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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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争いはなくなりませんか?▼




【メギド 魔王城 タカシの部屋】


 蓮花とエレモフィラは、ライリーとイベリスと共に無属性魔法の魔法式を完成させるため、書庫に行って黙々と研究を続けている。


 天才たちが総出であたったとしても簡単に作れるものじゃない。

 無属性魔法の魔法式を作ったとしても、それが正しく発動するかどうかは実際に試してみないと分からない事であり、空論である。


 タカシの増設された肉体が本当に理論通りに動くかも試さなければ評価できない。


 蓮花もエレモフィラも、私には並ばない程度であるが常識を超えた知能を持つ。

 ライリーとイベリスもまた、それぞれの分野で優れた知識と技術を持っている。

 この4名が協力すれば不可能を可能にできるかもしれない。


 私も協力すれば更なる可能性が広がるだろうが、私は言わば出来上がったものの最終チェックの係だ。

 けして楽をしようとしている訳ではない。

 むしろ私の最終チェックの工程が一番責任が重く、多くの判断をしなければならない。


 ゴルゴタは魔法式の研究は退屈だとどこかに姿を消してしまった。

 蓮花に普段ベッタリなゴルゴタも頭脳労働はしたくないのもあるだろうし、その場にいたらあれこれ指示を出せば邪魔になる。


 アザレアは私と共にタカシの部屋にいた。

 アザレアの表情は先ほどの蓮花とのやり取りで少し信念に迷いが生じたようだった。


 「……」


 ゴルゴタに巧みに取り入ったように、アザレアにも巧みに取り入る事もあの女にとってはそう難しくない事だろう。

 例え全く信念が違ったとしても、善性の強いアザレアにどうアプローチすればいいか理解している。


 私はタカシのベッドを挟み、アザレアの向かいに座っている。


「故郷で聞いたよ。魔王メギドは70年の平和を実現した素晴らしい魔王だって」


 アザレアは静かに私に語りかけた。


「争いごとを好まないだけだ」


 平和が続いていたのは、ただ単に私がこの世界を支配するに足る力を持っていてもそうしなかったからというだけだ。

 私の気分一つで崩壊する世界を果たして“平和”と呼ぶのだろうか。


「俺も争いごとは好きじゃない。でも否応なしに争いが起こる。この現状を変えたいんだ」


 アザレアの言葉には強い意志が込められていた。

 しかしそれは無謀な話だ。


「争いは価値観の違いによって起こるものだ。いつの時代もなくならない。この世界に存在している限り、それは永遠に続く」


 私はアザレアの理想を簡単に否定した。


「現に、先ほど蓮花ともめていただろう。私も蓮花の倫理観にはついていけないが、奴の選択肢は考慮に値する。蓮花の言う通り少なからず犠牲は出るものだ。綺麗事では済まされない。その犠牲を最小限に抑えるには、奴のやり方が効率が良い場合もある」


 私は蓮花の肩を持つような言い方をしてしまったが、それは事実だ。

 蓮花のやり方はかなり残酷だが、確実な方法を選んでいる。

 偏執へんしゅうがあっても理論は無視しない。


「犠牲にされた側のことを考えると、胸が締め付けられるよ」


 アザレアはそう言って胸を押さえた。


「彼女もいろいろあって、あぁなってしまったんだと思うから」

「あれに同情したら最後だぞ」


 私は警告するようにそう言った。

 同情してもそれを食い物にする女だ。

 実際にライリーは蓮花にいいように利用されている。

 勇者連合会暗部の司令官という立場をほぼ放棄し、私情で蓮花に利用されて満足そうにしている。


「あの女の闇に吞まれる。お前の光ではあれを照らせない。救えない人間はいる。あれはその救えない人間の一人だ」

「……そういう救われない人にこそ手を差し伸べるべきだと思っているけどね。切り捨てるのは簡単だけど」

「やめておけ。あっという間に利用される。環境のせいもあるかもしれないが、あれは根が悪そのものだ。お前が期待しているように変わりはしない」


 私の言葉をそれでも信じたくなさそうなアザレアは深刻そうな表情をしていた。


 アザレアは考えが甘すぎる。

 勇者とかいう無職の中ではかなりマシな方だが、理想論で話している。

 善性だけで世界が成り立っていたら王など必要ない。


 私たちが話をしている中、タカシが小さく呻き声を上げた。


「ん……うーん……」


 私たちは一斉にタカシの方を向いた。


 タカシが次に目覚めたときのために私はすでに手を打っていた。

 顔には布でできた目隠しがつけられている。

 これは私の提案だ。

 再び自分の姿を見てショック死でもされたら、それこそ元も子もない。


「なんだ……? なんの感触だこれ……?」


 タカシは再び目覚めた瞬間に、自分の身体から伸びるもう一つの肉体に気づいたようだ。

 目隠しをとろうと手を伸ばすが、それを私が止める。


「見るな。またショックで気絶されたら困る」


 私がそう言うと、タカシは混乱したようだった。


「な、なんだよ!? 俺に何したの!? なんかメチャクチャ変な感触がする! なんだこれ!?」


 タカシは分身体をぎこちなく動かす。


「変に動かすな」

「そんなこと言われても! なんだか分かんないけど、変な感覚があって勝手に動いちゃうんだよ!」


 タカシは私の言葉を聞かず、さらに分身体を動かしてしまう。

 蓮花がゴルゴタに言った方便だったのかもしれないが、完璧に再現されていない分身体は傷つきやすいことは明白だった。


「大丈夫、落ち着いて。力を抜いて」


 アザレアがタカシに優しく語りかけた。

 アザレアの声には不思議と人を落ち着かせる力がある。

 タカシはアザレアの言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻したようだった。


「……マジでどういう状態なの?」


 タカシは私とアザレアに説明を求める。

 私はタカシに状況を説明しようと口を開いた。


「お前は無属性魔法が使える素質があるが頭と体がそれに対応していない。埒が明かない為、強硬手段に出ることにした結果がこれだ」

「俺からも説明するよ。今、貴方の身体の改造されたコピーを肉体に連結させて、疑似的に魔法発動の条件を満たした身体を作ったんだ。今、無属性魔法の魔法式を蓮花やエレモフィラたちが作っている」

「俺、ずっとこのままなの……?」

「大丈夫。必ず元の身体に戻すよ。安心して」


 アザレアにそう言われたタカシは不安げな表情をしながらも、アザレアの話をしっかり聞いている。


 まだ魔法式が完成しているとは思えない。


 私は多少落ち着きの取り戻したタカシに対して、ざっくりと何故こうなったのか説明することにした。


 理解できるかは別の話だが、私はタカシに説明し始めた。




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