石板を発見しました。▼
【メギド 魔王城 宝物庫】
宝物庫など暫く入っていなかった。
魔王城の宝物庫と言うものの私にとって価値にあるようなものはない。
金銀財宝があるが、私にとって高価なだけで実用性のないものは私にとっては価値を感じない。
そんな宝物庫の中はセンジュが定期的に掃除と整頓をしているのか小綺麗で埃っぽさもなく不快感のない場所であった。
棚が沢山並んでおり、ひとつひとつが規則正しく並んでいる。
その中から私は石板らしきものを探した。
暫く私は宝物庫の中の整然と並ぶ棚を見ていて、やっと石の塊を発見した。
石の塊は3つ程あった。
――これが詠唱魔法の石板か……?
内容を読んでみるが、一つ目は歴史の石板であった。
魔王の世襲制が始まった際に魔神が干渉し、『血水晶のネックレス』を手先の器用な鬼が作って悪魔族の魔族統一が始まり、何度も戦争が起きたことが書かれている。
もう一つは薬らしきものの作り方の石板だ。
今見返しても、昔の薬らしきものは毒と紙一重でろくな内容ではなかった。
何か隠語が隠されているかと私は様々な読み方をしたが、やはりそれは薬もどきの作り方の石板だ。
――ただの骨董品だな
そしてもう一つの石板には古代詠唱魔法の一説が書かれていた。
『我は制約を課す者。何者もこれを覆すこと能わず。我の血を以て花の呪印を刻み、絶対服従の制約を課す。対なる――――……』
石板は割れていて途中から読めない。
――対なる……ということは、この文面からして絶対服従から逃れる為の詠唱魔法か?
それに一言出てくる「花」と言う言葉。
花の呪印とは死の花の事を指すなら、これは死神に関する詠唱魔法。
後半の対になる詠唱部分が分かれば絶対に対抗策になるはずだ。
そして、これの半分をイベリスが知っている可能性がある。
忘れているだけで記憶のどこかにあるなら、蓮花の言っていたダイブとかいう怪しげな手法も有効かもしれないが……今は蓮花は魔法を正常に使うことができない。
全く手がかりがなくどうしようもなかった三神の件がここにきて解決の糸口が少しずつ出てきた事に、多少の高揚感すら湧いてきた。
この半分の石板の片方を持っていそうな国王オリバーの元に行ってみようか。
元の城の方に先に行くべきか。
いや、情報源のオリバーの元に行ってから情報を得てからの方が効率的だ。
以前ベータの町に行った時にそこに一時的に避難していたので、まだそこに居ることを願って私は割れた石板を持ってベータの町へと向かった。
いくら昔の物であるとはいえ、石板は分厚く持ち歩くにはかなり重いと感じた。
***
【メギド ベータの町】
案の定というべきか、人間の国王らはほぼ完全にベータの町に根を下ろして生活している様子であった。
以前私が来た時よりも更に人間たちが増えている。
主に勇者とかいう無職連中がますます集まって国王を守るという体制をとっているらしい。
大変無駄な事だ。
あの無能で卑怯な人間の王を、無能で卑怯な無職が守るというのは笑える冗談である。
「おぉ、魔王様。お久しぶりです!」
以前国王の側近なのか、勇者なのか判別できないが1人の人間が私を1番に発見してかけよってきた。
「何か御用でしょうか」
「あの無能な王か、その側近に聞きたいことがあってな」
「私は国王の側近をしておりましたので、私で分かる事なら何なりと。どのようなことでしょうか」
丁度良く側近が私に近づいてきたのか、それとも側近になるほどの腕前だからこそ私にいち早く近づいてきたのか。
何にしてもあの無能な王よりも有能そうな人間だ。
「この石板の欠けた半分を探している。ここにあるか、それとも城にあるか確認しにきた」
私が割れた石板を見せると、その側近は石板をまじまじと見つめた。
「詠唱魔法の石板ですか。ここにはありませんね。城の方では数個ありましたが」
「その石板はこの続きの石板か?」
「すみません、内容までは把握しておりません。ですが石板はいくつか城の中の宝物庫の中にあります」
やはりこんな古ぼけた重い石板など、逃げる際に持ってきていないか。
