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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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奪い合いになりました。▼




【メギド 魔王城 ゴルゴタの部屋】


 ゴルゴタの部屋は以前に見たときよりも片付いていた。


 ただ、片付いていると言っても足場がない程散らかっていたレベルから、洗濯に出すものをまとめて積み上げてあるような衣類の山ができていたり、部屋を破壊した破片がまとめられていたりする程度だ。


 ――自分で掃除をしたのか……?


 あるいは、蓮花がある程度掃除したか……と、考えたが蓮花の自室を見れば散らかり放題になっていたので蓮花が片づけたとも考えづらい。


 唯一綺麗で形がしっかり残っていたのはテーブルだ。

 私はそのテーブルの上に果実の盛り合わせを置き、椅子の汚れを軽く魔法で綺麗にしてから座った。


 そのテーブルは窓際にあり、窓から薔薇の庭が見える。


「これ……兄貴が作ったのか? この前みたいに毒とか入ってないだろうなぁ……?」


 私が料理を作ったときのことを言っているのなら心外だ。

 料理に毒など入れたことはない。

 ただ、調味料の組み合わせと調理方法が悪かっただけだ。


「見た通り果実を剥いただけだ」


 センジュ監督のもと作ったものだ。

 私は手で自分で皮を剥いた果実の一つをつまみ、食べて安全であることを証明する。


「私が食べる為に作ったのではない。謝意を示そうと……」


 この私がわざわざ手を汚し、手間と時間をかけ、お前の為に作ってやったのだ……等と言ったら火をつける行為になってしまいかねない。


 別の言葉を探さなくては……と、考えるがテキトーな嘘をついてもゴルゴタには見破られる。

 何故魔道具をつけていないゴルゴタが私の嘘を見抜けるのか。


「話し合いをするのに軽食があった方がいいと思ってな」

「……あっそ。で? 何を話すってンだよ。天気の話なんかしやがったらぶち殺すぞ」

「そう殺気立つな。私も日進月歩でも変わっていこうと思っている。三神を倒したいからな。お前も口よりすぐ手が出るところを変えていかなければ()()()()にはならない」

「だから、何を話そうってんだよ。別に俺様はてめぇと話なんかしたくねぇ。こんなもんわざわざ作って……ばっかじゃねーの」


 そう言いつつも、ゴルゴタはセンジュが剥いたと見た目で分かる果実を雑多に片手で掴みあげ、口に放り込んだ。

 こういう場合は一つずつ個々の果実の味を楽しむものだろうが、ゴルゴタは口に入ればなんでもいいと言わんばかりの食べ方をする。


 そのくせ私が手間をかけて剥いたものは確実に避けているのが腹が立つ。


「悪いと思ってるのは本当だ。今までの事も、先ほどの事も」

「どーだか……」

「お前とろくに向き合ってこなかった結果だ。我々が長命種としても70年は長かった」

「……俺様が抜け出さなかったら今もてめぇは俺様を幽閉してたはずだぜぇ……俺様がたまたま入ってきたダチュラを使って出ただけだ……そうだろ?」


 そうだろう。

 何も起きなければ私がゴルゴタを外に出したとは考えにくい。


「そうだろうな。現にお前は外に出て1番初めに始めた事は人喰いアギエラの復活による人類殲滅計画だ。結果、私が伝えた通り真の勇者が現れ、お前は殺される。白羽根どもの話を聞く限り、必ずだ」

