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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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アザレアは毒気を抜かれた。▼




【メギド 魔王城 タカシの部屋】


「えーと……俺は珍しい種類の魔法が使えるけど使えなくて、それを補うために俺の身体を改造してなんとかしようとしてる……ってこと?」


 私が長々と説明したにもかかわらず、タカシの口から出てきたのはほぼ何も理解していない要約というにもおこがましい言葉だった。

 私はこの男の理解力のなさに、もはや呆れることすらできなかった。


「殆ど重要なことが抜け落ちているが、まあその通りだ」


 私がそう答えるとタカシは目を輝かせた。


「その無属性魔法を使えば、凄い事ができるってことだよな?」

「そうだ。無属性魔法の力はお前の想像を遥かに超えるものだ」


 タカシは私の言葉に興奮したようだった。

 この単純な男の脳には、「凄い事」という言葉しか残らなかったのだろう。


「で……俺、いつまでこのままなの?」


 興奮も束の間、タカシは不安そうな声でそう言った。

 目隠しをされている上に、自分の身体にとてつもない違和感もあるのだろうからそれが気になっても仕方ないだろう。


「今、蓮花らが無属性魔法の魔法式を作っている最中だ。そう長くはかからないだろう」


 私はそう答える。

 無属性魔法の魔法式は既存の魔法ではない分時間はかかるだろうが、あの4名は元々なかった魔法を作ってきた実績がある。

 人間というのは魔族と違ってそういった才能に秀でている事は認めよう。


「なんか……無性に腹が減るんだけど……」


 タカシはそう言って自分の腹をさすった。

 心なしか腹の虫が鳴っているようである。


「消費エネルギーが1.5倍くらいになっているだろうから当然かもしれない」


 アザレアがタカシにそう言う。

 タカシの身体に増設された肉体がその分のエネルギーを消費しているのだろう。


 私は自分の胸ポケットから『現身の水晶』を取り出し、センジュに連絡した。

 ライリーに渡していたが、しっかりその後センジュに持たせ直した。


「はい、どうされましたかメギドお坊ちゃま」

「阿保が厚かましくも空腹を訴えている。食事を運んで来てくれ」

「阿保じゃねぇし! それに厚かましくもってなんだよ、こっちは結構飲まず食わずだぞ!」

「今私とアザレアと阿保がいる」

「かしこまりました」


 センジュはそう言って通信を終了させた。


「阿保じゃなくてタカシ!」

「そんなことは分かっている。私の頭脳をあなどるな」

「メギドが頭いいのは分かってるっての!」

「……仲が良いんだね」


 私たちを見てアザレアはそう言った。

 仲が良い訳ではない。


「こいつは私の家来だ」

「そ、そうなんだ?」

「平和になったら私の髪飾りを作れと言ってある」

「髪飾りか……故郷で聞いたけど、魔王メギドは美しいものに目がないって」

「そうだぜ。メギド、服屋で1時間以上も買い物してるんだ。持たされる俺の身にもなってほし――――」


 私は喋っているタカシの口を喋れないように魔法で塞ぐ。

 目を隠された上に口まで塞がれるとは災難だ。


「んーーんーーー!」

「こんな混沌とした世界を望んでいない。美しいものに囲まれて優雅に暮らしたい。それが私の目標だ」

「…………」


 アザレアはタカシが何か主張しているのを気にしているようだったが、特に私たちの関係性ややり方については何も言ってこなかった。

 暴力的なゴルゴタと違い、私は穏便に事を済ませるとアザレアも分かっているはずだ。


 しばらくしてタカシの部屋の扉が軽く叩かれ、センジュが料理を運んできた。

 運んできたワゴンの上には豪華な料理がいくつも乗っている。


「お待たせいたしました」


 センジュはテキパキとテーブルに料理を置いていく。

 タカシはベッドから動けない状態なので簡易的なテーブルをベッドの上に置き、そこに料理を置く。


