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【メギド 魔王城】
タカシの意識がはっきりと戻ったのは、ゴルゴタと話した翌日のことだった。
センジュから報告を受け私は早速タカシの部屋へ向かう。
部屋に向かっていると蓮花とゴルゴタが途中で合流した。
「早速挨拶とはご丁寧だな」
「ゴルゴタ様が殺さないようにする係で同行しているだけです」
「殺さねぇって。キヒヒ……」
含み笑いをしたゴルゴタに不安を禁じ得ないが、私も同行するので最悪の事態は避けられるだろう。
それにセンジュもいる。
バンッ!
とゴルゴタは勢いよく扉を開けた。
中を見るとタカシの部屋につくとライリーがタカシの状態を確認していた。
ライリーは相変わらず庭での作業に不満を抱えているようで、疲労の色を隠せない。
「よぉ、クソ猿」
ゴルゴタがニヤニヤとタカシに声をかける。
見慣れない顔ぶれに囲まれたタカシはベッドの上で明らかに緊張している。
その表情は不安と恐怖で固まっていた。
「な、なぁ……こいつって人間を滅ぼそうとしてるゴルゴタ……だよな?」
タカシはゴルゴタを指さして、私に助けを求めるように視線を向けた。
タカシの頭の中ではまだ事態が整理できていないのだろう。
ゴルゴタの存在がタカシの呑気な日常によほどそぐわないと見える。
「オイ、口のきき方に気をつけろよ……俺様に向かって“コイツ”だぁ……? 腕引きちぎるぞガキ」
ゴルゴタは鋭い爪の指をボキッ……と鳴らしながらタカシを威嚇する。
タカシは身を縮こまらせてビクッと肩を震わせた。
情けない。
情けないのもあるが、私に対しては平気な表情をしているのにゴルゴタに対して委縮しているところに腹が立つ。
威厳があるのはどう考えても私の方なのに。
そのゴルゴタの隣に立つ蓮花に、タカシの視線が移る。
「それにあんた……どうしたんだそれ……なんていうか、第二形態?」
以前蓮花と会った時とは変わり、蓮花は魔人化している状態だ。
第二形態というのは訳が分からないが、タカシの価値観でいうとそういう状態なのだろう。
その言葉に蓮花はうんざりしたように視線を逸らした。
応える価値のない質問だと判断したのだろう。
「私は自分のありがたい仕事に戻るよ」
ライリーはこの居心地の悪い空気に耐えかねたように、厭味を言って部屋を出ていった。
「メギド、状況がつかめねぇんだけどどういうこと? 説明足りなすぎるだろ」
タカシはせわしなく手を動かしながら私に訴えかける。
彼の頭の中は、疑問符でいっぱいになっているのが見て取れた。
「説明してもお前には理解しきれない」
「断片的にでもいいから! ゴルゴタとどういう感じになって今どうなってるの!?」
「俺様の名前を気安く呼ぶんじゃねぇクソ猿ぶっ殺すぞ!」
「ゴルゴタ様落ち着いてください」
落ち着かないタカシは居心地の悪さからか、なんとなく自分の服のポケットなどをまさぐり始めた。
その拍子にポケットから何かがコロリと床に落ちた。
それは、私が以前渡した『七色の種』だった。
「落ちましたよ」
蓮花が床に落ちた種を拾い上げ、タカシに渡す。
「まだ持っていたのか」
とっくに捨てていたかと思っていた。
以前魔法の練習で努力していたが自分に才覚がないことは分かり切っていたはず。
それでもまだタカシはそれを持っていた。
タカシは少し気恥しそうに答える。
「別に……ちょっと練習してたんだよ」
「やってみろよクソ猿」
ゴルゴタが面白がってタカシを挑発する。
「…………」
「なんだぁ? 結局……口ばっかでなーんもできないクソ猿かよ。それが元魔王に目ぇかけられていい気になってんのかぁ? あぁ?」
「っ……!」
「元じゃない。私が現魔王だ」
「まだ言ってんのかテメェ! ボケっとしてんじゃねぇ、やるなら早くしろクソ猿!」
タカシは全く乗り気ではなかったが、ゴルゴタがあまりにも馬鹿にするように煽ってくるので、やむを得ずやってみることにした。
タカシは『七色の種』を手のひらに乗せ、集中しはじめた。
目を閉じ、魔力を注いでいるようだが種は微動だにしない。
ただの石ころのように、静まり返っている。
「ヒャハハハハッ! ンだよ、やっぱ魔法も使えねぇカスじゃねぇか!」
ゴルゴタはさらにタカシを馬鹿にしていつもの調子で笑い始めた。
指をさして明らかにタカシを馬鹿にしているのが見て取れる。
ゴルゴタに笑われてタカシは悔しそうに手の上に乗っている種を見つめていた。
「まさかとは思いますが……少し身体を調べてもいいですか」
その様子を見ていた蓮花がタカシに声をかけた。
「なぁんか気になることでもあったのかぁ……? 見たままのグズじゃねぇのかよ」
「確認するだけです。腕を出してください」
「あ……あぁ……」
蓮花はタカシの身体にそっと触れ、魔力を探る。
しばらくすると、珍しく蓮花の目が信じられないものを見たかのように見開かれた。
「!」
その驚き方は、この女にしては前代未聞なほどだった。
いつも淡々と無表情な蓮花が驚いていることに私が驚く。
「驚きましたね」
「「なんだ?」」
私とゴルゴタは同時に疑問を口にした。
ゴルゴタもまた、蓮花の様子に何かただ事ではないものを感じ取っているようだった。
「無属性です」
蓮花の言葉にタカシは多少期待していた様子だったが、落胆してがくりと肩を落とした。
「やっぱり俺って何の魔法も使えないのか……」
タカシは自分の不甲斐なさに両手で頭を押さえて蹲った。
だが、蓮花は静かにその言葉を否定する。
「違います。『無属性』の魔法が使えるということです」
――何……?
その言葉に部屋の空気が一変した。
「なんだよ、無属性の魔法って……どゆこと?」
この場で何も分かっていないのはタカシだけだ。
私はゴルゴタとセンジュに目くばせすると、センジュもまた目を見開いて驚きタカシの方を見つめていた。
「無属性魔法は、物事を“なかったことにする”ことを可能にする魔法属性です。ただの伝説かと思っていましたが、本当に実在するとは……」
「え……?」
呆れる。
この阿保は全く何も理解していない。
なのにこの場の誰よりもお驚いていることに私は呆れるしかない。




