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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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レインの夢が叶いました。▼




【メギド 鬼族の街】


「無属性魔法が実在するとは……」


 蘭柳らんりゅうが無属性魔法についての話を聞いて感慨深い表情をしていた。

 無属性魔法については蘭柳も詳しくは知らない模様。


「今まで無属性魔法の使い手について殆ど言い伝えがないのは無属性魔法に適性があってもそれを使う魔力がなく使えなかったのかもしれないな」

「……考えたくはないが、事象を強制的に書き換えなかったことにされている可能性もあるが」

「考えたくないが、魔法の特性的にあり得ない話ではないな。実際に『時繰りのタクト』がそれを現実にしている」


 しかし、それは観測できない。

 現に私が何度か時を戻って未来を変えているが、他の者には分からない。

 白羽根が何度も『時繰りのタクト』を使って書き換えても私には分からなかった。


「どれだけ過程が変わっても結果は収束するのではないかとすら感じている。そうなるともう根源を絶つしかないな」

「……簡単に言うが、そんなことできるのか」

「できることをするしかない」

「またいつでも来なさい」


 蘭柳はまだ名残惜しそうだったが、私はノエルらと共に魔王城に戻ることにした。


「魔王話長いよ」

「お前たちこそ世話になった蘭柳に礼を言え」

「ノエルは言ってたよ」

「レインが一番礼を言え。随分食事の面で世話になっていただろう」

「そんなこと言われても、種族が違うし仕方ないじゃん。僕だって自分で自分の食べ物とってきてたし」

「レイン、後ででいいからちゃんとお礼言わないと駄目だよ」


 ノエルがそう言うと、レインは初めて申し訳なさそうに「はーい」と返事をしていた。


「じゃあ、行こう! 僕の背中に乗って!」


 レインは初めてノエルを背に乗せて飛ぶことに胸を躍らせていた。

 今のレインの背は、ノエルを乗せてもまだ余裕があるほどに大きく成長していた。

 もう肩に乗せることはできない。


 ノエルはそんなレインの背にゆっくりと乗る。


「重くない?」

「重くないよ。しっかり掴まっててね」


 レインはノエルを乗せ、大きく羽ばたいた。

 翼からは風を切り裂く力強い音が響き、簡単に空へと舞い上がっていく。


「僕、初めて誰か乗せて飛んだ! 初めてがノエルで嬉しい!」

「もう僕がレインを抱えて飛ぶことはなくなっちゃったんだね。ちょっとそれは寂しいかも」


 レインとノエルは二人にしか分からない世界に入っている。

 とはいえ、ここにはレインが運ばなければいけないもう一人がいる。


「レイン、もう一人乗せられるのか?」

「大丈夫だよ」


 予定ではノエルと伴侶を二人乗せて魔王城に行く予定だ。

 私では運ぶことは出来ない。


「降りて来い」

「もう少し待ってよ」

「あと5分くらいにしろ。後でいくらでもノエルを乗せて飛べるだろう」

「はーい」


 その後、レインが下りてきてノエルとノエルの伴侶を背に乗せた。


「重いよ! なんで僕がこいつまで運ばないといけないの!? 魔王が運んでよ!」

「私は食器に食材が乗っているもの以上の重量のものは持てない」

「魔王も僕みたいに身体鍛えてよ!」


 レインは不満そうにそう言った。


「ご、ごめん。僕重たいよね」


 ノエルはレインに申し訳なさそうにそう言った。


「ノエルは重くないよ! この人間が重いんだ!」

「うるせぇ! 本物の龍は人間2人くらい簡単に運べるんだからごちゃごちゃ言うな」

「僕はまだ身体が成長しきってないし」

「鍛えてそれを凌駕しろ」

「黙っててよ!」


 文句を言い合いながらもレインは2人を乗せて羽ばたいた。

 やや苦しそうではあるが、2人を乗せてもなんとか飛ぶことができている。


「私も長距離を翼で飛ぶのは疲れる。レイン頼んだぞ」

「途中で休憩させてよね」


 空間転移で一瞬で移動すると人間であるノエルとその伴侶がもたない。

 手間はかかるがこの方法が安全だ。


 飛び始めて数分、ノエルは全身に風を受けて遠くを見つめた。


「凄く風が気持ちいい」


 ノエルは嬉しそうにそう言った。


