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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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話し合いはできない。▼




【魔王城 回廊】


 私は『時繰りのタクト』が使えなくなったという絶望的な知らせを聞いて一瞬唖然とした。

 ゴルゴタの気まぐれな行動によって、あっさり手段の一つが失われた。


 ――死神が言っていたのはこのことか……


「まったく……」


 私はゴルゴタが消えていった方へ足早に向かった。

 ゴルゴタは恐らくどこかで苛立ちをぶつけるように暴れているはずだ。


 私が気配探知をするまでもなく居場所は分かる。

 案の定、ゴルゴタは魔王城の広間にある巨大な柱を拳で殴り続けていた。

 柱はゴルゴタの拳によって砕け散り、今にも崩れ落ちそうだった。


「クソッ……クソがっ!!」

「やめろ、ゴルゴタ」


 私はゴルゴタを制止した。

 しかしゴルゴタはまるで私の声など聞こえないかのように拳を振り続ける。

 砕けているのは柱だけではなく、ゴルゴタの拳も砕けているようで表面の皮膚が壊れ、血が飛び散っていた。


「やめろと言っているだろう」


 私がゴルゴタの腕の部分に水を集めてその衝撃を多少やわらげると、その水をすぐさま振り払って散らし、怒りに満ちた目で私の方を睨みつけた。


「ゴチャゴチャうるせぇから手っ取り早くぶっ壊してやったんだ……なんか文句あんのか!?」

「それは何の解決にもならない。『時繰りのタクト』の発動に死神の血が必要だ。身体がなくなったら使えなくなった」


 私は冷静に強い口調でゴルゴタにそう告げる。

 私の強い口調に更に苛立ったのか、ゴルゴタはギリッ……と歯を強く噛んで私を鋭い目つきで睨みつけた。


「そんな物騒なもん、使えねぇ方がいいだろ!」


 これでもまだゴルゴタは理性的な方だ。

 理性のかけらも残っていなかったら今すぐ私に飛びかかって来て、アザレアたちを殺し、そして蓮花が尋ねている天使族の元に行き大暴れしているはず。


 大体予想はつく。

 死神になんでも見透かされ、相当厭味でも言われたのだろう。


 あるいは蓮花の事か……


「何を言われた。死神に蓮花のことを言われたのか」

「うるせぇ!」


 ゴルゴタは声を荒げて叫んだ。


「『死神の咎』が俺様にある限り死神は俺様に逆らえねぇ……だからちまちまめんどくせぇ事しなくてもいいようにぶっ殺そうと思ってよ……」


 ゴルゴタはそう言って、もう傷が再生している拳を強く握りしめた。


「……まぁいい。『死神の咎』を持つ者が死神を攻撃しても殺せないという基本的なことが分かった。死神はこの件に関してどんな反応だった?」

「ちっ……俺様が身体をぶっ壊してもずーーーーーっと喋ってやがった……うぜぇったらねぇぜ……『死神の咎』があろうがなかろうが関係ねぇじゃねぇかよ」


 ガリッ……ガリッ……とゴルゴタは治った手の指を噛み千切って更に血を流し続ける。


「死神が恐れる『死神の咎』の別の使い方があるのではないかと考えたのだが」


 私はそう言ってゴルゴタにそう尋ねた。

 この状況を打破するためには新たな可能性を探るしかない。


「あ? 別の使い方ってなんだよ、もう俺様に使っちまっただろ。もう一個あんのかよ?」

「いや、違う。お前の身体から『死神の咎』を剥がした後、それを“元々使わなかったこと”にしたら再度取り出せる可能性はある」


 私は無属性魔法の可能性をゴルゴタに話す。

 そう簡単なことではないだろうが、可能性としては十分にありえる。

 それだけ無属性魔法の汎用性は高い。


「仮に取り出せたとして……俺様から取り出したソレをどうやって使うんだよ」


 ゴルゴタは私の言葉に疑いの目を向けた。


「それは分からない。『死神の咎』をよく見たことがないからな、それを私たち総出で解析し、死神が本当に何を恐れているのか突き止めたい」


 『死神の咎』の能力の秘密を解き明かすことができれば、死神を倒すための新たな手がかりが見つかるかもしれない。


「俺様が不死じゃなくなったら戦いに不利になるだろ」

「今のうちに不死ではない身体に慣れておけ。自傷癖もこの際に治せ」

「もう70年もこの身体なんだぜぇ……今更慣れねぇよ」


 ゴルゴタは投げやりにそう言った。

 普通の身体でなくしてしまったのは私の責任だ。

 すぐに再生するせいで自傷癖も悪化した。

 今更普通の身体に慣れろというのも無理かもしれないが、いずれは『死神の咎』を剥がすのなら慣れなければいけない。


「それに、俺様が仮に死にかけてもあの人殺しが治すだろ……キヒヒヒ……」


 ゴルゴタは自障壁を治せと言っている私の言葉を無視して、自分の指を噛んで血を流した。


 ゴルゴタの瞳は狂気に満ちている。

 蓮花の持つ回復能力を自分の不死の能力の代わりとして当てにしているらしい。


 それだけ依存しきった関係は危険だ。

 それにあの女がゴルゴタを裏切らないという保証はどこにもないのだから。


「……それで、死神は相変わらずアザレアらの死で協力すると言っているのか?」

「あぁ……そうだぜぇ……? 散々ぐちゃぐちゃ言いやがって……俺様だってあのクソ野郎どもを早くぶっ殺してぇってのに……クソがっ!」


 ゴルゴタはさらに強く自分の指を噛んで血を流していた。

 その傷もすぐに再生して流れた血だけを残す。


「兄貴がモタモタして全然あいつらを殺さねぇからって、散々俺様に厭味言われたぜぇ……」


 ゴルゴタは私を睨みつけるが、三神が出てくる可能性があることを私ができる訳がない。

 それはゴルゴタも理解しているはずだ。

 だからアザレアらを殺したいと思っていても手を出さない。


「……人殺しはまだ戻ってきてねぇのかよ」

「移動時間を考えても、まだしばらくは帰ってこないだろう」

「人殺しがいねぇと、マジでつまんねぇ」


 ゴルゴタは溜め息交じりに投げやりにそう言っている。


「奇遇だな、私も今これといってすることがない。今後のことをお前と話したい」

「ンだよ、今後の事って」

「全て片付いた後のことだ」


 三神を倒した後、兄弟としてどうするべきなのか、姉のこと、魔王城で暮らすのかなど私はゴルゴタと話がしたかった。

 普段は蓮花について回っているから私たちだけで話というのはなかなかできない。

 それに、三神を倒したら終わりではない。

 そこから私たちの生活は始まるのだ。


「そんな先のこと、今考えたって仕方ねぇだろ」


 ゴルゴタは私の言葉を遮り、私に背を向ける。


「待て。後々揉めたくない。時間のある時に話し合うべきだ」

「今揉めてぇのかよ……? 先の事なんざ考えたって無駄なんだよ。どうせその時は何もかも変わってるんだからよぉ……」


 結局ゴルゴタはあ類程度苛立ちは収まったのか、室内だというのに翼を羽ばたかせてこの場から去って行った。

 天使族のところへ行くとは考えにくいが、あ類程度ゴルゴタの行動を監視する必要がある。


 私はゴルゴタの後ろ姿を見つめながらため息をついた。

 私たちはあまりにも長い時間を別々に過ごしすぎた。


 その溝は私が思っているより深いようで、埋めるにはあまりにも時間がかかりそうだった。




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