上ない。


「お前、この女の手の上で転がされてる自覚がないのか」


 私がゴルゴタを侮蔑の目で見ると、ゴルゴタは余裕そうな表情で答える。


「馬鹿が。転がされてねぇよ」

「見事に転がされているぞ」

「しつけぇなぁ……仮に転がされてても、俺様は別に悪い気分じゃねぇぜぇ……? 兄貴じゃなくて俺様を選ぶのはいい選択だ」

「…………」


 こうも盲目的になれるものなのか。

 私にはゴルゴタの感覚が全く理解できなかった。


「すみません、やることが多いので失礼します。ノエルさんとなんとか2人になれるようにしてみます。もう少し待っててもらえますか」


 食器を手早く片づけた後、蓮花は欠伸をしながら食堂を出て行った。


「……最後の警告だ」

「ンだよ」

「あの女だけはやめておけ」

「あぁ? 俺様が蓮花ちゃんにとられて悔しいのかぁ……? 気持ち悪ぃなぁ兄貴ぃ……ヒャハハハッ」

「もういい。好きにしろ。後で泣きついて来ても私は関知しないからな」

「けっ、誰がテメェに泣きつくかよ」


 結局、私とゴルゴタは蓮花から話を聞くことができなかった。

 しかし、ここに数日後に白羽根どもがやってくることだけは分かった。


 ――一体何のために?


 またノエルを利用しようと考えているのなら浅はかな考えだ。

 あの無属性魔法はノエルの魔力だけあっても発動しないからだ。


 ――タカシの身体も今は普通の身体であるし、あの無属性魔法に耐えられるとは考えられない


 白羽根どもはゴルゴタがいる以上、手荒な事はしないはずだ。

 どうあがいてもゴルゴタに勝てないことを『時繰りのタクト』で嫌という程知っている。


 あらゆる可能性を考えるが、やはり私の考えは推測の域を出なかった。




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