「あんな地下牢にずっと幽閉されるよりも、やりたいことやって殺される方がマシだ」

「……私は……」


 ゴルゴタが殺されるのは避けたい。


 だが、それを言うのは結局私の要望を強要していることになってしまう。


 しかし、それがこの話の根幹こんかんなので避けて話すことはできない。


「ンだよ」

「70年前から今までもずっと……もう異形の姿の姉とセンジュを除いてはたった1名の家族だ。それを失いたくないと考えていたし、今もそう思っている」

「……は……はぁ!? 気持ち悪ぃんだよ!」


 案の定ゴルゴタは嫌悪感を示した。

 とはいえ、私に対するむき出しの敵意ではない種類の嫌悪感だった。


 私はどこまで踏み込んで話していいか加減が分からなかったが、牢屋に入っていた下りから話すのなら何故牢屋に入れておいたのか話さなければならない。


 ゴルゴタは私の事を全く信用していない。

 信用を取り戻すことは容易ではないと理解している。

 それだけの仕打ちをゴルゴタにした。


 だからこれより下はない。

 もう壊れた関係だ。


 今更、いびつに貼り直してどうする。

 機嫌を今更取ってどうする。


 どう頑張っても私たちは埋めきれない軋轢あつれきを抱えたまま三神に挑むしかないのだ。


「私は悪いと思っていないと言っていたな。確かに悪いと思っていない。お前を閉じ込めなかったらお前は人間に殺されていた。母上を失ったばかりの7つの私に弟まで失う選択を今更迫るな。何度同じ局面になったとしても私はお前が生きる道を選ぶ。お前はさっさと死に急いでそれで気が済むだろうが、残された者の事を考えろ。センジュは私やお前が人間に殺されたら復讐の鬼になると当時言っていたのだぞ。どうでもいい存在だから閉じ込めた訳じゃない。大事に思っていたからこそお前を長い間閉じ込めた。それがどれだけの軋轢あつれきになろうと、お前が私よりも先に死ぬ事など許さない。お前の一家族として絶対にそれだけは譲らないからな」


 早口に、途中から感情的になって声を荒げながらも私はゴルゴタにそう言い放った。


「…………」


 言い終わった後、私は結局取り繕う事はできなかったと感じたが、それでいい。

 取り繕った態度は無意味だ。


「こんな手間をかけてお前に果実の盛り合わせを作って機嫌を取ろうとして、私はどうかしていた。これは私が食べる」


 果実の盛り合わせの皿を私が自分の元に引き寄せようとしたところ、ゴルゴタが皿に乗っている果実を両手で全て乱暴に掴みあげて皿の上から取り上げた。


「は? これは俺様のモンだ。兄貴の分はねぇから」


 ゴルゴタの手の中でグチャグチャになっている果実を見て尚更腹が立ってきた。

 気の遠くなるような作業でひとつひとつ皮を剥いた苦労が台無しだ。


「お前は作り手の苦労も知らずに……腹に入れば全部一緒のように考えているところが納得いかない。一つずつ味わって食べろ」


 自分の手に握られている果実をまるで絞るように握りつぶしてその汁をゴルゴタは飲み干し、搾り取ったカスを乱暴にその辺に捨てた。


「言わせておけば好き勝手言いやがって。結局なーんにも変わってねぇじゃねぇかよ。俺様の考えも全部度外視して自分主体で話を進めやがる」

「それはお前も同じだろう」

「はっ……俺様達が息を合わせて協力して妖刀を使うなんざ土台無理な話だったんだよ。だったら……」


 グシャ……


 もう片方に持っていた果実も握りつぶしてゴルゴタはその搾り汁を飲み干して、カスをまたその辺に放り投げる。


「無理に合わせる必要はねぇ。俺様達はそれぞれが個々のプレイだ。足引っ張たら負けってダケ……そうだろぉ……? 兄貴ぃ……? キヒヒヒヒヒ……」

「妖刀『五月雨』を使うに当たって私だけでもお前だけでも神は倒せないんだろう?」

「あぁ、俺様じゃ魔力の制御が上手くいかねぇ。でも魔力に頼りきりの兄貴じゃ腕力が足りねぇから振り抜いて切るのは無理だぜぇ……」


 だから協力するという話だったはずだ。

 個々の采配でどうにかなるとは思えない。


「どっちがどっちに合わせるとか、そーゆーの俺様達には無理だ。だからどっちかに合わせるんじゃなくて妖刀を中心に合わせんだよ。俺様達が主体じゃなくて、妖刀を主体に考えんだよ。妖刀の魔力と力が足りてればいいんだろぉ……? 兄貴がどっかのタイミングで魔力を全開に込めて、切れ味が落ちる前に俺様がそれを掴んでぶった切る。俺様達が短期間に歩み寄りやら話し合いやらしても時間の無駄だ。相手を殺すことだけ考えればいい。ただ足を引っ張るなってだけの条件だ。簡単だろぉ……? ヒャハハハッ」


 何の作戦でも何でもない呆れた言い分に、私は頭を抱えながら皿の上に残ってる果実を取ろうとしたが、それすらゴルゴタに一瞬で持っていかれた。


「おせぇ。大層な事ぬかしてた割には兄貴の方が実力不足だろぉ……キヒヒヒ……」


 スパンッ……ゴトリ。


 果実を持ったゴルゴタの腕を魔法で切断し、果実を魔法で自分の手の中へと誘導した。


「要するに、神の前で妖刀の奪い合いをしながら戦うと……こういうことだろう?」

「チッ……そんな食い物の為に相手の腕をわざわざ落とすかよ……イカれてやがる」

「イカレてるくらいでないと三神の相手などできないものでな」


 シャリ……


 と、私は手の中の果実に口を一口、みながら、笑みを浮かべているゴルゴタを凍てつく眼差しで見つめ返した。


 どれだけいびつだろうが、心底信用していないのと同時に互いに期待している。


 足を引っ張るのは自分ではなく、お前だと。




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