だが、城の中にいくつかあるというのならそれを虱潰しに探してみるしかない。
実際のところ、手がかりらしいものは現状これとイベリスらしかないのだから。
「分かった。宝物庫の鍵があればもらいたいのだが」
なければ魔法でこじ開ける事になるだけだ。
鍵がなくてもそれほど困る事でもないが、中の物まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるので、鍵があるならその方が安全と判断する。
「急いで逃げてきたので、鍵は開きっぱなしになっていたと思います」
「そうか。ならいい。ところで無能な王はどうしているんだ?」
「オリバー国王は“牢屋の中の方が安全だ”等と言って自ら籠っていますよ」
相変わらず頭が悪いとしか思えない。
牢屋の中が安全だなんて、魔王城にある特別な地下牢以外ありえない。
ただの金属の棒で囲まれた空間が魔族の強襲に到底耐えられるはずがないのだから。
「長生きしないな。それでは王家が途絶えるのではないか?」
「オリバー国王が失脚した場合はルクス様のご子息が国王の座につくことになるでしょう」
「私はルクスの血筋の者が国王になった方がいいと思うがな」
「大きな声では言えませんが、同感です。城の場所は勿論ご存じですよね」
「無論だ。魔王城から北にあるガンマの町であろう」
オメガ支部の少し南にあるガンマの町が拠点であったはずだ。
魔王城からの距離を考えるとベータの町もガンマの町もそう大差ない。
だが、城を真っ先に落とされると踏んで敢えてこんな片田舎まで逃げてきたのだろう。
まったく、みっともない限りだ。
城を放棄して逃げるなんて。
「左様です」
「他にこの石板を保有している者がいるかどうか知らないか? それか、はじまりの村のはじまりの勇者の墓の周りに埋めてある石板について知っている事はあるか?」
「はじまりの村の勇者の墓の周りの石板ですか……そう言えば書庫に写しが保管されていたと思います。どちらかというとオメガ支部の方がそういった資料が多いでしょうけども」
ガンマの町から少し北に行くとオメガ支部がある。
どうせ城まで行くのならついでに見てきてもいい。
蓮花の記憶の転写で粗方どんな場所なのかは把握しているが、自分の目で確かめなければ分からない事もあるだろう。
「分かった。情報提供大儀であったな」
「あの、一点よろしいでしょうか……?」
「なんだ?」
国王の側近はおずおずと私に頭を下げながら伺ってきた。
「また、メギド様が魔王となって魔族の統治をされるのですか?」
「……いや、天使族が魔王になりたがっていてな」
「天使族がですか?」
「どうなるかは分からないが、天使族が魔王になったら暫く混乱が続くだろう。どのような統治体制をとるかは分からないが、私が統治するより完璧な統治などありえない」
「…………」
私の返事に側近はがくりと肩を落とした。
あの白羽根どもがどのように統治するのかは私には関係のない事だ。
白羽根どもが救世主となってどのような世界の統治をするか分からないが、綺麗事で魔族がまとまるはずがない。
特に、異世界に行くなどと言っている悪魔族が失敗した際に再び戦争にならなければいいのだが。
「あの白羽根どもは人間をそう悪くはしないだろう。天使が魔王の座についた暁には真っ先に交渉にくるはずだ。そのときにできるだけいい条件をもらえるように少しは白羽根に媚びる術を国王に覚えさせた方がいいな。できなければ別の国王を立てよ。最初の交渉が肝心だ。失敗すれば相当な冷遇を受けることになる」
「……かしこまりました。ありがとうございます」
――まぁ、白羽根も今までの歴史から人間を奴隷化したり極端な冷遇はしないだろうがな
とはいえ、気位の高い白羽根に対して私にしたような傲慢な態度をとればルシフェルは機嫌を損ね、どれだけの不遇を受けるか分からない。
――それは私が心配することではないがな
白羽根がどう世界を統治するのか、そんな先の事はまだ考えている余裕はない。
まずは三神について石板の情報集めが先決であるため、私はガンマの町へと空間転移することにした。