「いつでも僕がノエルを乗せるからね」

「私も乗せてもらいたいものだ」


 私がそう言うとレインは即座に嫌そうな顔をした。


「なんで魔王を乗せないといけないの。嫌だよ」

「私が肩を貸してやったことがあっただろう」

「魔王はノエルとは全然違う。魔王は嫌々乗せてただけじゃん」

「なら、嫌々私を背中に乗せろ」

「自分の翼があるでしょ!」

「飛ぶのは疲れる」


 そんなやり取りと少しの休憩を何度か挟みつつ、私たちはやっと魔王城に到着した。




 ***




「ひでぇ荒れ様だな、大丈夫なのかよ」


 ノエルの伴侶は魔王城の惨状に驚いている。


「全て終わったら、本格的に修復するつもりだ」


 今どれだけ直してもゴルゴタがすぐに破壊する。

 修繕してもしても追い付かないので今は放置している状況だ。


 一先ずはノエルたちを空いている部屋に案内した。


「とりあえずここにいろ。私は状況を把握してくる」


 ノエルたちを部屋に案内し終えた私はタカシの部屋に向かった。


「入るぞ」


 部屋に入るとタカシはベッドでぐったりしていた。

 隣にはセンジュが座り世話をしている。

 センジュは点滴をタカシにつけ、様子を観察していた。


「おかえりなさいませメギドお坊ちゃま」

「その阿保の様子はどうだ?」

「タカシ様もあの連中もしばらくは無理そうですね」


 センジュが言う「あの連中」とはエレモフィラたちのことだろう。

 エレモフィラとタカシの身体が回復するまでは、ノエルの力を借りることはできない。


「不足分の魔力を補う分の存在を連れてきた。鬼族の食糧危機を救ってやったぞ」

「左様でございますか。そうしましたらわたくしがおもてなしの食事をご用意します」


 しかしこのまま時間を無駄にすることはできない。


「蓮花はどこにいる?」

「蓮花様は自室におられます」


 ノエルたちの事をまず話すのは蓮花とエレモフィラだ。

 魔法式の構築をするのにノエルの魔力量を計算に入れる必要があるだろう。


 私は蓮花の部屋を訪ねた。


「蓮花、魔力を補うやつを連れて来たぞ」


 と声をかける。

 しかし暫く返事はなかった。

 扉を開こうと私が手を伸ばしたとき、扉がカチャリ……と少し開いて蓮花が顔をのぞかせる。


「今、集中してるので後にしてください」


 声は冷たく張り詰めていた。

 そしてそのまま扉を閉め、私をしめだした。


 ――相変わらず、何を考えているのか分からないやつだ


 報告、連絡、相談の一切がない。

 しかし意外だ。

 ゴルゴタがべったりはりついていると思ったが、ゴルゴタは蓮花の魔人化が一部なかったことになったという一大事にも顔を出さない。


 私は蓮花の部屋を後にし、ゴルゴタがどこにいるのか気配探知をしてみた。


 ――……庭?


 ゴルゴタの気配は西側の庭の辺りにあった。

 そんな場所で何をしているのかと思いながら、私は西側の庭に向かった。


 すると、ビュンッ……! という鋭い空気を切る音が何度も聞こえてきた。


「…………」


 様子を見てみると、ゴルゴタはセンジュから借りた妖刀五月雨を使って、庭で試しに使っていた。


 ――珍しいな、奴が練習とは


 ゴルゴタの向かう先には切り倒された木々が散乱している。

 ゴルゴタが使ってもこの威力だ。

 私が魔力を込めて振るったらどうなってしまうのか。


「どうもしっくりこねぇな……」


 魔力コントロールが得意ではないゴルゴタにとって、魔力が刃になる妖刀五月雨はあまり使い勝手がいいものではないだろう。


 私がゴルゴタに声をかけようと思ったところ、その場にいたゴルゴタ以外の存在に気づいた。


 ダチュラだ。


 ――懲りない女だな……


 ダチュラはゴルゴタの様子を、影からじっと見守っている。

 ゴルゴタへの執着は簡単には断ち切れないものらしい。


「ダチュラ」

「!」


 ゴルゴタに意識を向けていたダチュラは私の呼びかけに驚いて私の方を見た。


「何をしているんだ」

「えっと……別に……」


 誤魔化そうとしても無駄だ。

 ゴルゴタを見ていた事は明白だが私は敢えてそう尋ねた。

 しかし、私の想定していた通りダチュラは歯切れが悪くそう言うだけで明確な答えは返ってこない。


 そんなダチュラの存在を無視して、私はゴルゴタの方へと向かった。




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