 しかし、アザレアの方には粗末なパンと水だけが置かれた。


「では、失礼いたします」


 センジュはアザレアに一瞥いちべつもくれず、すぐに部屋を去っていった。

 何も言わなかったが、アザレアたちの世話を焼くのはどうしても嫌だということが見て取れる。

 何も出さないよりはマシだが、それでも私たちとの食事と比べると明らかに態度が違う事はアザレアも感じ取っていた。


「……流石に謝罪じゃ済まないのは理解してるけど……申し訳なさもあるよ」


 アザレアはセンジュの去った扉を見つめながら、そう呟いた。

 しかし、その先の言葉を発することは絶対に許さない。


「謝罪を口にしたら魔法を叩き込むぞ」


 私がそう言うとアザレアはバツが悪そうに黙った。


「私も母を殺されたことは許している訳ではないからな」

「…………」


 アザレアは、私の言葉に、何も言い返すことができなかった。


 私は食事が運ばれてきたことであるし、タカシの沈黙をといてやった。

 タカシは目隠しで何も見えていないが、目の前に食べ物があることは匂いで分かっているようだった。


「っていうか、よく考えたらなんで利き手につけたんだよ!? 不便でしょうがないよ!」


 タカシはこの空気を変えようとしたのか少しわざとらしく大きな声でそう言った。

 利き手の右腕には醜悪な肉体が連結しているため、右手が使えない状態になっていた。


「左手で食べろ」

「また左手で食べるのかよ……」


 タカシはスプーンを手探りで発見し左手でなんとか食べようとするが、目隠しもあるし慣れない左手では上手く食べられないようだった。

 凡人の感覚ではこうなってしまっても仕方ないか。


「ちょ、もう気絶しないから目隠し外していい? マジで何もできないんだけど」

「不器用なやつだな」

「頼むって……腹減ってるんだって……」


 あまりにも情けない声でそう言うので、私は渋々了承した。


「気絶したら、しばらく点滴にするぞ」

「えええ……分かったよ」


 その時アザレアが立ち上がり、タカシの右腕に布を被せて肉塊ごと隠した。


「これで大丈夫だ。というか、最初からこうすれば良かったのでは……?」

「目隠しをしたのは私の嫌がらせだ」

「嫌がらせなのかよ!」


 タカシは左手で目隠しを外した。


 タカシの視界が開けると目の前のご馳走に目を奪われる。

 しかし、すぐにアザレアの質素なパンと水に気づき「え? それだけ?」と驚いた。


「それだけじゃすぐ腹減るだろ。俺の分やるよ」


 タカシはそう言って慣れない左手で食材を運び、アザレアのパンに次々と肉や魚を食べ合わせなど考えず乗せていく。

 アザレアはその光景に呆気に取られていた。


「ありがとう」


 戸惑っているようであったが、アザレアはタカシに礼を言った。


「いいってことよ」


 私はそんなタカシを横目に食事を始めた。

 やはりセンジュの料理は安定していて美味しい。


「…………」


 相変わらず食べづらそうにしているタカシを見かねたのか、アザレアはタカシに声をかけた。


「俺が食べさせようか……?」


 と提案した。


「いやぁ……それはちょっと……」


 タカシは最初嫌そうにしていたが、冷めていく料理を目の当たりにして結局アザレアに食べさせてもらうことにした。


「美味い……ありがとう」

「おかずをくれたお礼だよ」

「前もメギドに接着剤で悪戯されたときに、右手使えなくなってこんなことになったことあって、そのときもこうやって食べさせてもらったの思い出すよ……」

「あれはお前の危機管理能力のテストだ」

「どう考えても悪戯だろ! なぁ、酷いよなアザレア」

「そ、そうだね……」


 タカシはアザレアに気さくに話しかける。

 アザレアはタカシの言葉に戸惑っていたが、タカシのペースに呑まれて少し和やかに食事をすることができた。


 そして、私たちが食事を終えた頃に再びタカシの部屋の扉が叩かれた。

 入ってきたのは蓮花たちだった。


「試作の魔法式ができました。確認してください」


 丁度いいタイミングだ。




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